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2015/07/02

Topics研究室訪問記を追記しました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
村山 憲弘
ムラヤマノリヒロ
資源循環工学、応用鉱物工学、リサイクル、ゼオライト、ハイドロタルサイト、層状複水酸化物、無機イオン交換体、石炭灰、アルミドロス、鉄鋼スラグ、環境浄化、水処理
ホームページ http://www.cheng.kansai-u.ac.jp/Shigen/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2003年度 奨励研究助成 新材料 関西大学 工学部化学工学科 PDF
研究題名 アルミ再生工程で生じる廃棄物の新規再資源化技術の開発

訪問記

最終更新日 : 2015/07/01

訪問日:2015/06/23
訪問時の所属機関 関西大学  環境都市工学部 エネルギー・環境工学科 訪問時の役職 准教授

関西大学・村山憲弘先生を訪ねて
  今回の訪問は過去に助成を受けた研究者をお訪ねして、過去の助成研究テーマのその後の状況、あるいは財団の助成のあり方についてご意見を伺いたいという趣旨で村山先生を訪問させてもらいました。現在助成していない研究者を訪問するのは躊躇致しましたが、その趣旨をメールでお伝えした所、快くお受けいただきました。村山先生は2003年度に『アルミ再生工程で生じる廃棄物の新規再資源化技術の開発』で奨励研究助成を受けられました。当日は助成研究を発展させた鉄鋼スラグから合成した陰イオン除去剤を環境浄化へ適用する研究を説明いただきました。
  研究室のコンセプトは、廃棄物・副産物を有効活用する一つの方法として、簡単な処理によって分離材料を創製し、有害物の分離・除去などの環境浄化に使うのが合理的との考え方で進めています。その手段としての分離工学の活用、また、元々化学工学がベースとなっている学科ですので、実装置化して現場に適用できるよう装置設計を念頭に置いて研究に取り組んでいるそうです。充実した固体/液体の分析装置も研究のベースとなっています。
  先生は最初は多孔性材料や陽イオン交換体の無機合成の研究をやっていたのですが、層状複水酸化物(ハイドロタルサイト・LDH:Layered Double Hydroxide)が陰イオンを捕捉できることに興味を持ち、応用を念頭に置き、助成研究でアルミドロスをターゲットにし、現在の鉄鋼スラグにつながる一連の研究をスタートさせたようです。助成研究はアルミニウムドロスから陰イオン交換機能をもつMg-Al系LDHをつくる研究です。毒性は異なりますが、ppmレベルのヒ素、クロム、ホウ素、フッ素を含んだ希薄水溶液から有害物を除去・固定化する社会ニーズが高まっているそうです。アルミドロスはアルミニウムの溶解時に発生する副産物で、回収し終わったドロスは組成によっては産業廃棄物として管理型埋立処分されます。助成研究は、このアルミドロスとアルミ融解時にマグネシウムを除去する工程で発生する粗製塩化マグネシウムとからMg-Al系LDHを製造するものです。LDHは2価(Ca,Mgなど)と3価(Al、Feなど)の金属イオンの層状の水酸化物であり、層構造の中に正の電荷を持ち、これによって層間に陰イオンを捕捉することで目的とする陰イオンを除去します。
  先生の話では、このアルミドロスの論文や出願特許をみた鉄鋼会社から、溶鉄を精錬する製鋼工程にて発生する製鋼スラグの処理の相談があり、鉄鋼会社との共同研究に発展したそうです。製鋼スラグの主成分はCaO、SiO2、Al2O3、MgOです。同じスラグでも高炉スラグは路盤材、コンクリート粗骨材に使用されていますが、製鋼スラグはCaO成分が多いため、水和反応による膨張から強度不足となることがあり、再利用の幅が狭い状況です。製法にはノウハウがあるようですが、例えば、スラグを酸で溶解し、アルカリで金属イオンを共沈させるというシンプルなものです。試薬レベルの高純度のLDHを目指すのではなく、スラグそのものが持っている酸化物の性質やLDHとともに生成する副生物も利用して、有害イオンを除去しようと考えています。試薬のLDHは高い吸着能をもちますが、環境浄化の分野では高コストのようです。スラグ中のSi、Ca,Feの含有量がLDHの性能に影響します。目指すのは対象とする有害イオンを除去できる低コストの除去剤(LDHを主成分とする水酸化物)です。Feはヒ素と親和性がよく、スラグ中にFeが共存する場合には、ヒ素除去能を高めることができるとのことです。すなわち、用途によりLDHの純度や夾雑物の量を制御することが現実的な対応とのことです。
  先生の研究の難しさは、有害陰イオンを除去・固定化するLDHを製造するのに、莫大な量の廃棄物をいかに利用するかに悩まれているのではないかと感じました。陰イオン除去剤の性能だけの最適化を追求するのではなく、化学工学的手法を駆使し、合成、利用を含めた全プロセスを通して刻々と変化する産業界のニーズに経済性を踏まえた現実解を求める研究の一端を知ることができました。
 (2015年6月23日訪問、技術参与・飯塚)