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2021/06/24

Topics研究室訪問記が追記されました。

2018/10/11

Topics研究室訪問記が追加されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
三輪 真嗣
ミワシンジ
スピントロニクス、スピントルク、磁気ランダムアクセスメモリ、磁気異方性、電圧誘起磁気異方性変化
ホームページ https://miwa.issp.u-tokyo.ac.jp/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2020年度 学術賞表彰 奨励賞 東京大学 物性研究所 量子物質研究グループ PDF
研究題名 界面磁性の電界変調に関する研究
2017年度 奨励研究助成 新材料 大阪大学 大学院基礎工学研究科 PDF PDF
研究題名 界面磁性の電界変調に関する研究

訪問記

最終更新日 : 2021/06/24

訪問日:2021/06/15
訪問時の所属機関 東京大学 物性研究所 量子物質研究グループ 訪問時の役職 准教授

オンラインインタビュー(図1)で、助成対象テーマの内容や研究に対する考え方などをお伺いしました。

先生の研究を簡単に説明してください。
私は、ナノサイズの磁性体を利用するスピントロにクスの研究を行っています。助成テーマはこの磁性体の磁化方向を電気的に制御することを目的としたものです。これは、古くは電磁誘導による電流磁場による制御、2000年頃にはデバイス中に電流を流すスピン流による制御が行われていました。近年は界面への電界印加により磁化方向を制御する研究が行われています。
界面には磁気異方性という性質により、薄い磁石があるとN極とS極は水平方向を向きますが、界面はN極を垂直に立てようとします。この界面の特性を利用して磁性体の磁化方向を制御しようとしています。
しかし、この界面を電界により制御する電圧磁気効果は、原理がわからない、その効果が小さいという2つの課題がありました。そこで、界面で何が起きてるのか機構の解明と大きな電圧磁気効果を有する材料の創成を行っています。

対象となる研究の応用領域を教えてください。
電子デバイスの応用例として、不揮発性磁気メモリMRAMがあります。電圧磁気効果を利用したデバイスは、電流を流さずに、磁性体の磁化の方向を動かすことができるので、従来の電磁誘導やスピン流を利用したものと異なり、消費電力を小さくすることが期待できます。トランジスタは電界効果トランジスタが開発されることで、消費電力が大きく下がったという歴史があります。スピントロニクスデバイスも、将来は電圧磁気効果を利用することで、消費電力を大きく下げることが実現でき、普及に寄与できると思います。

この研究の独自性のポイントを教えてください。
放射光X線設備SPrig-8と非常に薄い膜を高精度に成膜することができる分子線エピタキシー装置を組み合わせることで、その機構を解明することができました。放射光X線設備を利用して、初めてデバイスを駆動させながら動作挙動の解析を行いました。
電圧磁気効果の機構解明では、従来理論をもとに軌道磁気モーメント機構によるものとして実験を進めましたが、それでは説明できないことが分かりました。そこで、それ以外の機構に着目し、新たに電気四極子による機構を発見することができました。これは、従来の概念から外れるもので、従来理論ありきで研究を進めていたら発見できなかったと思います。
結果として、電界をかけると界面にプラスが帯電されて、磁性体の電子数と電子雲のプロファイルが変形することで、界面の磁気異方性エネルギーが変わることがわかりました。そして、このバランスを変えるために、界面の原子の並び方を変えた試料を作製して、目標の界面磁気異方性エネルギー300fJ/Vmまで高くすることができました。(図2)

研究に対する想いを教えてください
おそらく今までの研究者も、放射光X線設備を使ってデバイスを動作させながら観察することは試みていたと思います。スピントロニクスの研究者は、実験室で電界をかけて磁気モーメントがどうなるかという研究をしています。一方、放射光の研究者は、磁性体の研究をしていますが、何かを動作させながら測定するということはあまりしていませんでした。
私はスピントロ二クスの研究者ですが、測定するために放射光の方に色々と教えてもらって勉強しました。この研究では、全く違う分野の放射光の研究者と一緒に研究を行うことができたことがよい成果が出た一因だと思います。
また、研究対象を探すのは、理論的に決定する、あまり考えずにとりあえずやってみて探す、世の中の要求により決定するの3種類があると考えています。どれがいいかは答えはありませんが、この放射光X線設備を用いた実験では、理論的に決定するだけでは成果が出なかったと思います。いろんな人や自分の過去を見て思うのは、手当たり次第ではないですけど、少しだけ理論を知った上で一生懸命に実験するとよい発見に出会える気がします。

研究者になったきっかけは何ですか?
大学時代は、鈴木義茂教授の研究室に入って研究を行いました。研究が面白く、論文も書きましたが、なんとなく就職するものだと思い、大学院修了後に某自動車メーカーに就職しました。そして、4年目だったと思いますが、大学の鈴木先生から助教になる誘いがありました。私はある程度、やることを自分で決めることを好みます。自動車メーカーはとても規模が大きな組織のため、世の中への影響力は大きいですが個人ではあまり多くのことを決められません。大学の教授は、研究室で行うことを比較的自由に決められ、グループの人数規模の割には世の中への影響力があります。これは面白いと思い、大学教授を目指すことにしました。幸いなことに今は東京大学で准教授ながら自分の研究室をもって、自分で決めた研究を行えるので大学の先生になって正解だったと思ってます。

研究の面白いところ、学生へつた言えたいことを教えてください
自分が何かを新しい効果を発見したり、わからなかったことがわかるようになった時に、他の人と話をして共有するのが好きです。そのため、研究者は実験が好きな人や解析が好きな人、論文を書くのが好きな人や講演が好きな人、様々なタイプがいますが私は論文を書いたり講演するのが好きです。
また、学生にも自分で考えて、楽しくやることを望んでいます。私の研究室で人生の一部を過ごした方々が、その後に楽しい人生を送ることを願っています。

