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2021/08/04

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
川脇 徳久
カワワキトクヒサ
光触媒、水分解、水素生成、プラズモン、ナノ粒子
ホームページ https://www.rs.kagu.tus.ac.jp/negishi/kawawakikojin.html
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2020年度 奨励研究助成 エネルギー 東京理科大学 理学部第一部・応用化学科 PDF PDF
研究題名 ヘテロ界面を用いたプラズモニック可視光応答水分解光触媒の高効率化

訪問記

最終更新日 : 2021/08/04

訪問日:2021/07/30
訪問時の所属機関 東京理科大学 理学部第一部・応用化学科 訪問時の役職 助教

 研究紹介文にもとづき、助成対象となったご研究の詳細を伺いました(図1)。以下は主な質疑応答です。

ご研究を始めた契機はなんですか?
 カーボンニュートラルという言葉をご存知でしょうか? 地球温暖化の原因といわれている二酸化炭素の排出量を実質的にゼロにするという考えです。温暖化の加速を止めるため、世界各国が考えに賛同し、2050年にはカーボンニュートラルを達成すると宣言しています。日本も2020年10月に2050年のカーボンニュートラル達成を宣言しました。省エネを進めることで二酸化炭素の排出量を減らすことができますが、それだけではゼロにはなりません。世の中では二酸化炭素を回収し再利用する技術が研究されており、光触媒を用い、水と二酸化炭素と太陽光から、ほかの有用な化学物質を合成する、人工光合成もその技術の仲間です(図2)。私は非常に小さなサイズ(髪の毛の1万分の1の大きさ)の金属である金属ナノ粒子と呼ばれる材料の研究を行っています。特定の金属をナノサイズまで小さくすると金属ナノ粒子に当たった光を時間的・空間的に閉じ込める現象が生じます。この現象を上手くコントロールできれば光をナノ空間に長時間集めることができます。集めた光を光触媒と組み合わせて使えば、人工光合成をより効率よく行えるのではないかと考え、本研究を始めました。

ご研究の独創性を改めてお伺いします
 光をコントロールできる金属ナノ粒子として、金と銀がよく知られています。どちらの金属も内部に電子をたくさん持ち、電気をよく通します。一方の光触媒は半導体と呼ばれる材料で、ゴムのような電気を流さない絶縁体と金属のような導体の間の性質を持ちます。この二つをそのままくっつけただけではお互いの電子が自由に行き来してしまい、せっかく集めた光が逃げたのと同じ状態になってしまいます。そこで私は、集めた光が光触媒でのみ使われれば効率を上げられると考え、金属ナノ粒子(光を集める材料)と光触媒(化学反応が生じる材料)の間に電子を一方向にだけ通しやすくする膜(選択的電荷透過材料)を追加することを考案いたしました(図3)。その結果これまでにない効率で変換が行えるようになりました。そのような考えに基づき選択的電荷透過材料をコントロールし、効率の良い人工光合成を起こそうとしている研究しているグループは他になく、私の研究のユニークな点であると言えます。

実用化されると暮らしはどう変わりますか?
 人工光合成の効率を上げることができ、二酸化炭素から直接メタノールやギ酸が合成できるようになれば、地球温暖化の原因といわれている二酸化炭素の削減につながると考えています。メタノールやギ酸は燃料電池の燃料としても知られており、二酸化炭素から燃料を作ることもできるようになれば、エネルギー媒体を循環させてより環境負荷の小さな社会の実現が可能となります。

研究者を志したきっかけを教えてください
 私の場合は他の研究者の方とは少し違うかもしれません。学生時代から日本社会全体の活気がない状況で、進んでやりたいと感じることがありませんでした。当時は、友人とは異なる進路を選んで、将来は海外で暮らしたいと思い、博士号を取るために大学院へ進学しました。進学した先の恩師(東京大学 教授 立間 徹 先生)が、アカデミア(大学や国立研究所などの研究コミュニティ)での研究の楽しさを教えてくれました。立間先生がいなければ、今の自分はいなかったと思いますし、とても感謝しています。

研究活動の面白さは何ですか?
 世界最先端の誰も知らないことを明らかにできることだと思います。さらに、新しい発見が世の中の役に立ち、人々の暮らしに活かすことにつながる点も魅力のひとつだと思います。また、大学の研究室は、毎年学生が配属されます。いろいろなタイプの若いエネルギッシュな学生から、新しい発想や知識を得られることや、その学生が成長していく姿を見られることは、ほかの場所にはない非常にエキサイティングな経験であり、面白さの一つといえます。

後進の方に伝えたいことは何ですか?
 世の中の変化とともに多様性が求められています。物事を型にあてはめず、何事も無理とは思わないで、楽しそうだなと感じるものにチャレンジしていくと未来が開けると思います。無難なことをするのではなく、自分が面白いと感じることをコツコツと続けていけば、いつのまにか人とは違う位置に立つことができているはずです。是非、いろいろなことにチャレンジをして、これまでの概念を変えていってもらいたいと思います。

後記
 インタビューの終盤、先生から本助成研究とは直接関係しない、今の若い研究者が置かれている悩みを伺うことができました。限られた期間で業績を上げていかなければならない状況は、研究本来の拡がり、探求心をスポイルしかねない状況であることが理解できました。一方で先生の言葉にもある『楽しそうだなと感じるものにチャレンジしていく』姿勢が新たな成果につながっていることも理解できました。ご研究成果が次の『楽しそうだな』に結びつくよう、これまでの世の中の常識変化のきっかけとなる日を楽しみにしています。

(技術部長 鳥越昭彦)

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