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2022/09/27

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
鷹谷 絢
タカヤジュン
有機合成化学、有機金属化学、錯体化学、二酸化炭素、カルボン酸
ホームページ http://www.chemistry.titech.ac.jp/~iwasawa/index.html
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2021年度 一般研究助成 新材料 東京工業大学 理学院化学系 PDF
研究題名 二酸化炭素の高度資源化を可能にする均一系複合金属触媒の創製

訪問記

最終更新日 : 2022/09/26

訪問日:2022/09/05
訪問時の所属機関 東京工業大学 理学院化学系 訪問時の役職 准教授

オンラインインタビュー(図1)で、鷹谷先生に研究内容についてお伺いしました。

「有機合成化学」における先生の研究の特徴はどの様な点ですか
有機合成の反応開発では、試薬会社で販売している金属触媒を利用しそれらをスクリーニングすることで最適な反応プロセスを見出していくというのが,よく行われるアプローチです。一方、私たちは自分たちで新しい分子触媒や反応活性種を開発して、それを使うことで今までできなかった新しい反応を開発していくことを研究の一番の目的としています。これによって達成したいと考える二つのねらいがあります。
一つは、石油資源を効率良く使える反応を開発したいということです。私たちが日常利用している有機化合物は、石油を原料にして反応性に富んだ中間体を介して多段階の反応で合成されています。それぞれの反応段階ではエネルギーが使われ、中間で不用化合物が出てしまうというプロセス全体として効率の悪さがあります。そのため、石油から中間体を一切経由せず有用化合物にできる様な革新的な変換反応を実現したいと考えています。
もう一つは、今回の助成研究に関連することになりますが、そもそも石油資源を使わないで,その代わりに二酸化炭素やバイオマスなどを原料にして有用化合物を作りたいということです。このような反応は非常に難しくて,そんな簡単には実現することができません。既存の触媒で達成できないのは当然ですから、そのための革新的な構造や機能を持つ触媒をやはり大学の研究者である我々が開発しなければならない、というのが研究の大きなモチベーションになっています。

この様な難しい反応を達成するためのキー技術はなんでしょうか
通常、金属触媒反応では一つの金属を触媒として用いるのが普通ですが、それに対して我々は一つの分子触媒の中に二つ以上の金属を持った「複核金属触媒」に着目して開発を行っています。一つの金属ではできることに限りがありますが、二つを組み合わせることで従来の限界を超えた新しい触媒が作り出せるのではないかと考えています。しかし、分子内に金属を二つ組み合わせるのは、これまで簡単なことではありませんでした。私たちは金属を取り囲む有機化合物である「配位子」を精密に設計し合成し、この配位子をいわば「鋳型」として使うことで二つの金属を組み合わせた触媒分子「二核金属触媒」を実現しました(図2)。
これまでに、13族金属(アルミニウム、ガリウム、インジウムなど)と遷移金属の組み合わせを持った金属触媒を多数創出してきましたが、代表的なものとしてはアルミニウムとパラジウムを組み合わせた二核金属触媒があります。この触媒によって、「二酸化炭素」と「シラン(珪素と水素結合を持つ化合物)」から有用有機物を生成する元になる「ギ酸誘導体」を得る反応が効率よく進行し、世界最高となる触媒性能(触媒回転頻度:TOF)を達成しています。

今回の助成研究ではどの様な研究になるのでしょうか
助成研究では、二核金属触媒に光照射を行うことで二酸化炭素を還元し、さらに有用な有機化合物にまで一気に変換する研究提案をしています。光エネルギーを使って二酸化炭素を還元するというのは、いわゆる「人工光合成」反応でこれまでもたくさんの研究が行われています。しかし、これまでの人工光合成では光を吸収して還元剤から電子を受け取る部分と,二酸化炭素を還元する部分を別々の触媒分子が担っているので、反応に関わる電子の受け渡しが非効率でした。
我々の開発した二核金属触媒では、ひとつの触媒分子内で二つの金属が隣り合っているので電子の受け渡しが非常に効率的です。そのため、光吸収から二酸化炭素還元、さらには他の有機分子と反応させて有用化合物を生成するところまで効率的に反応が進むと考えています。

さらにその先の目標や夢として考えていることは?
これまで、13族元素と遷移金属の組み合わせの二核金属錯体を研究してきましたが、今後遷移金属同士の組み合わせによる触媒の創製を目指しています。13族元素は機能として、「二つの電子を奪う」ということしかできないのですが、遷移金属では例えば「1電子を奪う」とか「1電子を渡す」、そして2電子の授受や3電子の授受など、電子の受け渡しを柔軟にできるという特長があります。そのため、遷移金属の組み合わせによって触媒機能の幅を大きく広げることができるはずです。ただし、遷移金属を二つ組み合わせるのは非常に難しいことなので、チャレンジングな取り組みになります。
また、金属二つに限らず三つ以上金属をつなぎ合わせることもやっていきたいですし、さらには周期表上のすべての金属を自由自在に組み合わせることができれば分子機能の宝庫としてとても魅力的な触媒の世界が広がると考えています。

「化学」研究の面白さや醍醐味って何でしょうか
化学は「分子」を取り扱うことができる唯一の学問です。その中で、「分子」をデザインして、それを作る。そして、その機能を使いこなす。これが「化学」の面白いところで、そんな観点から自分たちで金属触媒を設計して作るところから始めて、反応開発をやっているわけです。

「化学」研究者になろうと思ったきっかけは何だったのですか
化学の研究においてもう一つの面白い点は、思いもよらない場面で思いもよらなかったことを発見する、いわゆる「セレンディピティ」です。学生のときに今でも明確に覚えているセレンディピティ体験がありまして、それをきっかけとして研究を進めて論文にまとめるという一連の経験ができた中で、「有機化学研究ってこんなに楽しいんだ」って感じられたことが動機として大きかったですね。自分のやりたい様にやって、世界の誰もまだできていないことができる、そうゆう研究職に魅力を感じたんだと思います。

(聞き手:矢崎財団 池田)

著作文献紹介
  • 総説
    1) Jun Takaya, Catalysis of Transition Metal Complexes Featuring Main Group Metal and Metalloid Compounds as Supporting Ligands, Chem. Sci., 12, 1964 (2021).
  • 原著論文
    1) Jun Takaya, Koki Ogawa, Ryota Nakaya, Nobuharu Iwasawa*, Rhodium-Catalyzed Chemoselective Hydrosilylation of Nitriles to an Imine Oxidation Level Enabled by a Pincer-type Group 13 Metallylene Ligand, ACS Catal., 10, 12223 (2020).
  • 2) N. Saito, J. Takaya, N. Iwasawa, Stabilized Gallylene in a Pincer Type Ligand: Synthesis, Structure, and Reactivity of PGaIP-Ir Complexes, Angew. Chem., Int. Ed. 58, 9998 (2019).
  • 3) J. Takaya and N. Iwasawa, Synthesis, Structure, and Catalysis of Palladium Complexes Bearing a Group 13 Metalloligand: Remarkable Effect of an Aluminum-Metalloligand in Hydrosilylation of CO2, J. Am. Chem. Soc., 139, 6074 (2017).