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2020/11/19

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
矢地 謙太郎
ヤジケンタロウ
最適設計、トポロジー最適化、レドックスフロー電池、数値流体力学
ホームページ http://syd.mech.eng.osaka-u.ac.jp/~yaji/index-jp.html
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2019年度 奨励研究助成 エネルギー 大阪大学 大学院工学研究科 PDF PDF
研究題名 レドックスフロー電池の流路構造と電極構造の同時最適設計法

訪問記

最終更新日 : 2020/11/19

訪問日:2020/11/05
訪問時の所属機関 大阪大学 大学院工学研究科 訪問時の役職 助教

オンラインインタビュー(図1)で、助成対象テーマの内容や研究に対する考え方などをお伺いしました。

先生の研究を簡単に説明してください
私は流体分野を対象とした最適設計の研究を行っています。流体関連機器の設計は、従来は寸法や外形形状の最適化を行っていましたが、私の研究では、トポロジー最適化というコンピュータを活用した手法に取り組んでいます。これは物理モデルに基づいて必要な性能を最大限発揮する構造(外形だけでなく、内部構造を含めて)を数値計算で求める研究となります。(図2)

今回申請した研究に着目したきっかけはなんですか
ある時、大学のレドックスフロー電池の研究に従事する研究室の教授に声をかけられました。話を聞くと、今までやっていた熱流体の研究とレドックスフロー電池の内部にある電解質を流れる流体移動の研究は非常に似ていることに気が付きました。その後、先生からレドックスフロー電池の流路のパターンを見せていただき、これはもっと良い最適な形状があるのではないかということで研究を始めました。

この研究の独自性のポイントを教えてください。
流体とトポロジー最適化を組み合わせた研究は2000年くらいから始まりました。トポロジー最適化の研究は年間1000件程度の論文発表となりますが、このうち、流体を対象とした論文は年間50件程度と非常に小さい研究分野です。さらにレドックスフロー電池を対象とした研究は私だけとなります。
レドックスフロー電池は主に材料の面から性能の向上が図られてきました。これに対し、流路構造などの面から性能を高める研究が最近注目されつつあります。しかし、多孔質電極内部の構造など、複雑な構造のため、今までの技術では最適構造を求めることは非常に困難でした。そこで、コンピュータを用いた数値計算で設計の最適化を図ることを考えました。
トポロジー最適化の本質的課題は、設計の自由度が高いという魅力と引き換えに、直接的に複雑なモデルを用いて最適化を行うことがとても難しいことです。そのため、複雑なモデルは、パラメータを選択しモデルを簡略化しますが、これには設計者の勘や経験に依存することになり、実際に使える分野はごく一部に限られてしまいます。
そこで、異なる精度の計算を組み合わせることで、複雑なモデルを用いて最適化を行う研究に取り組んでいます。その基本的なアイデアは、大規模な機械システムを分割して解くということになります。わかり易い例をあげますと、飛行機などは非常に複雑なシステムなため、精度の高いモデルのみを使って全体の最適解を求めることはできず、システムを分割して精度の低い簡易モデルと高い詳細モデルを組み合わせて計算をしています。まさにこのような視点のもと、レドックスフロー電池の最適化の方法論を構築しています。その方法論の基本となる手続きとして、先ずは簡略化した精度の低いモデルで、流路と多孔質電極内部の構造を最適化し、次に本当に設計したい流路を高精度に計算します。これを繰り返すことで、高精度な結果を導きます。
実際に最適化を行った流路と今までの流路を計算で確認すると、電池の性能と相関のある電気化学反応の効率が50%程度もよくなることがわかりました。もちろん電池の性能がそのまま50%上がるわけではありませんが、既存の性能を上回るとんでもない電池ができるかもしれません。

対象となる研究の応用領域を教えてください。
地球環境保全が重要視される現代社会において、自然エネルギーを利用した発電システムの導入はますます加速していくことになります。一方で自然エネルギーは天候や環境の影響をうけることから、これらを利用していくためには、地域ごとに大容量の電力貯蔵システムを配備する必要があります。
代表的な蓄電池としてLiイオン二次電池が挙げられますが、これと比較すると、レドックスフロー電池は耐久性がよく、大規模化が容易で、安全性が高いといったメリットがあります。しかし、現在は電池の性能が十分ではないため、最適化を駆使することで抜本的な性能向上が実現すれば、大規模電池システムに利用できると考えています。

研究者を志したきっかけを教えてください
 私はボート競技が大好きでした。勝つために最適な練習メニューを自分で考えることや、頑張った分だけボートが速く進むことがとても楽しかったです。このようなこともあり、修士まではボート競技に力を入れていました。しかし一方で、あまりにボートに熱中しすぎて、現役を引退後に改めて大学生活を振り返ってみたところ、このまま修士で卒業してしまうと学問に費やす時間が圧倒的に足りないと感じ、ドクターコースに進むことにしました。
博士課程に入り、本格的に研究に取り組んでみると、改めて面白いことが分かりました。何より、興味の赴くままに進められること、自分の頑張った分だけ成果がでることなど、ボート競技で感じていたこととほとんど同じであることに気が付き、今でも日々楽しくストイックをモットーに研究に打ち込んでいます。

研究にこれから携わる学生に伝えたいこと
研究室に配属され、いざ研究開始となると、大抵の学生は教員に指示されたことを真面目に取り組みます。最初はこれで良いでしょう。しかし、ある程度進んだところで、敷かれたレールから敢えてはみ出る視点を持つことが大切です。教員に何を言われようが、研究の方向性はこっちで良いのか?と自問自答し、常に自分自身で羅針盤を持つべきです。「自分の研究は世界で一番自分が詳しい」という当たり前のことを忘れてはいけません。教員の研究を手伝うという姿勢では、それは研究ではなく単なる作業です。教員の力を借りつつも自分で切り拓いてこそ研究の醍醐味があると私は思いますので、研究室に配属された際は、ぜひ楽しくストイックに自らの研究に打ち込んでください。

後記
先生は、修士1年生の時に休学してオリンピックを目指したというほどボート競技に熱中したそうで、その熱意が今も感じられるインタビューでした。先生の夢は、ボート競技のオール形状を最適化設計し、そのオールがオリンピックの決勝でみんなに使われることとおっしゃっていました。
オールの最適化設計は今の技術では、複雑なモデルとなり、難しいそうです。先生の研究により、このような複雑なモデルも将来は可能になると思います。先生の大好きなボートに関連した研究が最終目標というのはうらやましい限りです。
先生の今後の研究に期待しています。
(矢崎財団常務理事 砂山竜男)

著作文献紹介