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2020/12/23

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
星本 陽一
ホシモトヨウイチ
水素貯蔵、水素精製、有機ハイドライド、有機典型元素触媒、触媒的水素化、触媒的脱水素化、高反応性分子会合体
ホームページ http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~ogoshi-lab/hoshimoto/wp/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2019年度 奨励研究助成 新材料 大阪大学 大学院工学研究科 PDF
研究題名 有機ホウ素触媒の精密設計を鍵とする革新的水素貯蔵システムの開発

訪問記

最終更新日 : 2020/12/24

訪問日:2020/12/09
訪問時の所属機関 大阪大学 大学院工学研究科 訪問時の役職 准教授

リモートインタビュー(図1)にて、助成対象テーマの特長や研究に対する考え方などをお伺いしました。

まず、この研究テーマの社会的背景について教えてください
 水素は食品産業や化学産業、またエネルギー部門でもこれから重要な物質として非常に注目を浴びています。現在の水素製造の最初の段階では、化石燃料を水蒸気改質してできる各種のガスを含んだ「粗水素」が出てきます。その「粗水素」の中に含まれる一酸化炭素や二酸化炭素、メタンや窒素は分離精製されて高純度な水素が生成されます。この高純度水素がいろいろな産業で利用されています。
 ここで注目したのは、なぜ水素はコスト・時間・手間を掛けて高純度にしないと使えないのか、「粗水素」のまま利用できないのか、ということです。そこには「触媒」が関係しています。燃料電池で水素を使うためには触媒として白金が必要ですし、食品産業や化学産業での有機合成反応に水素を使うときも、ロジウムやイリジウム、ニッケルやパラジウムなどの触媒が必要です。水素は比較的安定な化合物なので、化学的に活性化し活用するには、高反応性な貴金属触媒を用いることが一般的です。しかし、この貴金属触媒は、一酸化炭素や二酸化炭素が存在すると簡単に不活性化(被毒)されてしまい、水素の利用のために役立てることができません。そのため、水素を利活用するためには、現状、不純物が極めて少ない高純度水素が必要なわけです。この現状に対して、「粗水素」のまま水素を利用できる様にしよう、というのがこの研究の目的です。

この研究はこれまでの先生の研究と関係しているのですか
 2015年から注力している研究テーマの1つは、典型元素を活用した水素化反応の開発です。特に注目したのが半金属の「ホウ素」を含む「有機ホウ素触媒」であり、「有機ホウ素触媒」を利用することで高純度水素に頼らない革新的な水素活用法が開発できるのではないかと期待しています。

研究テーマ名の「水素貯蔵システム」も「粗水素」の直接利用のひとつでしょうか
 そうです。「粗水素」直接利用の中でも、特に力を入れている応用が「水素貯蔵システム」であり、この研究を助成研究として申請致しました。
 日本では必要な水素の量を自国で賄うことができていません。中期的に見ても難しいと言われています。水素を輸入するプロジェクトで進められているのは、海外で高純度水素を作り、何らかの「水素貯蔵媒体」に水素を閉じ込めて日本に運び、日本国内で水素を取り出して使うというプロセスです。
  現行プロセス:粗水素→精製 ⇒ 高純度水素 ⇒ 貯蔵 ⇒ 輸送 ⇒ 高純度水素取出/利用
 これに対して、私のアイデアは「粗水素」の中から水素だけを、事前の精製プロセス抜きで「水素貯蔵媒体」に貯蔵(精製を兼ねる)してしまおう、というものです。
  提案プロセス:粗水素→水素のみ分離貯蔵⇒ 輸送 ⇒ 高純度水素取出/利用
 ただし、先ほどもご説明した様に、貴金属触媒は簡単に被毒され、粗水素条件下では利用できません。私たちは「有機ホウ素触媒」を用いてこのプロセスの開発を進めてきました。

これまでの研究状況をお聞かせください
 昨年度までの研究成果として、一酸化炭素、二酸化炭素、水素の混合ガス中から、高効率的に水素のみを「水素貯蔵媒体」へ分離貯蔵できる触媒反応系を開発してきました。しかしながら、我々の触媒反応系には解決すべき重要な課題が残っていました。それは触媒反応効率の向上とそれに伴う水素貯蔵効率の向上であり、これが本年度に取り組んでいる課題となります。

触媒として「有機ホウ素化合物」に着目したきっかけは?
 博士の学位を取得するまでは、ニッケルを使った合成反応開発を研究していました。その後、テニュアトラック助教として独立研究をスタートする際に、これまでの研究領域から大きく離れた方が良い考え、典型元素化学の世界に飛び込みました。その中でも、金属ではないが金属に近い性質を持っている「半金属」として「ホウ素」に着目し研究を進めてきました。
 最初に取り組んだ研究は、医薬品や機能性材料にも使われるアミンを化学修飾するのに重要な反応(還元的アルキル化反応)でした。一緒に研究した共同研究者の学生さんの尽力もあり、有用な有機ホウ素触媒系を開発することができました。特筆すべき点は、従来の金属触媒系や有機分子触媒系、さらに典型元素触媒系では困難な反応条件下において、カルボキシル基(-COOH)やヒドロキシル基(-OH)を有する多様なアミンの変換手法が開発できた点です。これらの結果から、分子構造設計を適切に行えば一酸化炭素や二酸化炭素などの夾雑成分が含まれていても、「有機ホウ素触媒」は水素とだけ反応するのではないか、と着想したのが今回の研究の始まりです。

先生にとって、研究の面白さや楽しさを感じるのはどんなときでしょうか
 「こうなるだろう」と考えてデザインしたものが、実際にそうなったときは少なからず楽しいものですし、予期しなかった現象が現れたときもまたすごくうれしいものです。
 最近は少し趣向が変わり、研究協力者である学生さんが喜んでいるときが、とてもうれしく感じるときになりました。「(そんなアイデア)できるわけないと思います」って正面から訴えてきた学生さんが、翌朝「出来ちゃったんですけど・・・・」って来たときには、ビックリと同時にとてもうれしい瞬間でした。その後、私の「じゃぁ、あとは任せた」という丸投げに、四苦八苦しながらも、めきめき成長していく彼らを見ているのがとても楽しいです。

後記
 星本先生の研究説明は、専門用語を極力避けて素人の私たちに分かりやすく配慮して頂き、とてもよく理解できました。大変感謝いたします。
 過去の2つの研究において、学生さんが大きな成果となる発見をしてくれたことを強調されたことが印象的でした。「研究においては教員も学生も対等な立場である」との考えで、共同研究者として学生さんに接していることが、彼らの力をより引き出したのだろうと思います。
 本研究で提案されている水素製造~貯蔵~利用プロセスは、単に一つの工程が省けるということだけでなく、プロセス全体の消費エネルギーの大きな削減が期待できる技術になるのではないか、と感じます。研究成果公表のときを楽しみにしています。
(矢崎財団技術参与 池田実)

著作文献紹介
  • Yoichi Hoshimoto, Takuya Kinoshita, Masato Ohashi, and Sensuke Ogoshi "A Strategy to Control the Reactivation of Frustrated Lewis Pairs from Shelf-Stable Carbene Borane Complexes" DOI: 10.1002/anie.201505974
  • Yoichi Hoshimoto, Takuya Kinoshita, Sunit Hazra, Masato Ohashi, and Sensuke Ogoshi "Main-Group-Catalyzed Reductive Alkylation of Multiply Substituted Amines with Aldehydes Using H2" J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 7292-7300