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2015/11/04

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
相樂 隆正
サガラタカマサ
分光電気化学、解析的電気化学、生物電気化学、動的組織体電気化学、ファラデー相転移、吸着層組織変換、電位駆動創発現象、ビオロゲン、電位変調反射分光法、金ナノ構造体、超薄液膜制御、蛍光顕微電気化学
ホームページ http://www.cms.nagasaki-u.ac.jp/lab/douteki/index.html
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2004年度 一般研究助成 新材料 長崎大学 工学部応用化学科
研究題名 電気化学制御界面におけるテーラーメイド分子組織メゾスコピック構造の動的可逆変換

訪問記

最終更新日 : 2015/11/03

訪問日:2015/10/20
訪問時の所属機関 長崎大学 大学院工学研究科 物質科学部門 界面機能科学分野 訪問時の役職 教授

長崎大学・相樂隆正先生を訪ねて
  先生は2004年度に一般研究助成を受けられ、助成研究のその後の進展も含めて研究内容を幅広く聞くことができました。内容が多岐に渡り、また詳細にご説明いただきましたが、理解不足もあり、質量共に充分紹介できないことをお詫び致します。先生の研究は物理化学に近い電気化学で、現在電気化学の研究の主流が電池・キャパシタ分野ですが、先生はむしろ基礎研究に力を入れています。対象は、以前から手掛けているタンパクなどの生体分子、ナノ粒子、有機物質、ポリマーなどです。ポリマー自体を直接作ることは少ないですが、小さい分子を組み合わせて色々な分子集合組織、吸着層などを作り、それを電極電位により制御するのが、一貫した研究理念です。電荷授受反応により対象物質の酸化還元が起こり、分子間の相互作用が変わります。また、電子移動がなくても電極近傍では電場が分子に強く作用して分子の向きの変化などが起こることがあり、その相互作用により分子の動きをどこまで制御できるかを研究しています。分子集合組織の動きの研究は、究極には「分子ロボット」の実現です。
  ここ数年力を入れてきたのはビオロゲンに関する研究とのことです。ビオロゲンとの相互作用が丁度よく、分子を動かしたり止めたりしやすいことから、電極に高配向グラファイト(HOPG)を使います。手法としては、電極の表面に可視光を照射して反射率の変化を測定(ER:エレクトロリフレクタンス法=電位変調紫外可視反射分光法)すると、50万分の一程度の反射率の変化を測定できるようです。単分子層より少ない分子が表面で変化する、配向が変化するのが見え、ただどういう状態にあるのかではなく、それが動くのが見えるのが特徴だそうです。
  また、助成研究を機に電極表面を蛍光顕微で観ることもスタートしました。世界でもこれを実施している研究室を数えると片手で足りるとのことです。ER法は一個一個の分子がどうなっているかまでは識別はできませんが、集団として分子が傾いているとか、電子移動がどの位の速さなのか分かります。蛍光顕微は、光学限界のため数μm位までしか電気化学環境下では見ることができませんが、ただ面白いのは分子が電極金属に近づくと、分子の蛍光が出なくなり、遠ざかると蛍光が元の強さで出るようになります。単に二次元的な変化だけでなく縦方向の変化の情報を含んでいますので、そこをうまく抽出しますと、液滴が立ち上がる・立ち上がらない、そういう所が見えてきます。分子の集団を電位で動かす研究を進める時、単に二次元方向だけではなく三次元方向に動かしたい、その時、蛍光顕微で縦方向の変化をみるというのは有力な手法です。まだまだ研究途上で、測定法としては可能性がかなりありますので、もっと高度化したいとのことです。蛍光顕微そのものは日本では先駆的な研究者が多く、その技術で日本はトップレベルだそうで、電気化学系にもこの高度な技術を導入したいとのことです。
  最近の研究で、(111)面を表面とした金電極で、ビオロゲン分子のサイクリックボルタムグラムから2つの電位で2回構造が変わり、この2つの電位の外側では分子が並び、その間の電位では並んでいないことを分子像で撮ることができました。一個一個の分子が拡大すると見えます。一方の貴な電位ではイオンの座布団の上に分子が並び、電位を卑方向にすると、この並びが崩れますが、再度もう一方の卑な電位で、この座布団なしで再度整列します。これは何回も繰り返せます。貴な電位で構造変化に伴う電流の立ち上がりは、主に座布団となる塩素イオンの吸脱着による二重層容量変化によるもの、卑な電位では酸化還元による相転移によるもの  だそうです。これら2種類のスイッチングを、最初にトンネル顕微鏡でビオロゲン分子が列を作って並んでいる像だけが得られていましたが、ここ1~2年で、貴な電位では並んだ分子間に隙間があり、また2回の変化で並び方が変わるのが分子レベルで観られるようになった(これは熊本大学の研究室との共同研究が結実した成果)そうです。
  金属ナノ粒子の研究ですが、径が20nm程度の金のナノリングで、このリングの中に巨大分子が入ったとき、光を当てて金にプラズモンを励起しますと、中の分子はプラズモンの電場の影響を強く受け、分子自身のみの分光を増強する増強体になり得る、という予測の実証を目指しています。水中で合成する場合は、コイン状の銀を塩化金酸水溶液に入れることにより酸化還元(置換反応)が起きて、銀が溶解すると同時に銀の周りに金が析出し、元の銀より大きな金のリングが形成されます。増強体になれば、例えば大きなラマン散乱とかが起こります。光エネルギー変換にも使えそうです。
  最近、助教の田原先生と共に力を注いでいる研究は、ビオロゲンを使いイオン液体を作ることだそうです。ビオロゲンはジカチオンであり、側鎖に色々なものを付けられますので、片方をC4にし、もう片方をC7と非対称にすると、液体にすることができたそうです。これの面白いのはイオン液体の構成要素自体が酸化還元することです。ドイツのグループとの共同研究で、酸化状態のときのイオン移動の理解について大きな進展がありましたが、酸化還元に由来する特性については未解明なところが多く、これからの展開が期待されます。
  先生の狙いは、電極電位を制御して作り出す電気二重層のナノの世界、更にそこから誘導される界面張力の変動などから、直接の電子移動に加わる駆動力をも積極的に用いることで、三次元方向に分子組織を大きく動かすことが目標だとのことです。その為に独自のER法、蛍光顕微法なども更に進化させようとする取り組みを感じました。応用を掻き立てるのに充分な基礎研究です。
(2015年10月20日訪問、技術参与・飯塚)