ニュースリリース

NEWS RELEASE

2011(H23)年度 第29回研究助成金受領者を決定し、贈呈式を開催しました。

 


 

平成23年度 第29回研究助成金受領者を決定し、贈呈式を開催しました。
――「特定研究助成」は、バイオミメティクス(生体の機能と構造の模倣)で受賞――

2012.03.08
公益財団法人 矢崎科学技術振興記念財団

 
公益財団法人矢崎科学技術振興記念財団(理事長:尾崎 護、所在地:東京都港区)は平成23年度第29回の「研究助成金」受領者16名「国際交流援助」受領者16名「矢崎学術賞」受賞者1名を決定しました。
 
本財団は、昭和58年以来、科学技術の推進を目的として「研究助成」事業を行ってまいり、「エネルギー」「新材料」「情報」の3分野を対象領域としています。研究の独創性に重点を置いて選考される「一般研究助成」(助成金200万円)と、特に若手研究者を対象とした「奨励研究助成」(同100万円)、および平成12年から特定テーマに関する「特定研究助成」(同1,000万円)を行っています。また、国際研究集会に出席し、研究発表をする際の渡航費を「国際交流援助」事業で助成しています。
 
今年度は、「一般研究助成」には75件の応募があり、審査の結果、吉村 哲(ヨシムラ サトル)秋田大学大学院工学資源学研究科附属環境資源学研究センター准教授はじめ5名に決定しました。
「奨励研究助成」は、69件の応募の中から、蛍光灯など弱い光でも発電するのが特徴の色素増感太陽電池など光関連の応募が多かったなか、井改 知幸(イカイ トモユキ)金沢大学理工研究域物質科学系助教はじめ10名が選定されました。
 
「特定研究助成」は、領域a「生物の機能や構造を情報伝達、省エネルギー、材料などの新機能創生に活用する技術」および、領域b「少子・高齢化・多国籍化社会(グローバル化社会)に適合した革新的ものづくりに供する提案型新技術」のテーマに、計32件の応募があり、バイオミメティクス(生体の機能と構造の模倣)の分野で応募された渕脇 正樹(フチワキ マサキ)九州工業大学大学院情報工学研究院機械情報工学研究系准教授に決定しました(以下の研究概要資料参照)。
 
また、「矢崎学術賞」は、過去に当財団から研究助成を受けた研究者の中から、優れた成果をあげた研究者に贈っていますが、奨励賞は柳田健之(ヤナギダ タカユキ)東北大学未来科学技術共同研究センター准教授に決定しました。功績賞は、該当者がありませんでした。
 
贈呈式は、3月8日午前11時30分より、東京都港区の東京プリンスホテルにて開催しました。
 
「研究助成」「国際交流援助」「矢崎学術賞」の各対象者の詳細は、研究助成・受領者をご覧ください。
 
尚、研究助成を受領した各研究の紹介文をご覧ください。
 
 

「特定研究助成」受領者の研究概要

蝶の翅上に形成される三次元渦構造の発達過程とそれが生み出す揚力/推進力特性の連関機構の解明

九州工業大学 渕脇正樹

 
近年,世界各地で自然災害が頻発し,倒壊した建物などからの被災者の発見・救助は困難を極めるだけでなく,原子力発電所など人間の侵入が容易ではない場所での大事故を引き起こすこともある.そのため,世界中で災害救助支援ロボットが開発されているもののその使用範囲は限定され,例えば,汚染水に浸された場所ではその技術を発揮できないケースもある.その一方で,2001年のアメリカ同時多発テロ以降,欧米では,不審者の監視システム技術(テロ対策)の開発が盛んに行われ,特に,環境に調和した昆虫を模倣した飛翔ロボットの開発への注目が高まっている.これらの背景の元,安全・安心の社会の実現ための小型飛翔ロボット(Micro-Air-Vehicle(MAV))の開発が欧米を中心に盛んに行われてきた.しかしながら,その多くは,羽根が回転するローター型のロボットであり,その構造は部品点数も多く,複雑になるだけでなく,その飛翔形態は昆虫とは全く異なるため,欧米の目指す環境に調和した監視技術システムへは不向きである.そのため,これらのロボットの実用化は足踏み状態にある.
 
これまでに,蝶の飛翔メカニズムを流体工学的にアプローチし,その研究成果を基盤として,尾翼を有することなく2枚の翅の羽ばたき運動だけで自律飛翔するロボットの開発に世界で初めて成功し,国際特許を取得するまでに至った.この飛翔ロボットは,総重量1.9gと超軽量であり,蝶のようにヒラヒラと舞うように飛翔するだけでなく,直進,旋回および上昇飛翔が可能である.今後,実用化を目指す上で,さらに複雑な飛翔の実現とカメラやセンサを搭載するための高揚力発生の実現が重要となる.そのためには,「何故,蝶は飛翔できるのか?」をさらに明らかにすることで,羽ばたき飛翔に重要な要素を見つける必要がある.特に,翅まわりに生成される流れ(渦)が飛翔に必要な揚力および推進力にどのような影響を与えているかを詳細に明らかにする必要がある.これまでの研究では,主に,蝶の翅(はね)の動きや離陸飛翔する蝶の翅まわりの流れの様子を明らかにし,しなやかに変形する翅の羽ばたき運動とそれにより翅上に作り出される渦輪を明らかにしてきた.
 
本研究では,飛翔する蝶の翅上に形成される流れ(渦)の三次元構造とその挙動を明確にするだけでなく,渦の要素(回転・せん断)を正確に捉え,また,渦同士の干渉・合体・分裂までの過程を定量的(数値的)に明らかにし,これらが蝶が生み出す揚力および推進力に与える影響およびこれらの関連性を明らかにする.すなわち,蝶の翅がどのような動きの時に,どのような流れ場を形成し,どれほどの揚力および推進力を生み出すのかを明らかにする.これらの結果を基盤として,離陸,急旋回,ホバリングなどの複雑な飛翔,また,センサやカメラを搭載するための高揚力/推進力を生み出す羽ばたき飛翔ロボットの翅の設計指針およびその運動機構の最適化を目指すことが本研究の目的である.
 

 

(2012/03/08)