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2021/07/12

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
所 裕子
トコロヒロコ
相転移、光誘起相転移、圧力誘起相転移、熱力学、蓄熱、潜熱、スイッチング
ホームページ https://www.ims.tsukuba.ac.jp/~tokoro_lab/index.html
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2020年度 一般研究助成 新材料 筑波大学 数理物質系 PDF
研究題名 高性能蓄熱酸化チタンの開発

訪問記

最終更新日 : 2021/07/12

訪問日:2021/07/06
訪問時の所属機関 筑波大学 数理物質系 訪問時の役職 教授

 研究紹介文にもとづき、助成対象となったご研究の詳細を伺いました(図1)。以下は主な質疑応答です。

ご研究を始めた契機はなんですか?
 暮らしに欠かせないエネルギーは、一方でその大量消費が環境問題を引き起こす原因ともいわれています。環境問題の解決に向け、エネルギーの利用を減らす省エネや再生可能エネルギーを主としたエネルギー源の多様化など、世界中で様々な対策に取り組まれています。しかし、電気や熱など、エネルギーを『ためる』ことのむずかしさが、有効利用する際の課題の一つになっており、電気を『ためる』を身近なものにしたリチウムイオン電池に関する発明が2019年のノーベル賞を受賞したのは記憶に新しいところです。一方の熱をためる材料には例えば水があります。しかし、お湯や氷をイメージするとわかりやすいのですが、ためた熱は自然に逃げてしまったり、熱を出し入れする際の温度を変えられなかったり、熱を『ためる』ことには依然として課題があります。私は相転移材料と呼ばれる材料が熱をためられることに着目しました。自在に相変化を起こすことで、出し入れのタイミングを、加えて相変化する際の温度をコントロールできれば、これまでにない蓄熱材量を作られるのではないかと考え、本研究を始めました。

ご研究の独創性を改めてお伺いします
 蓄熱材として用いられている材料には顕熱蓄熱材料(レンガ・コンクリートなど)と潜熱蓄熱材料(水・パラフィンなど)がありますが、潜熱蓄熱材料は、物質の状態変化(固体、液体、気体間などの相転移)の際の熱の出し入れ(潜熱と呼ばれる)を用いています。一部の金属酸化物は固体と固体の間で相転移が起こります。これらの材料も状態変化の際、熱を出し入れします。私は相転移材料を長く研究しており、世界で初めて室温下における光で相転移(ON・OFF)する金属酸化物を、共同研究者らとともに発見いたしました(図2)。その知見を活かし、相転移する金属酸化物に光や圧力などの外部刺激を与えた場合も同じように状態変化が生じれば、熱の出し入れが起こると考え、材料の選定を行いました(図3)。金属酸化物を目に見えないくらいの大きさにまで小さくした材料を用いることで、圧力をかけることによりためていた熱を排出する材料を考案いたしました。このように金属酸化物の種類や大きさなどをコントロールすることで、温度や発熱量の異なる蓄熱材を研究しているグループはなく、私の研究のユニークな点であると言えます。

実用化されると暮らしはどう変わりますか?
 暖かい場所で熱をためておけば、必要な時に力をかけることで発熱させ使うことができます。力をかけなければエネルギーは保持されるため、熱を失うことなく使う時まで保存することができます。そのため、熱を自由に持ち運べるようになるなど、これまでにない熱の使い方ができると予想しています。また、圧力の強さと発熱量にはある種の相関がみられることから、センサのような使い方もできると想定しています。

研究者を志したきっかけを教えてください
 研究活動が純粋に楽しかったので、やめずに続けたいと思ったのがきっかけです。研究を続けるには大学に残る必要があり、簡単ではないと考えたのですが、学術振興協会の研究員として研究を続けたり、環境にも恵まれたりした結果、現在に至ります。

研究活動の面白さは何ですか?
 元々物理学を専攻していたことも関係があるのかもしれませんが、理論の正しさを体感できると感動します。例えば発熱など固有の特性を裏付ける理論が分かっている材料を評価しているときに、理論に沿ったふるまいを確認できると、『あ、本当にこんなふうになるのだ』といった面白さがあります。中には教科書通りではない現象を観察することもあります。その時は、新しい現象に出会えた喜びと、さらに、その現象がなぜ起こるのかを紐解いていくと、やはり理論の裏付けがとれる。そういった点が面白さであるといえると思います。特に、化学現象を物理学的な視点で見つめると、これまで知られていた現象の別の側面が見えてきて、それが新しい発見につながると面白さが増します。

後進の方に伝えたいことは何ですか?
 何事も面白いという前提で一生懸命取り組んでほしいと思います。一生懸命取り組まないと本当の面白さを見失ってしまうと思います。

後記
 先生は光で相転移する材料を研究されていました。研究対象の金属酸化物は長年様々な研究者によって研究され、その特性は十分に理解されていると考えられていた材料だそうです。そんな金属酸化物が『これまで知られていなかった挙動を示すとは思ってみなかった』ということで、物質のふるまいを理論的にとらえることの重要さを教えていただいた気がします。先生のご研究成果が広く活用される日を楽しみにしています。

(技術部長 鳥越昭彦)

著作文献紹介
  • ・"External stimulation-controllable heat-storage ceramics"
    H. Tokoro, M. Yoshikiyo, K. Imoto, A. Namai, T. Nasu, K. Nakagawa, N. Ozaki, F. Hakoe, K. Tanaka, K. Chiba, R. Makiura, K. Prassides, S. Ohkoshi
    Nature Communications, 6, 7037 (2015).
  • ・"固体-固体相転移蓄熱セラミックス"
    所裕子、大越慎一
    蓄熱システム/蓄熱材料の実用化技術,S&T出版,62-71 (2018).