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2020/11/02

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
本倉 健
モトクラケン
二酸化炭素、金属ケイ素、固定化触媒、酸塩基触媒、資源有効利用、ギ酸、メタノール、シリコーン、ソーラーパネル
ホームページ https://www.motokura.org/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2019年度 一般研究助成 新材料 東京工業大学 物質理工学院 PDF
研究題名 金属ケイ素を還元剤とするCO2直接変換のための酸塩基触媒の創製

訪問記

最終更新日 : 2020/11/02

訪問日:2020/10/14
訪問時の所属機関 東京工業大学 物質理工学院 訪問時の役職 准教授

オンラインインタビュー(図1)にて、助成研究テーマの特長や研究における考え方などをお伺いしました。

「CO2直接変換」のねらいと変換ターゲットについて教えて下さい
 地球温暖化抑制のため、2100年の地球の温度上昇を今から1.5℃以内に抑えるためには、2030年までに32Gt相当という非常に多くのCO2を削減していかなければならないと言われています。そのための研究としてCO2を貯蔵する技術など様々な取組みがされていますが、私が取り組んでいるのは触媒を使ってCO2を有用な物質に変換する研究です。
 ではCO2を何に変換するのが良いのか、ということが問題です。昨年Science誌に「エチレンはCO2から作るより化石資源由来から作った方がコストを抑えられる、一方でギ酸の場合は化石資源由来よりCO2から作った方がコスト的に有利」という試算が掲載されました。また、Nature誌には「CO2から生成したメタノールは損失分岐点より有利な側にあり、メタンやガソリン系は不利」だという結果も出ています。有機化学的な考え方からも、CO2を原料にするのであれば「酸素を含む化合物」の方が良いことが説明できます。これらの観点から私たちは、CO2から「ギ酸(HCOOH)」や「メタノール(CH3OH)」をターゲットにするのが良いと考えて研究を進めています。

「ケイ素化合物」に着目したのはどうしてですか?
 CO2をギ酸やメタノールにするには、還元しなといけないので還元剤が必要です。還元剤としてすぐ思いつくのは水素で、CO2と水素からギ酸を生成する研究は多くあります。しかし、私は新たに違った角度からのCO2還元反応に取り組みたいと考え、まず「ヒドロシラン(R3SiH)」というケイ素と水素が結合した物質を還元剤として使い、ギ酸の誘導体「ギ酸シリル」を生成する(図2)ことを考えました。その理由としては、
①水素は反応性が低いが、「ヒドロシラン」だと熱力学的にも反応が有利に働く(ΔG<0)
②「ギ酸シリル」は分解してギ酸になるだけでなく、その他にもいろんな物質に変換でき有用性が高い
ということです。CO2と「ヒドロシラン」を反応させて「ギ酸シリル」を生成するのに適した触媒として、「ギ酸テトラブチルアンモニウム(図3)」という通常の有機分子触媒の数十倍の高活性を示す触媒を見出しています。更に触媒の種類や固定化の工夫などで、CO2からメタノールまで生成できることも確認できました。

還元剤としてソーラーパネルに着目したのはなぜでしょうか?
 ヒドロシランは還元剤として優れていますが、価格が高く実用化にはコスト面で難しいと考えられます。そこで、反応副生成物や廃棄物でCO2の還元に使える還元力を保持しているケイ素化合物が無いか考えました。一つはシリコーンを合成するときに副生成物として出てくるSi-Si結合を持つ「ジシラン」、もう一つが廃棄されるソーラーパネルに使われている「金属ケイ素」の結晶です。この廃棄「金属ケイ素」でCO2が還元できれば、この先の10~20年後に避けられないソーラーパネル大量廃棄問題の解決に貢献できると考えられます。この助成研究にて、そのための「酸塩基触媒」の開発を進めていきます。

環境問題解決に寄与する研究を重視する様になった切っ掛けは?
 大学4年生で配属になった研究室の金田教授(大阪大学)が提唱されていた「グリーンケミストリー」の考え方の影響がとても大きいです。「優れた触媒は少量で効率的な物質の生産に繋がるものだから、『触媒研究は環境問題に対応できる』ということを頭に置いてしっかり研究しなさい」と良く言われました。研究内容はそれからいろいろと変化してはいますが、「グリーンケミストリー」という研究の根本的な考え方はずっと変わっていません。
 大学の研究者としての進路を選んだのも、この研究室での活動が楽しく充実したものであったことが大きな理由です。

研究者としての楽しさややりがいは何ですか?
 私は大学の教員なので研究室で学生と一緒に研究して、良い結果が出た時にチームとして一緒に喜べるのが一番うれしいことです。アカデミアに来た最初のころはあまり考えませんでしたが、何年もやっていると学生が活動してくれるおかげで私が研究できているということを実感しますし、学生に感謝しながら一緒に活動するということが大事なことだと感じています。

後記
 研究紹介文を読んで「温暖化ガスCO2から有用物」や「廃棄物の利用」と内容から、環境問題に対応する研究ということは理解していました。しかし、「『触媒』は環境負荷低減に寄与する技術である」との先生にお話しを聞いてあらためて「触媒」の重要性に気づかされ、今後化学反応を見る機会には視点が少し変わって来そうな気がします。
 ソーラーパネルの廃棄問題について調べて見ると、今後の重要な環境問題のひとつであり、そのためのいろいろな技術開発が期待されていることが分かります。シリコン層を効率的に回収できる技術も今後進展することが予測されていますが、回収物を単に廃棄するに留まらず有効に再利用できるこの研究での成果が、来たる大量廃棄時代に活躍してくれることを大いに期待しています。
(矢崎財団技術参与 池田実)

著作文献紹介
  • Ken Motokura*, Chihiro Nakagawa, Ria Ayu Pramudita, Yuichi Manaka
    "Formate-Catalyzed Selective Reduction of Carbon Dioxide to Formate Products Using Hydrosilanes"
    ACS Sustainable Chemistry & Engineering, 2019, 7, 11056-11061.
    DOI:10.1021/acssuschemeng.9b02172