後記
今回のインタビューでは、電圧磁気効果の研究以外に量子物質スピントロニクス、キラル分子スピントロ二クスの説明を頂きました。これらの研究もスピントロ二クスの研究者でありながら、それ以外の分野の研究をうまく取り込みながら、研究を行っています。とかく我々は、見えない壁により活動を制限してしまいます。先生のように枠を取り払って新しい技術を他の研究分野の先生と議論しながら研究を進めることは、重要だと思いました。
また、インタビューでは研究をうれしそうに教えていただきました。それを見ていいて先生は研究を楽しんでいると実感しました。将来、電界効果を利用したMRAMがパソコンに搭載されることを楽しみに待ちたいと思います。多くの素晴らしい研究に多くの成果の出ることをお祈りしております。
(矢崎財団常務理事 砂山竜男)

過去の訪問記

訪問日:2018/10/01
訪問時の所属機関 東京大学 物性研究所 訪問時の役職 准教授

 研究室を訪問し(図1)、助成対象となった研究の独自性や先生の研究に対する考え方・想いなどをお伺いしました。

研究のポイントや独自性を易しく説明して下さい
【研究の背景】
 この研究では「MRAM(磁気抵抗メモリ)」と呼ばれる磁気によるメモリの研究をしています。このメモリでは、内部の微小な磁石(磁極)の向きで抵抗が変わる効果「磁気抵抗効果」を利用して、信号のオンオフを記録します。この磁極の向きを変えるためには
 ①電流を流した導線からの磁場      : 微小になるほど大きな電流が必要
 ②スピン流(磁気を持った電流)を流す   : ①よりは少ないが電流が必要
などの方法がありますが、どちらも電流を流す必要があります。
 本研究では、電流を流さず、電圧をかけるだけで磁極の向きを変える方式を研究しています。
【従来研究からの知見】
 金属と絶縁体の界面(図2)の金属1原子層には垂直に微小磁石が形成される性質「垂直磁気異方性」があり、この磁極の向きやすさは電圧をかけると変えられること(「電圧磁気効果」)がわかっていましたが、なぜこの様なことが起こるのかは明らかになっていませんでした。前の研究において、SPring-8(高輝度放射光施設)でこの現象を解析することによって、電圧磁気効果は、
 (A機構) 軌道磁気モーメント機構 : 電子が増減することによる効果
 (B機構) 電気四極子機構     : 電子分布の形が変わることによる効果
の二つの機構の重ね合わせの結果であることが解明されました。つまり、A効果とB効果が同じ方向を向いていない場合、効果が相殺されて電圧磁気効果は小さくなってしまうことが分かりました。
【研究の着眼点と独自性】
 A効果とB効果は界面金属層の「合金の化学秩序(※1)」によって変化することが過去の研究から分かっています。そこで、合金の化学秩序を変化させた合金薄膜を作製し、二つの効果が最大限に重畳する最適な薄膜を見出していくことが、本研究の独創的な材料設計の考え方です。
 また、所望の化学秩序薄膜を作製する原子層成長技術、接合したデバイスの作製技術、そして電圧磁気効果の評価技術は私たちの研究室の独自技術であると言えます。
 ※1:合金成分(例:鉄と白金)が同じ元素で層を成しているか、無秩序に混ざり合っているかの程度

研究活動の面白さは何ですか?
 自分が「一番最初」になれる、ということです。何かの現象を最初に発見するということだけでなく、なぜそうなるのかという現象の解明が最初にできれば、その次のステージの研究にも繋がるのです。

この分野の研究を進められた理由は?
 実は、自動車メーカーで4年間働いていました。その後、修士時代の先生に大学に呼んでいただいて今に繋がっています。企業の開発が良いか、大学の研究が良いかは人によって向き不向きがあると思いますが、私は研究が向いていました。大学での研究は比較的小さい集団の活動ですが、研究成果のインパクトや学生や若手の教育など、世の中に与える影響が大きな仕事ができると思います。また、仕事の全体を見通せて、やることを全部自分で決められる、なかなかこの様な職業はないと思います。

後進の方に伝えたいことは何ですか?
 「一生懸命やればいいことがある」ということでしょうか。がんばっている当時は分からないけど、5、10年くらい経って振り返ると「あのときがんばったから」今に繋がっているということがあるものです。そのときの損得だけで考えると、貴重な経験を捨てることになってしまうと思います。

後記
 三輪先生は、話の途中々々で「MRAMって聞いたことありますか」など、私の理解を確認する配慮を交えながら、できるだけやさしい表現で研究内容を説明してくださいました。理論の深い部分は理解できたわけではありませんが、本研究がMRAMの今後の進展に与える重要性は十分理解できたと思います。また、本研究以外のテーマにおいても、社会実装される道筋とその効果をしっかり見据えたテーマになっている点は、企業での技術者としての経験も活かされているのではないかと感じました。
 これからの社会では物事のあらゆる面でコンピュータが関わってくる時代になってきますが、現在のコンピュータは使えば使うほど、速ければ速いほどエネルギーを消費して多くの熱を出しています。三輪先生の研究から「ほとんど熱の出ないコンピュータ」が使われる日が早く来ることを期待したいと思います。
(技術参与 池田実)

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著作文献紹介
  • T. Kawabe, S. Miwa et al., Phys. Rev. B 96, 220412(R) (2017).
  • S. Miwa et al., Nat. Commun. 8, 15848 (2017).