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2020/11/30

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
佐藤 孝憲
サトウタカノリ
光エレクトロニクス、光電融合デバイス、光集積回路、光共振器、シリコンフォトニクス
ホームページ http://www.eng.u-hyogo.ac.jp/outline/faculty/tksato/index.html
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2019年度 奨励研究助成 情報 兵庫県立大学 大学院工学研究科 電子情報工学専攻 PDF PDF
研究題名 光演算回路のためのシリコンリング光共振器を用いた集積型可変フェーズシフタおよびパワーディバイダの開発

訪問記

最終更新日 : 2020/11/30

訪問日:2020/11/09
訪問時の所属機関 北海道大学 大学院情報科学研究院 訪問時の役職 准教授

 研究紹介文にもとづき、助成対象となったご研究の詳細を伺いました(図1)。以下は主な質疑応答です。

ご研究を始めた契機はなんですか?
 コンピュータ(マイクロプロセッサ)の限界をご存知でしょうか?50年以上も続く性能向上は主に素子(トランジスタ)のサイズを小さくし、集積度を上げることで実現されてきました(微細化)。微細化により、計算にかかる時間を短くし(動作周波数を上げる)、コアと呼ばれる計算機の数を増やすことができました。一方、微細化が進み、素子の大きさは原子数十個の大きさともいわれる物理的な限界に近づいています。また微細化に伴い、本来流れるべきでない電流(漏れ電流)による消費電力の増大も許容できる限界に近づいています。これら制約のため、近年では複数のコンピュータを連携させ計算性能を上げることが主流となり、プロセッサの本質的な性能向上幅が小さくなっています。私は、これらの課題が電子の移動による現在の回路構成にあると考え、電子に代わるものとして光に着目したのが、本研究のきっかけです。

ご研究の独創性を改めてお伺いします
 光を用いた情報伝送では、電子デバイスのような電気抵抗による発熱が無く、電子デバイス特有のRC遅延による律速を受けないという特徴があります。一方、光を扱う回路は大きく、光は貯められないというデメリットもあります。マイクロプロセッサに光回路を導入するための第一段階として回路の小型化が必須ですが、私はこれまで培ってきた、光共振器の設計技術を用いれば光回路の小型化が実現できるのではないかと考えました。一般に広く用いられているシリコン半導体の材料も光ファイバの様に光(赤外線)を通すことが可能です(図2:光導波路)。光が通過する速度は温度によって変わるため、シリコン光導波路に近接して、電気信号でON/OFFするヒータを設けることで、通過する速度や強度を制御することが可能です。それらは位相シフタとパワーディバイタと呼ばれます。光共振器の一種であるシリコンリング光共振器は、位相シフタとパワーデバイダを小型に実現できる特徴があります。シリコンリング光共振器に制御用の電極を設け、通過する光を電気的に制御すれば計算に用いることが可能です(図3)。特に、シリコンリング光共振器をユニバーサル線形光学回路(光信号の振幅を入出力ベクトルとみなす行列積演算回路)として用いている例はなく、私の研究のユニークな点であると言えます。

実用化されると暮らしはどう変わりますか?
 シリコン配線の光信号を入力実数値として、シリコンの物性を電気的に制御することで、光による(光速で)高速な行列演算が可能になります。既に量子計算や機械学習の高速化に向けた研究が進められています。また、新しい研究の方向性として、電波の届く距離が短い5Gや6Gを対象とした光無線通信技術の性能向上も期待できます。

研究者を志したきっかけを教えてください
 大学1年のころ、複数の方に研究者が向いているのではないかと言われたのがきっかけでした。物事を根詰めて考えるのが好き、他の人と違った視点から意見を伝えるのが好きといった性格が、そのようなアドバイスにつながったのかもしれません。自分の好奇心を120%活かせ、長所も活かせる研究者は非常にあっていると感じています。

研究活動の面白さは何ですか?
 研究自体を楽しく感じることはもちろんですが、楽しいだけではだめだという点でしょうか。興味の対象(技術)を世の中の役に立つ形にしなければならない、どういう形でその技術を使えば広く世の中の役に立つかを考えていくことも、研究の楽しさだと感じています。

後進の方に伝えたいことは何ですか?
 色々なことに興味を持ち幅広く知識を吸収することをお勧めしたいと思います。専門性が高くなり、方向性が狭まる前に、得た知識を体系化し広い目線で物事を捉える。いろいろなことに興味を持つことで、周りにある情報を参考にし、プラスアルファの方向性を出していくのが重要だと思います。

後記
 「光で計算するとはどういうことだろう」と、電子回路と光回路が複雑に入り組んだ大掛かりな装置をイメージしていました。既存の製造プロセスが利用可能なシリコン半導体材料で赤外線が伝搬可能と伺い、そのイメージは覆されました。シンプルな構成は『どういう形でその技術を使えば広く世の中の役に立つのか』とおっしゃった先生のメッセージに通じる例だと感じました。先生のご研究成果が暮らしの場で使われる日を楽しみにしています。

(技術部長 鳥越昭彦)

著作文献紹介
  • T. Sato and A. Enokihara, “Ultrasmall design of a universal linear circuit based on microring resonators,” Opt. Express, vol. 27, no. 23, pp. 33005–33010, 2019.