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2021/09/06

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
髙島 義徳
タカシマヨシノリ
架橋設計、可逆性架橋、可動性架橋、超分子クロスネットワーク、力学特性発現機構、複合材料設計、異種高分子混合、粘弾性評価
ホームページ http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/takashima/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2020年度 一般研究助成 新材料 大阪大学 高等共創研究院 兼 大学院理学研究科 PDF
研究題名 超分子特有の架橋とネットワーク構築による革新的高分子材料の創製

訪問記

最終更新日 : 2021/09/05

訪問日:2021/08/18
訪問時の所属機関 大阪大学 大阪大学高等共創研究院 兼 大学院理学研究科 訪問時の役職 教授

オンラインインタビュー(図1)で、助成研究内容や研究への想いなどについてお伺いしました。

まず、研究題目にある「超分子」とは何でしょうか
多くの有機分子は共有結合により分子構造を形成していますが、分子中の一部の結合が水素結合やイオン性の相互作用などの、共有結合より「弱い結合」で形成されている分子は「超分子」と呼ばれています。これは英語の“ Supramolecular”から来ている用語です。この「弱い結合」は刺激によって切れたり付いたりすることができるので、共有結合では発現し得ない特異な性質を持った材料を創製することができます。
この分野では1904年にEmil Fischerが“Lock and key concept”でノーベル賞を取って以降、1987年には“Supramolecular chemistry”、2016年には“Molecular machine”と3件で受賞があります。2000年頃から、それまでの「分子レベルの科学」から「材料科学への発展」に移行し、タフポリマー(高靭性材料)や自己修復材料など実用材料に発展してきています。その様な中で、私も「超分子」を高分子科学の発展につなげていきたいと考えて研究を進めています。

「超分子」を用いた高分子のこれまでの研究について教えてください
環状多糖類のシクロデキストリン(CD)という官能基(図2中央上)を持ったホストポリマー(図中央下)と、CDに「弱い結合」をするゲストモノマー(赤丸)を官能基として持ったゲストポリマーとの間で「可逆性架橋」を持つ材料を独自に開発しました(図2左上)。また、ゲストポリマーを異種のポリマーにして、2種混合ポリマー特有の性質を持った材料も創製しました(図2左下)。
 これらの材料は可逆的な結合によって通常の接着剤と異なり、ホスト-ゲスト間での分子認識を用いた接着が可能になります。外部刺激によって接着したり剥がしたりすることのできる接着材料や、リサイクルための易解体材料、特定の部分だけを接着できる材料、などに応用することが可能です。また、この可逆性結合が共有結合形成をより強くさせる特徴があることもわかりました。
 その外にも、自己修復機能、材料の形状を記憶する機能、膨潤と収縮する機能など、「可逆性架橋」により様々な新しい機能の創出を報告してきました。

今回の助成研究テーマでのねらいは?
環状モノマーCDとポリマー主鎖になるモノマーを混合して重合すると、主鎖がCDの環に貫通した構造、つまり「可動性架橋」を持ったポリマーを生成できます(図2右上)。本助成研究では、ホストポリマーに横串を刺す様に別種のポリマーを「可動性架橋」でつないだ「クロスネットワーク構造」(図2右下)で、特異的な機能の発現に取り組みます。例えば、横串の柔らかいポリマー(図中緑)と縦串の硬いポリマー(図中白)を自由に動ける「可動性架橋」点で組み合わせることで、これまでなかった力学特性を持った材料の創製を狙っています。
一般的に材料物性の関係として、ヤング率の高い(=硬く変形し難い)材料のタフネス(衝撃破壊に対する強さ)を上げようとして柔らかい材料を混合するとヤング率下がってしまうのですが、「可動性架橋」を導入することによって高ヤング率を維持しながらタフネスを大きく上げることができると考えています。また、「可動性架橋」を持ったポリマー中に相互作用の大きな物質を複合化することによって、特性を更に向上させ機能性を付与することも検討しています。
研究期間の後半では、「クロスネットワーク構造」に「可逆性架橋」を導入することにより、従来にない強い異種材料間接着剤とすることに取り組む予定です。

研究活動で面白さを感じるのはどんなときですか
 複合材の力学特性変化メカニズムについて研究会など議論すると、私たち化学研究者と物理系の研究者では着眼点がかなり異なっていることを実感することがあります。これは、研究発表での議論の難しいところでもあると同時に、「そんな風に考えることもできるのか」という気づきにもなります。この様に、他の分野の方々の意見を聴いたり、議論することが研究活動における面白い点と感じています。
私は学会に参加するとき、基本的には自分のメイン分野のセッションにはあまり行かない様にしています。最初は暗号の様な用語を聞いている難しさがありますが、1日聞いているとその分野の課題がわかってきて、自分の持っている技術が使えないか、面白い材料ができるのではないか、と考えてみます。

研究室の学生さんに期待すること、伝えたいことは
 大学だからこそ基礎を重視した「崇高な化学」、企業で活用される「使われる化学」、この両方が今大学には求められていると感じています。これは相反することではなく「基礎的に重要な化学は実用化においても重要」であることを学生さんには理解してもらいたいと思っています。これに重要な研究姿勢としては、
・なぜその結果になったのかを考える、「なぜ」に答える研究
・「客観的知識」を「主体的技術・行動」につなげられる研究
・装置やテクニックを学ぶのではなく、基礎的に重要なことを見出す研究
であり、信念をもって革新に迫れる研究者になってもらうことを期待しています。

後記
インタビューでは記事には載せられない未発表の研究成果もいろいろ聞かせていただき、私から見ると研究進捗がかなり速い印象を受けたのですが、髙島先生は中国や韓国の研究者たちの開発スピードに対する危機感を持たれているとのことで、超分子研究という戦場で戦っていらっしゃる印象を受けました。
その他にも、複合材物性の発現機構における化学研究者と物理研究者の考え方の違い、自己修復材料の使いどころの観点、リモート学会の効果的な活用方法、など面白い話をいろいろ聞かせていただきました。どうもありがとうございました。
(矢崎財団技術参与 池田)

著作文献紹介
  • (1)Design and mechanical properties of supramolecular polymeric materials based on host-guest interactions: the relation between relaxation time and fracture energy
    Konishi, S.; Kashiwagi, Y.; Watanabe, G.; Osaki, M.; Katashima, T.; Urakawa, O.; Inoue, T. ; Yamaguchi, H.; Harada, A.; Takashima, Y.
    Polym. Chem. 2020, 11(42), 6811-6820.
    (DOI:10.1039/D0PY01347A)
  • (2)Extremely Rapid Self-healable and Recyclable Supramolecular Materials through Planetary Ball Milling and Host-guest Interactions.
    Park, J.; Murayama, S.; Osaki, M.; Yamaguchi, H.; Harada, A.; Matsuba, G.; Takashima, Y.
    Adv. Mater. 2020, 32(39), 2002008.
    (DOI:10.1002/adma.202002008)
  • (3)Supramolecular self-healing materials from non-covalent cross-linking host-guest interactions.
    Sinawang, G.; Osaki, M.; Takashima, Y.; Yamaguchi, H.; Harada, A.
    Chem. Commun. 2020, 56(32), 4381-4395
    (DOI:10.1039/D0CC00672F)