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2021/10/21

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
鈴木 弘朗
スズキヒロオ
二次元半導体材料、遷移金属ダイカルコゲナイド、化学気相成長法、プラズマプロセス
ホームページ https://hayashi-lab.org/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2023年度 国際交流援助 材料・デバイス 岡山大学 学術研究院 環境生命自然科学学域
研究題名 マイクロリアクタを用いた高品質・大面積二次元半導体の化学気相成長における成長メカニズム解明と成長制御
2020年度 奨励研究助成 新材料 岡山大学 大学院自然科学研究科 PDF PDF
研究題名 半導体原子層物質のプラズマを用いた低温・高速合成

訪問記

最終更新日 : 2021/10/21

訪問日:2021/09/16
訪問時の所属機関 岡山大学 大学院自然科学研究科 訪問時の役職 助教

オンラインインタビュー(図1)で、助成対象テーマの内容や研究に対する考え方などをお伺いしました。

今回申請した研究に着目したきっかけを教えてください。
 私は、電子材料の研究を行っています。研究のきっかけは学部・大学院生の時に着手したグラフェンの研究です。現在は、グラフェンのような新しい原子層物質の研究が活発に行われています。この原子層物質のうち、グラフェンは金属的な性質を持っていますが、グラフェンの次に発見されたhBN(Hexagonal boron nitride)は、絶縁体的な性質を持っていいます。今回の提案しているTMDC(Transition metal dichalcogenide)は半導体的な性質を持ち、IC、太陽電池などの応用が期待されます。
 TMDCの研究は、新しい研究領域であり、その合成方法は、従来、熱的な方法で合成していましたが、新たにプラズマプロセスを導入することで、結晶サイズ、成長温度の低温化、成長速度の増大のような効果と同時に、新しい機能を発見できる可能性があると考えています。

先生の研究の独自性を教えてください。
 TMDCの合成は、酸化物(MoO3など)にカルコゲン(硫黄など)という材料を混合し、加熱することで結晶を成長させます。しかし、酸化物の融点が高いため制御が難しいという問題がありました。これに対し、塩(NaCl)を加えることで反応性が向上するという報告がなされています。
 現在の進捗は、申請時には10ミクロン程度の結晶が得られる程度でしたが、金属の塩(Na2MoO4など)を用いることで100ミクロンの結晶の成長ができるようになりました。この塩の利用とプラズマプロセスを組み合わせるためにプラズマ装置を作製したとこです(図2参照)。まだ、合成までは進んでおりませんが、この装置を用いて、プラズマ照射による結晶や光学特性の影響を確認しています。
 申請した研究とは少し離れますが、TMDCに水素プラズマを照射し、さらに異なるカルコゲンと反応させると、ヤーヌスTMDCという新しい原子層物質が合成できる可能性があります。このヤーヌスTMDCはMoの上下面でカルコゲンの種類が異なるもので、次の研究テーマも意識しながら検討を行っています(図3参照)。
 また、TMDCのような原子層物質は、様々な元素で形成できると同時に、それらを積層することができます。異なる材料を重ねる場合には格子不整合という問題が生じますが、原子層物質ではファンデルワールス力により結合しているため、格子不整合を無視してヘテロ化できるメリットがあります。
 私たちは、hBNとCNT(Carbon nanotube)で積層構造を作製し、電流電圧特性の評価を行ったところ、この材料が、メモリスタと呼ばれる特性をもっていることがわかりました。メモリスタとは、脳のシナプスを模擬できる可能性がある素子で、通過した電荷を記憶し、それに伴って抵抗が変化する素子です。このような一次元のファンデルワールスヘテロ構造は近年他グループ(東京大学)が報告したものですが、この構造を束ねて糸(ヤーン)にした際の電気特性は未知で、その特性を調べることで、抵抗、インダクタ、コンダクタの次の第4の受動素子であるメモリスタ材料を発見することができました。

研究者になったきっかけ教えてください
 父親がプラスチック関連の会社をやっていたこともあり、子供の頃から研究職をやりたいと漠然と思っていました。そして、大学院の時に就職を考えましたが、企業は製品を生み出すために役に立つ技術にフォーカスされがちですが、自分はそれだけではなく、人の役に立たないものに目を向けながら、もっと面白い研究がしたいと思い、研究職を選びました。

研究の面白いところ、また学生に伝えたいことを教えてください
 メモリスタを発見した経緯は、学生が卒研で、hBNとCNTの層状物質の電流電圧特性を測定した時に階段状に抵抗が変わる現象を見つけたことがきっかけです。私は学生時代メモリスタの話を聞いたことがあり、その記憶をもとに確認実験を行いました。研究では、何か新しいことに取り組むことで、新たな現象が発見できると考えています。メモリスタも同様で、すでに既知であるhBNとCNTの層状物質の研究から、電気特性を測るという新たなアイデア加え、偶然メモリスタを発見しました。このように、誰もまだ見たことないような現象を、人類史上初めて発見することに、面白みを感じます。
 学生には、実験の時にこれ普通だよね、もっと何か変なことなんか起きるといいね、と言いながら、発見する面白さを伝えられたらよいと思います。また、それと同時に、大学院の時にフィンランドに学会発表のために行き、非常に刺激をうけて楽しい経験をしました。このような海外の学会で発表するという経験から、様々な刺激を受けてほしいと思います。

後記
「すでにあることでなく、世にないことをやり、そこで新たな面白いことを発見する。」先生とのインタビューで非常に印象に残った言葉です。何か面白いことを発見するには、小さな現象をも見逃さないことが重要だと思います。研究の原点も現場にあると思います。先生は学生が顕微鏡で観察しているときに、横でそれを見ているとのことでした。それと同時に日々の実験データと自分の様々な経験と知識により、これが「面白いものである」と判断できることに、そのすごさを感じました。
 社会の役に立たない研究はないと思います。その研究が将来大きく社会に貢献すると思います。先生の新たな発見が大きく社会に貢献することを確信しています。今後の先生の活躍をお祈りしております。
(矢崎財団 常務理事 砂山竜男)

著作文献紹介
  • H. Suzuki, T. Kaneko, Y. Shibuta, M. Ohno, Y. Maekawa and T. Kato, Nature Communications 7, 11797 (2016).
    H. Suzuki, N. Ogura, T. Kaneko, and T. Kato, Sci. Rep. 8, 11819 (2018).