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2021/11/11

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
呉羽 拓真
クレハタクマ
高分子材料、プラスチック、ハイドロゲル、分解性フィルム、イオン架橋、ダイナミクス、動的光散乱法
ホームページ https://www.t-kureha-lab.com/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2020年度 奨励研究助成 新材料 弘前大学 理工学部物質創成化学科 PDF
研究題名 海洋分解性モデル高分子フィルムの開発と分解メカニズムの解明

訪問記

最終更新日 : 2021/11/11

訪問日:2021/10/27
訪問時の所属機関 弘前大学 理工学部物質創成化学科 訪問時の役職 助教

オンラインインタビュー(図1)で、助成研究内容や研究の考え方などについてお伺いしました。

この研究に取り組んだ動機を教えてください
昨今、プラスチックが海洋に流れ出て生物や環境に深刻な影響を及ぼしている問題は皆さんもご存じかと思います。この海洋プラスチック汚染については、2008年頃から一部の研究者からの問題提起があり、2011年頃には各種メディアでも取り上げられるようになりました。高分子化学に携わっている私としてもこの問題の解決に寄与したい、という気持ちが研究のモチベーションになっています。
今回対象としている高分子材料は、海洋分解とは違う目的で機能性高分子フィルムの開発をしていく中で発想したものでした。高分子側鎖にある脱プロトンしたカルボキシ基(COO-)をカルシウムイオン(Ca2+)で架橋した構造をした「ポリアクリル酸カルシウム(pCAA)」という材料です(図2)。このCOO-とCa2+は静電的な結合をしているため水中ではCa2+が溶け出し、架橋が切断され高分子が水に溶ける現象が認められました(研究紹介文の図)。これは生分解ではありませんが、高分子が海洋に流出したとしても害がない物質に分解する材料であり、海洋汚染問題解決に有効な手段になるのではないのかと考え、今回の研究助成申請に至りました。

つまり、魚などが飲み込んでも害がないものに分解する材料、ということですか
そうです。ただ、水中で分解する現象は確認できたのですが、プラスチックとして利用するためには分解する前の性質も重要です。プラスチック材料の利点は適度な柔らかさと強度であり、それによって容器やフィルムなどに使われているわけです。一般的には、分解しやすい材料にすると脆くて弱い材料になってしましますし、逆に強靭な材料にとすると分解しにくくなる、という相反する関係になっています。そのため、適度な強靭性を持ちつつ分解しやすい材料を設計/開発することがこの研究の目指すところです。
また、海洋分解の場面だけでなく、部材の一部が瞬時に分解する材料なども最近求められる様になってきています。様々な用途で活用されるためには、目的に応じて分解時間を調整できることも重要になってくると考えています。

この研究のキー技術はなんでしょうか
pCAA中のカルシウム濃度と高分子濃度によって、「強靭性」と「分解性」が変わってくることは分かっていますが、材料を所望の特性に設計するためにはこれらの関係を定量的に把握する必要があります。研究では、カルシウム濃度と高分子濃度が異なる様々な組成のフィルムがどの様な物性になるのかを測定するのと同時に、どの様に分解して溶け出すのかを測定できる分析技術がキーとなります。
高分子が溶け出す様子を測定するには、動的光散乱法(DLS)という方法を使います。高分子は常にミクロブラウン運動という微小な運動をしていますが、対象物に光を照射しそこからの散乱光を検出することによって、高分子がどれだけ動いているのかを捉えることができます。分解していくと高分子の運動性が高くなるので、どれだけの速さで高分子が溶け出しているのかを「拡散係数」という指標で知ることができます。
また、Ca2+を取り込むと蛍光を発する薬剤を使うことで、カルシウムの動きも測定できます(蛍光相関分光法:FCS)。この二つの分光法は既に知られているものですが、この両方を同時に計測できる装置は世の中にありませんでした。今回、この助成研究の中で同時測定ができる装置(図3)を完成させましたので、今後様々な濃度のフィルムの測定に使っていこうとしているところです。

お若くて既に独立した研究室をお持ちですが、大学での研究者の道に進もうと考えた動機は?
 大学の4年生で研究室に配属になって、それから半年くらいしたころは博士課程まで進もうと考えるようになりました。理由はいろいろあったのですが、一番の動機は純粋に研究が楽しくて「研究にハマった」ということです。この研究室での指導教官は、ちょうど今の私と同じくらいの歳の助教で独立した研究室を持っていましたので、自分もこんなラボを構えたいという気持ちもありました。その後、ポスドクのときに弘前大学の公募を見てすぐに応募しまして、幸いにして研究室を持たせてもらっています。

学生さんを指導する立場でもありますが、どの様な指導していらっしゃいますか
 学生とは歳が近いこともあり教員と学生という関係というよりも、一共同研究者として接しようと常に考えています。研究では予想していなかった様な結果に出会うことが面白さや楽しさにつながりますが、私が実験内容を指示するだけではそのような結果は出てこないと思っています。本人が気になったことや面白いと思ったことに対して「次はそこを詰めてみようよ」、などとアドバイスしながら一緒に研究を進めています。

後記
海洋汚染問題の解決になることを目的として研究をスタートされていますが、この研究を進める中で「意のままに分解させることができる高分子材料」の可能性も見えてきたとのことでした。これは工業材料の機能としても、いろいろな応用に展開できることが期待されます。世界初の分光分析装置がこの実現のために、ますます活躍してくれることでしょう。
(矢崎財団技術参与 池田)

著作文献紹介
  • (1) Takuma Kureha*, Kyohei Hayashi, Xiang Li, Mitsuhiro Shibayama*, Soft Matter, 2020, 16, 10946–10953.