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2016/06/08

Topics研究室訪問記が追記されました

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
七戸 希
ナナトノゾム
超電導,クエンチ,保護,診断,モニタリング,有効電力法,AE,ウェーブレット変換
ホームページ http://www001.upp.so-net.ne.jp/nozomu7/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2007年度 奨励研究助成 情報 岡山大学大学院 自然科学研究科産業創成工学専攻 PDF
研究題名 高温超電導マグネットにおける局所的温度上昇の非接触計測および位置同定に関する研究

訪問記

最終更新日 : 2016/06/28

訪問日:2016/06/08
訪問時の所属機関 岡山大学大学院 自然科学研究科 産業創生工学専攻 電気電子機能開発学講座 訪問時の役職 准教授

岡山大学・七戸希先生を訪ねて
 先生は2007年に奨励研究助成を受けられ、当日は助成テーマである超電導コイルの状態監視システムの研究、先生が取り組まれているもう一つのテーマである単相高温超電導変圧器を用いた小型交流大電流電源のお話もお聞きすることができました。
 最初の超電導コイルの状態監視システムですが、市販の高温超電導線でも200A/mm2と通常の銅線の100倍以上の大電流を無損失で流せ、同じ電流値ではその断面積は1/100以下となり、この超電導線を使って機器を作ると、高効率・小型・軽量機器が実現できます。一般的に超電導線は銀合金の中に埋め込まれ、テープ状をしており、幅が4mm、厚さが0.2mm、断面積1mm2程度のものが多いようです。運転する際に状態監視システムが必要となります。機器の経年劣化などにより、無損失で流せる臨界電流値が低下し、機器を使っている最中に突然電気抵抗が発生することがあります。元々細い線に大電流を流していますので、少しの電気抵抗で高温になり、冷却をしていますので、発熱が冷却を上回れば瞬時に焼き切れてしまいます。そのため、電気抵抗の発生の有無を常に監視し、高温にならないように保護する必要があります。また、コイルのどこで電気抵抗が生じたかの位置の同定は、安全設計上、原因を追究し対策を立てる上でも非常に重要で、助成研究のテーマでした。巻き線に電圧端子を沢山付け、各端子間の電圧を測って判断するしかないのが現状のようです。電圧端子を付けるには、超電導線の絶縁被覆を剥いではんだ付けする必要があり、全体の絶縁特性が悪くなるなどの問題があります。助成研究は、AE(Acoustic Emission)信号の時間周波数解析による温度上昇で位置同定するものです。電気抵抗が発生して温度が上昇しますと、熱膨張による変形が起こり、その過程で摩擦も発生し、この変形や摩擦というものをAE信号、微弱な振動を介して電気信号として捕えます。振動を計測するセンサですので、機械接触させれば計測でき、絶縁被覆を剥がすなど不要で、絶縁特性を下げずに温度上昇を拾えます。一般的には、AE信号は非常に小さく、通常ノイズに埋もれてしまいますので、先生はウェーブレット変換という方法を使って、ノイズとAE信号を周波数帯域で分離をし、AE信号だけを抽出しました。実際にYBCOという高温超電導線を用いたコイルで実証し、劣化部の温度上昇とAE信号の振幅が同期する結果が得られました。ここまでが助成研究です。使っているコイルの材質、サイズとかで決まる固有振動数、温度上昇が大きいときの振動モードなどから、AEセンサで診断する周波数帯域は見積もられるようです。
 その後先生はこのAE信号法を、温度上昇以外の超電導コイルの診断に適用する方法を検討しました。超電導コイルには大電流を流しますので高磁場が発生、大きなフープ力が働き、線が劣化したり、最悪ちぎれたりします。そのため超電導線を保護するために、樹脂でがちがちに固めたりしますが、樹脂も長年使っていると、極低温と常温とのヒートサイクルにより、徐々に耐力が弱まりひび割れが生じ、線が劣化してしまいます。このひび割れの兆候を検出するものです。もう一つが超電導線と樹脂の常温と液体窒素温度での熱膨張率の違いで生じる熱応力による剥離の検出です。実験では、このひび割れと剥離が異なる周波数帯域で現れ、AE信号を周波数解析することで2つの現象を区別できたそうです。また、その違いは現在検討中とのことですが、どうやら固有振動数とか振動モードとかが.関係しているようです。複数のセンサを着け、現象が起きた所に一番近いセンサが先に反応し、その反応する順番とAE信号の伝搬速度から逆算して位置が求められますが、現実のコイルは構造が複雑な上、材質も多く、一筋縄ではいかないようです。そこで考えたのがAE法とは全く異なる非接触電圧計測法で、絶縁物の上から電圧を測る方法です。超電導コイル表面に導電性シートを着け、シート状の超電導線と導電性シートとで絶縁物を挟むような構造になり、いわゆる平行平板電極型コンデンサになります。シートを2つ貼り付け、それをもう一つ別のコンデンサに接続して、そのコンデンサの電圧を測って、その電圧に静電容量で決まる定数を掛けてやれば超電導線の電圧が分るという方法です。逆に絶縁物を上手く利用した方法です。この方法の課題は位置の同定の分解能を如何に高くするかで、当日はその辺の話も聞くことができました。
 今一番力を入れてやっているのが、超電導変圧器を用いた電源の開発です。超電導線の通電特性を測定するためには、電圧は小さくてもよいですが、大電流(200A以上)を流せる電源が必要になります。直流の電源は問題ないのですが、交流の電源の場合、市販のものですと、サイズとか重量がものすごく大きく非常に利便性が悪いという問題があります。電源の構成は、高温超電導変圧器の一次側に低電流可変周波数電源を取り付けて、一次側より二次側の巻き数を小さくして、二次側の方で大電流を得ようとするものです。一次側で周波数を可変にすることで、二次側に色々な周波数の電流を流すことができ、特性をとるのに非常に使いやすくなります。 GFRP製ボビンに超電導線をソレノイド状に巻き、径が小さいものと大きいものの2つ準備し、それを同軸で組み合わせる形で、一次巻き線と二次巻き線を作り、真ん中に鉄心を通すことで変圧器にしています。冷却容器を工夫して巻き線は液体窒素温度に、鉄心は室温のままに保つ構造にします。こうすることで冷却効率がよくなりますし、鉄心は冷やすと鉄損が増えますので、それも抑制できます。実際に作ったものは市販の電源の1/12のサイズになりました。一次側に30Aのピークで電流を流すと二次側に500Aが得られる設計で、変圧器の容量は3kWで、一次側が100Vで二次側が6Vの設計です。現在、二次側を1kAまで増やすことを検討していますが、超電導線を束にしてコイルを巻くと、各線のインダクタンスが異なり均一に電流が流れないという課題があるとのことです。
 夢の導体である超電導技術の具体的な課題を聞くことができた有意義な訪問でした。(2016年6月8日訪問、技術参与・飯塚)