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2021/10/18

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
水野 洋輔
ミズノヨウスケ
光ファイバ、分布型センサ、計測システム、ブリルアン散乱、非線形光学、スマートストラクチャ、歪、温度、相関、コヒーレンス、周波数変調
ホームページ https://mizuno.ynu.ac.jp/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2020年度 一般研究助成 情報 横浜国立大学 大学院工学研究院 知的構造の創生部門 PDF
研究題名 任意波形変調と動画像処理技術の併用による光ファイバセンサの性能進化

訪問記

最終更新日 : 2021/10/19

訪問日:2021/10/11
訪問時の所属機関 横浜国立大学 大学院工学研究院 知的構造の創生部門 訪問時の役職 准教授

 研究紹介文にもとづき、助成対象となったご研究の詳細を伺いました(図1)。以下は主な質疑応答です。

ご研究を始めた契機はなんですか?
 高度経済成長期に集中的に整備された、建物や橋、トンネル、ダムやパイプラインなど、さまざまな社会インフラの経年劣化や自然災害による損傷を正確に診断する技術の需要が高まっています。これまでは少数の専門家による近接目視や打音調査が行われており、時間やコストがかかるなどの課題がありました。そのためセンシング技術の導入が進められていますが、従来の電気センサでは煩雑な配線が必要となる上、限られた箇所の情報しか得られないという問題がありました。
 このような背景の下、光ファイバをさまざまな構造物に「神経」として埋め込もう、という新たな取り組みが始まっています。この人工神経が機能すれば、人が「ここが痛い」「ここが熱い」と感じるのと同じく、構造物自体が損傷の部位やレベルを検出、伝えることができるようになり、維持管理の効率が飛躍的に向上します。
 光ファイバといえば通信応用しかないと考えていた私は、光ファイバを計測に応用するという発想に興味を持ち、人工神経網を実現するための光ファイバセンシング技術の研究に携わることにしました。

ご研究の独創性を改めてお伺いします
 長尺の光ファイバに沿った任意の位置で物理量を計測できるセンサを「分布型光ファイバセンサ」と呼びます(図2)。私は特に、ブリルアン散乱という現象を用いた分布型光ファイバセンサの開発に注力しています。このセンサでは、光を入射したときに戻ってくる散乱光の周波数が、光ファイバに印加されている歪や温度変化に依存する性質を用います。
 世界中で多種多様な研究が展開されていますが、その多くは単発の光(光パルス)を入射し、散乱光を検出するまでの経過時間に基づいて位置分解を行っていました。これは「時間領域法」と呼ばれます。これに対し、我々は連続光の相関を制御することで位置分解を実現する「相関領域法」です。「ブリルアン光相関領域反射計(BOCDR)」(図3)と名付けたこの手法は、測定ファイバの片端への光入射だけで動作し、空間分解能が高く、ランダムアクセスおよびリアルタイム動作を同時に実現可能な唯一無二の技術であり、私の研究のユニークな点であると言えます。

実用化されると暮らしはどう変わりますか?
 BOCDRの劇的な性能向上は、光学分野・計測分野のアカデミアから大きな注目を集めるだけではなく、構造物のヘルスモニタリングに興味をもつ環境・建築・土木分野の企業や、防災・減災を大きな課題と目する政府にも、大きなインパクトを与えられると期待しています。そして、本技術が実用化されれば、地震による損傷や経年劣化を自己診断できる機能を備えた材料・構造を求める世の中の要求に応え、防災・環境保護・危機管理技術の拡充を促し、人類の生活の安全性・持続可能性の向上に寄与することができると信じています。加えて、新分野への展開により、新産業の創出など、これまでの枠組みにとらわれない社会的波及効果も期待されます。

研究者を志したきっかけを教えてください
 長年、中高生向けの集団塾で英語の講師をしていました。学生たちの成長に大きな喜びを感じる自分自身に気付き、教育が天職ではないかと思うほどでした。また将来は、昔から好きであった英語を活かせる職業に就きたいと思っていました。一方、大学・大学院では日夜研究活動に携わり、まだ世の中にない存在していないシステムを創り出したり、誰も知らない物理現象を発見したり、世界中の研究者と交流・切磋琢磨したりすることの醍醐味を体感しました。
 このような経験から、私が楽しいと感じる「教育」「英語」「研究」という要素をあわせもつ職業として、研究者、特に大学の研究者が向いていると考えました。大学の研究者になるためのハードルは高く、一筋縄ではいかないことも多々ありました。しかし、昨年、個人の研究室を立ち上げ、これまでより一層楽しさを感じられる状況となり、私の判断は間違っていなかったと思えるようになりました。

研究活動の面白さは何ですか?
 一部は先ほどの繰り返しになりますが、「世の中に存在しない新たなシステムを創り出せること」、「誰も知らない物理現象を発見できること」、「世界中の仲間・ライバルたちと交流・切磋琢磨できること、異文化交流の機会が多いこと」、そして、「英語を活かせること」を楽しい、面白いと感じています。さらに、研究室を率いる大学教員にとっては、「学生たちの成長を感じられること」も大きな喜びです。もちろん、苦労が多いのも事実ですが、それでも楽しさが勝っていると感じています。

後進の方に伝えたいことは何ですか?
 どの進路も、その進路なりの面白さと苦労があると思います。想い描いていたような進路でなくとも、ひとまずは与えられた環境で、精一杯がんばってみてください。その結果、初めて見えてくることも多くあります。何事も先入観を持たずにチャレンジすることが大切ではないでしょうか。

後記
 お話を伺う中で、研究活動の醍醐味や苦労話を聞かせていただくこともできました。特に印象に残っているのが、『人生、何がどう転ぶかわからない』、『あらゆる経験が今の糧になる』という言葉です。先生からはこれまでの経験を踏まえた言葉として教えていただきましたが、最初は目の前の現象を理解しきれずに後から『正解だった』とわかることの多い、研究の難しさと楽しさが表れている言葉でもあると感じました。先生のご研究から生まれた『正解』が身近な存在となる日を心待ちにしています。

(技術部長 鳥越昭彦)

著作文献紹介
  • Y. Mizuno, S. Liehr, A. Theodosiou, K. Kalli, H. Lee, and K. Nakamura, “Distributed polymer optical fiber sensors: a review and outlook,” Photonics Research, vol. 9, no. 9, pp. 1719-1733 (2021).
  • Y. Mizuno, N. Hayashi, H. Fukuda, K. Y. Song, and K. Nakamura, “Ultrahigh-speed distributed Brillouin reflectometry,” Light: Science & Applications, vol. 5, e16184 (2016).
  • Y. Mizuno, W. Zou, Z. He, and K. Hotate, “Proposal of Brillouin optical correlation-domain reflectometry (BOCDR),” Optics Express, vol. 16, no. 16, pp. 12148-12153 (2008).
    https://mizuno.ynu.ac.jp/publications/journal-papers