» 助成金受領者 研究のご紹介 » 研究者の詳細

2022/09/27

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
脇坂 聖憲
ワキザカマサノリ
炭化鉄、ナノ粒子、多孔性グラファイト、水素下熱炭素還元法、ナノ磁性
ホームページ https://researchmap.jp/wakizakamasanori
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2021年度 奨励研究助成 新材料 東北大学 理学研究科 PDF PDF
研究題名 多孔性グラファイトを担体に用いた炭化鉄ナノ粒子のサイズ制御合成と強磁性相互作用の解明

訪問記

最終更新日 : 2022/09/27

訪問日:2022/08/24
訪問時の所属機関 東北大学 学際科学フロンティア研究所 訪問時の役職 助教

オンラインインタビュー(図1)で、助成対象テーマの内容や研究に対する考え方などをお伺いしました。

先生の研究を簡単に説明してください。
私は、金属炭化物クラスターの研究を行っています。金属炭化物とはセラミックに分類され、伝導性を有するなど、普通のセラミックとは異なる性質を持っています。また、クラスターとは数個から10個程度の原子の集まりで、1nm以下の粒子(ナノ粒子が10nm以下)となります。粒子のサイズを小さくすると、例えば金の場合、融点が低下するなど、我々が知っている特性とは別の特性が発現することがあり、これを利用したクラスターの研究は物理学、生物学、化学で幅広く行われています。

先生の研究の独自性は何ですか。
金属炭化物クラスターを合成する手法として、水素化熱炭素還元法というものを見つけました。これは、カーボン担体上に金属を集積させた樹状高分子を付着させて、500℃の水素雰囲気で焼く手法となります。(図2)。
また、樹状高分子中の金属の数を変えることで、クラスターサイズの制御ができていること、合成した炭化鉄クラスターが室温で磁石の性質を示し、粒子サイズを小さくすると、さらに強く磁性を示すことがわかりました。通常の磁石は、その粒子を5nm以下と小さくすると、超常磁性と呼ばれる磁性を消失する性質を示すことから、粒子サイズ1nmの炭化鉄クラスターが磁性を示す現象は、全く新しい知見となります。
この現象を解明するため、磁気特性を調べたところ、温度を高くすると磁性を失うキュリー温度が粒子サイズに依存しないこと、超常磁性が発現するブロッキング温度に違いがあることから、炭化鉄の磁気メカニズムが直接交換相互作用(原子間距離にのみ依存)によるものと考えました。 

助成研究の内容を教えてください
炭化鉄クラスターが磁性を示すメカニズムを解明することです。この特性が、担体であるカーボン担体と炭化鉄ナノ粒子の相互作用に関係すると考えているため、異なる粒子サイズの炭化鉄をカーボン担体上に担持して、磁気特性(保持力、キュリー温度、ブロッキング温度)を測定することで、その現象の解明を行います。現在は、狙ったサイズの炭化鉄を作成し、磁気特性の測定を行っています。

助成研究の社会的な意義を教えてください。
 現在コンピュータなどに使われているハードディスクにはナノサイズ10~20nm程度の磁石が使われています。この磁石サイズを小さくすることで、ハードディスクの記憶容量を大きくすることが可能となります。しかし超常磁性により、磁石サイズを小さくできないという課題がありました。私の研究する炭化鉄は粒子サイズ1nmで磁性を示すので、従来の超常磁性を大きく改善する可能性があります。この研究により次世代の超高密度磁気記憶素子として、社会の発展に大きく貢献できると考えています。

研究の面白さとはなんですか。
この炭化鉄の研究を例にとると、そのきっかけは金属モリブデンのクラスターを作ろうと思ったことです。そのため樹状高分子を水素で還元したところ、金属モリブデンと全く異なるものができました。これが何かしばらくわかりませんでしたが、偶然に炭化モリブデンであることがわかりました。そのとき、水素で焼いてるのに、なぜ炭化物ができるのかという意外性を感じ、炭化鉄は昔からある物質ですが、サイズを小さくすると炭化鉄の特性が従来のよく知られた特性と全く違い、まるで未知な材料を発見したと思わせたところに研究の面白さがあると感じました。

研究者を目指した動機を教えてください。
私は、大学受験をしなかった経験を持っています。この時期に、サイエンスが好きだということを改めて認識して、大学への進学と同時に博士号まで取ることを決めました。そして大学で実際に研究をしてみると、自分のアイデアを試せること、誰も知らない自分の研究が論文誌に掲載されたことが非常にうれしく感じたことで研究者になることを決めました。
研究者としての信条は、誰もがやったことがないことをやってみるということです。今の研究も、卑金属を集積させた樹状高分子を水素雰囲気で還元することをやる研究者がいなかったので、試してみたところ、新しい知見を得て、現在の非常にユニークな炭化物を発見できたと思います。そして、その大切さを実感しています。

後記
「意外性・だれもやっていないことをやりたい」。言うのは簡単ですが、それをやることは大変など努力が必要と思います。それを実現できていることに先生の研究への突破力を感じました。今後、先生の研究が社会に大きなインパクトを与える成果につながることを大いに期待しています。
(矢崎財団常務理事 砂山竜男)

著作文献紹介
  • 1. Masanori Wakizaka, Takane Imaoka, Kimihisa Yamamoto, Highly Dispersed Molybdenum Oxycarbide Clusters Supported on Multilayer Graphene for the Selective Reduction of Carbon Dioxide, Small, 巻2021, pp.2008127 (2021年).
  • 2. Masanori Wakizaka, Augie Atqa, Wang-Jae Chun, Takane Imaoka, Kimihisa Yamamoto, Subnano- transformation of Molybdenum Carbide to Oxycarbide, Nanoscale, 巻12, pp.15814 (2020年).