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2021/07/21

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
中村 貴志
ナカムラタカシ
超分子、大環状分子、金属錯体、配位結合、配位捕捉、反応場、分子認識、活性種、多量体、精密重合、イミン結合、合成化学
ホームページ https://researchmap.jp/7000024559/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2020年度 奨励研究助成 新材料 筑波大学 数理物質系 化学域 PDF PDF
研究題名 配位捕捉空間を活用した精密多量化反応

訪問記

最終更新日 : 2021/07/21

訪問日:2021/07/15
訪問時の所属機関 筑波大学 数理物質系 化学域 訪問時の役職 助教

オンラインインタビュー(図1)で、助成研究内容や研究への想いなどについてお伺いしました。

まず、研究タイトルの「配位捕捉空間」について教えてください
図2の緑色の帯の部分は分子が数個つながって環状になったものを模式的に表していますが、これを「大環状分子」といいます。球の部分は金属イオンでピンク色の部分は金属と結合できる配位サイトを表しています。従来は、分子を捕まえる分子間相互作用としては水素結合や疎水効果など比較的弱い相互作用での研究が行われてきたのですが、私の研究では比較的強い結合である金属との配位結合を使って分子をしっかり捕まえられるようにしています。もう一つ従来との違いとしては、大環状分子の中に配位サイトが多く集積された構造を取ることです。これによって、数個の分子をしっかりと捕捉することができます。この空間を「配位捕捉空間」と呼んでいます。これは研究コンセプトを表現するために私が使っているオリジナルの用語になります。

大環状分子でどのような分子を捕捉できるのですか
 研究紹介文の図の左はpap注)と呼ばれる配位部位を6個つなげた大環状分子です。これは2017年に報告した分子で、papが6個あるので「Hexapap」と名付けました。このピンクの部分で分子を捕まえることができるのですが、例えば金属が亜鉛の場合、カルボキシ基が両端についた分子(ジカルボン酸)二つを環の内側に捕捉することができます(図3)。この捕捉は配位結合なので他の相互作用よりも結合力が強く、分子の相対配置がしっかりと固定できます。そのため、これを反応制御に使うことを考えて今回の助成研究の提案をさせていただいた次第です。
注:2-[(pyridin-2-ylmethylene)amino]phenol]

これを反応制御に使うとどのような利点があるのですか
同じ種類の分子を繋げていく反応、つまり「重合反応」で分子を何個繋げるか(=何量体にするか)を制御できれば、すべての分子が同じ性質を持つのでとても高機能な材料になります。また、反応後の分離プロセスも不要になります。しかし、通常は3量体だけとか、6量体だけとか、重合反応の回数を制御することは非常に難しいことです。
今回の助成研究では、配位捕捉空間の中にモノマーを例えば6個だけ捕捉して、その状態で反応させれば常に6量体だけが生成することができるのではないかということを目指しています。

研究紹介文の図の中央の分子は3個、右は4個の配位サイトを持っているということですか
 大環状分子の内側には、模式図の構造の場合は、中央のBpytrisalenでは3つの金属の計6か所、右のSaloph-beltでは4つの金属の計4か所の配位サイトを持っているということになります。ただし、Bpytrisalenは三角形の角に3か所の配位サイト(青)、Saloph-beltは四角形の外側にも配位サイトがあります。環の中で反応を起こす場合でも内側の配位サイトとは別に外側のサイトに配位する場合もあり得ますし、内側と外側の両方で分子が結合する様な配位も考えられます。Saloph-beltではこの大環状分子同士が連結した構造にすることも可能で、様々な捕捉の形が考えられます。

大学での研究者を志されたのはいつ頃ですか
 子供の頃から科学は好きでしたが、大学に入ってから大学教員になりたい気持ちが強くなりました。高校生の時は教科書から学ぶものがほとんどで、すでに体系立ったものばかりだったわけですが、大学生になって最先端の研究に触れる度に研究に対しての面白さを感じて、自分も既知の知識ではなくて新しいものを発見し開拓していく職業に就きたいと思いました。

研究の魅力・楽しさはどのようなところですか
自分の考えたアイデアを自分で実行に移せるというところが、大学での研究の一番の魅力かなと思います。かなりチャレンジングな構想でも、今回の様に申請を認めていただければ実際に試してみることができる、そしてそれが大発見につながるかもしれない、ということですね。大抵は思った通りに行かないことがほとんどですが、明日にはすごい大発見が出てくるかもしれない、ということを毎日やれるのは非常にエキサイティングなことだと感じています。

グループのホームページに「研究の感動を一緒に体験しよう」と書かれていますね
 はい。どんな実験でもその結果を一番最初に知るのは自分自身なんです。それが「思った通りに行った」ことでもいいですし、「予想外のすごい結果が出た」でもいいのですが、これらは「世界で初めて自分がそれを知ったんだ」という感動になります。学生さんにはそれを味わってほしいと思っています。

後記
中村先生は、この4月から「中村グループ」という独立した研究グループをスタートしたところです。そのためか、話をされる先生の口調にもとてもフレッシュな感覚を受けました。今回お聞きした内容からだけでも、大環状分子の種類、捕捉する分子の種類、配位サイトの組み合わせ、などたくさんの新しい反応の可能性が秘められています。この中からこれまでにない高機能な新材料が創出されるのを期待しています。
(矢崎財団技術参与 池田)

著作文献紹介
  • [1] a) “Molecular Recognition by Multiple Metal Coordination Inside Wavy-Stacked Macrocycles”
    Takashi Nakamura, Yuya Kaneko, Eiji Nishibori, Tatsuya Nabeshima.
    Nature Commun., 8, 129 (2017).

    https://dx.doi.org/10.1038/s41467-017-00076-8
  • [1] b) “A Twisted Macrocyclic Hexanuclear Palladium Complex with Internal Bulky Coordinating Ligands”
    Akira Nagai, Takashi Nakamura, Tatsuya Nabeshima.
    Chem. Commun., 55, 2421–2424 (2019).

    https://dx.doi.org/10.1039/C8CC09643K
  • [1] c) “A Sandwich-Shaped Hexanuclear Silver Complex with a Giant Cavity Constructed from a Macrocycle with Inward Chelating Units”
    Takashi Nakamura, Rui Yun Feng, Tatsuya Nabeshima.
    Eur. J. Inorg. Chem., 308–313 (2021).
    https://dx.doi.org/10.1002/ejic.202000882
  • [2] “Bpytrisalen/Bpytrisaloph: A Triangular Platform That Spatially Arranges Different Multiple Labile Coordination Sites”
    Takashi Nakamura, Yuto Kawashima, Eiji Nishibori, Tatsuya Nabeshima.
    Inorg. Chem., 58, 7863–7872 (2019).

    https://dx.doi.org/10.1021/acs.inorgchem.9b00549
  • [3] “Double-Circularly Connected Saloph-Belt Macrocycles Generated from a Bis-Armed Bifunctional Monomer”
    Takashi Nakamura, Shinnosuke Tsukuda, Tatsuya Nabeshima.
    J. Am. Chem. Soc., 141, 6462–6467 (2019).

    https://dx.doi.org/10.1021/jacs.9b00171