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2021/02/25

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
砂田 祐輔
スナダユウスケ
貴金属触媒、触媒的化成品合成、燃料電池、金属ナノシート分子、鋳型合成法、有機ケイ素化合物、金属クラスター、元素減量
ホームページ http://www.sunadalab.iis.u-tokyo.ac.jp/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2019年度 一般研究助成 エネルギー 東京大学 生産技術研究所 PDF
研究題名 最少量の貴金属で駆動する金属ナノシート分子触媒の創出

訪問記

最終更新日 : 2021/02/25

訪問日:2021/02/12
訪問時の所属機関 東京大学 生産技術研究所 訪問時の役職 准教授

リモートインタビュー(図1)にて、助成対象テーマの特長や研究に対する考え方などをお伺いしました。

今回の研究に着手した背景を教えて下さい
 「金属ナノ粒子」という言葉を聞かれたことがあるかと思います。金属原子が数百~数千個、ボール状に集まったナノメーターサイズの粒子です。例えば、この金属がPd(パラジウム)であればナノ粒子は様々な化成品合成の触媒として、Pt(白金)であれば燃料電池の触媒として使われています。その他にも、自動車の排気ガス分解触媒など「金属ナノ粒子」は産業になくてはならない触媒として広く利用されています。
 ただし、今後を考えるとこれらの貴金属触媒には問題な点があります。貴金属は希少で高価だということです。特に近年では燃料電池などの新しい技術の広がりにより、従来の用途との取り合いになっています。さらに、貴金属は世界的に見て特定の地域だけに偏在していますので、国際情勢などによる供給不安も懸念されます。そのため、できるだけ少ない量で触媒として機能する物質ができれば貴金属への依存度を減らすことができると期待されます。
 また、触媒の機能面から考えたとき、金属粒子の表面の原子が主に触媒として機能していて、内側の原子はほとんど役に立っていないことが分かっています。例えば、中身が空洞で表面だけに原子がある様な粒子ができれば金属が最小量で作動する触媒になりますが、現実にはその様な物質はできていません。この課題に対して、粒子の表面だけを取り出した別の形として、平面状に金属を並べた構造の物質ができれば最小量の金属で作動する触媒の合成が実現できるのではないか、と考えたのがこの研究の最初の着想です。

従来、金属を平面状に並べることはできていなかったのですか
 金属集積化の一般的な方法としては、金属塩を還元剤で還元して金属を析出させる方法です。この方法では最初に析出した金属の周りに次々と金属が付着していくので、通常は球状になります。方法を少し工夫すると棒状や角柱状など様々なものができますが、平面状のものはこれまでにほとんどできていませんでした。
 また、数例だけ平面状に並べる研究もありましたが、触媒としての機能は報告されておりません。私の研究では金属を平面状に並べて、なおかつ広い表面積を持ち、多くの活性サイトがある触媒「金属ナノシート触媒」を作ることが目的です。

「金属ナノシート触媒」を作る方法の考え方を教えて下さい
 1990年後半に京都大学におられた伊藤嘉彦先生らのグループによるご研究で、化合物中のSi(珪素)-Siの単結合の間にPdを取り込んでSi-Pd-Siという結合を作ることが報告されています。私は以前からSi系の化合物を使った研究を進めてきた経験から、Si-Si結合が複数あったらこの結合の数だけ金属が集積されてくるのではないか、更にそのSi-Si結合を複数持った化合物が平面の構造だったら、間に入った金属も平面に並ぶのではないか、との発想が湧きました。Si鋳型に金属を入れ込んで合成するため、これを「鋳型合成法」と呼んでいます。この作り方だと金属原子の上下に広い反応場を持つ形になるはずだと考えられます。
 Siは周期表でC(炭素)の上に位置した同じ族であり、Cと同じように様々な形の化合物が存在し(図2)、それらは比較的簡単に作ることができる、というところもこの研究のポイントのひとつです。

「鋳型合成法」で作った「金属ナノシート触媒」の性能はどの様なものですか
 まず、Siが4つの四角い分子のSi-Si間にPdを入れることによって、PdがY字形の配列をしたナノシートが生成(研究紹介文の図)することを確認しました。これは平面状でPdの上下には何もない構造になっています。このナノシートを、各種のアルケン(C=Cの二重結合のある化合物)に水素を付加させる反応で触媒能を評価したところ、
 ・Pdが数百~数千個の金属ナノ粒子触媒に対して、貴金属4つで同等以上の触媒能が発揮される
 ・Pdを1個あるいは3個もった金属分子触媒よりも極めて高い収率が得られる
 ・硫黄系化合物からの被毒を受けない
という、触媒において極めて優れた特性を持っていることが確認されました。
 また、このナノシート分子を固体担体に担持することによって更に高い触媒活性を示すとともに、回収/再利用など取り扱いが容易な触媒になることも分かってきています。
 今回の助成研究では、
 ・各種Si化合物を鋳型とした多様な構造のナノシートで、更なる触媒性能の向上を目指すこと
 ・Pd以外の貴金属前駆体による金属ナノシートでの様々な用途の反応触媒の可能性
を追及した研究を進めていきます。

先生にとって研究の面白さや醍醐味を感じるときは、どんなときですか
 それには、二つの場面があります。一つは、ねらい通りに結果が出た時です。この研究の場合ですと、金属を平面状に並べたいという目標に対して方法論を提示して、それがきちんと実証できたときです。単結晶X線構造解析で構造決定した際に、パソコンのモニタ上に、予想していた分子構造が見えて来た瞬間、これはやっぱりうれしい時ですね。
 もう一つは、逆に全く予想外の成果が出たときです。作った化合物が予想していたのと全く違う機能が出てきたときは驚きを伴う面白さです。ただ、研究ではそんなに簡単にこの様な結果は出ないですし、実証するまでには苦労が多いのも事実ですね。

今後目指している研究の方向性は
 今回の研究では貴金属使用量を最小にして低コストな触媒を作ることが目的ですが、究極的には金属に限らず各元素が持っている力を最大限に引き出すことで社会的課題を解決する研究をしていきたいと考えています。触媒に限らず原子1個1個の機能を可能な限り無駄なく発揮させる「資源の最大効率での活用」が目指す研究の方向です。

後記
 図3は砂田先生の論文が掲載されたジャーナルの表紙です。PdとSiの六角形金属ナノシートが、雪の結晶と重ね合わせられていてとても幻想的なイメージの表紙になっています。様々な構造のSi鋳型と前駆体の金属/配位子の種類の組み合わせとで、多くのナノシートの可能性があるところは雪の結晶系が無数に存在することと共通して意味深いと感じます。
 今回説明して頂いた一つの金属ナノシートだけでも従来触媒を大きく凌ぐ性能が出ていることに驚きましたが、今後さらに高性能で多目的な反応に貢献していく触媒が創出されることを大いに期待しています。
 (矢崎財団技術参与 池田実)

著作文献紹介
  • Y. Sunada, N. Taniyama, K. Shimamoto, S. Kyushin, H. Nagashima, Construction of a Planar Tetrapalladium Cluster by the Reaction of Palladium(0)
    Bis(isocyanide) with Cyclic Tetrasilane, Inorganics 2017, 5, 84.