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2023/11/01

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
岡林 潤
オカバヤシジュン
X線磁気分光、光電子分光、メスバウアー分光、界面スピン軌道物性、軌道磁気モーメント、磁気異方性
ホームページ http://www.chem.s.u-tokyo.ac.jp/users/spectrum/index.html
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2022年度 一般研究助成 材料・デバイス 東京大学 大学院理学系研究科 PDF PDF
研究題名 液晶化学に倣う異方的な電荷分布を有する新規な磁気異方性材料の創成

訪問記

最終更新日 : 2023/11/01

訪問日:2023/10/18
訪問時の所属機関 東京大学 大学院理学系研究科 訪問時の役職 准教授

岡林先生の研究室に訪問して(図1)、研究インタビューをさせていただきました。

助成研究の概要
 物理学と化学の双方のアプローチを融合した独自な研究として、化学結合論に基づいたスピントロニクスに関する磁性体の物質設計等に注力し、オリジナルな磁気分光研究を展開しています。薄膜界面に生じる格子ひずみを電圧ピエゾ効果と力学的応力によって能動的に操作し、垂直磁気異方性を制御できる物質系の設計と軌道磁気モーメントを計測できる磁気円二色性(XMCD)および異方的な電荷分布を測定する磁気線二色性(XMLD)の測定法を応用して、外場印加時の非平衡状態を観測できる新しいオペランド磁気分光法を開発しました。この開発により、液晶を模倣したひずみ効果による可逆的な軌道磁気モーメントの操作を世界で初めて実証し、面内-面直の磁気異方性の制御を実現させることにより、電子論に基づく新規な磁気異方性を有する物質系の創出に繋げます。

未開拓領域に挑む
 私の研究領域を簡単に示すと図2のようになります。スピン磁気モーメントと軌道磁気モーメントをひずみとともに並べると、それぞれに関係性があります。スピンと軌道の間にはスピン軌道相互作用という、量子学的な効果があるということが知られています。また、磁性(スピン)がひずみにより変化することは、磁気弾性効果として古くから知られています。一部の物質ではそういう効果を示すことも知られています。私が一番興味を持っているのが、軌道とひずみの間の関係です。ここには、きちんとした定式化もなければ、どういった関係性があるのかということが量子力学に基づいた電子論においてはまだ明確ではありません。この未開拓領域に着目し、興味を持って研究しています。軌道磁気モーメントは従来の磁化測定の手法では、測定することができません。私は軌道磁気モーメントを測定するために特殊な分光法を開発し、ひずみをかけた状態で測定するというオリジナルな研究を進めています。軌道の測定は、高エネルギー加速器研究機構(KEK)のつくばキャンパスにある放射光施設(フォトンファクトリー)のビームラインで放射光という特殊な光を活用して、私どものスペクトル化学研究センターが所有する設備で行っています。研究の極めて重要な核心の部分になるひずみをかけた状態で測定できるように、装置改良やメンテナンスなどを私が管理者として行っています。スピンも軌道もひずみの影響を受けますが、軌道の方が影響を受ける割合が断然大きいことがわかってきました。この未開拓領域を軌道弾性効果と名付けて、電子論に基づいた軌道の基礎学理を構築する研究を行っています。

実は似ている
 私が行っている電子の軌道物性の研究は、実は液晶化学に似ているというアイディアを持っています。ここには共通の物理があると考え、それを突き詰めたいと思っています。今回の研究提案では、図3の下の絵のようにひずませた軌道のイメージを青とオレンジで示しています。本来であれば、結晶中では丸い状態ですが、薄膜の界面などの異方的な環境により、青い饅頭型やオレンジの葉巻型にひずみます。圧力をかけたり、戻したりすることにより軌道磁気モーメントがひずみ葉巻型のように上向きになったり、饅頭型のように面内に横向きになったりと磁気異方性を変える制御ができるのではないかということが最初の取っかかりでした。このように考えると、高分子や液晶さらには原子核物理の文献等には似たような記載があり、図3の上の絵のように高分子がうねうねとしていたものが、例えば電気的な刺激を与えすると、ネマチック相からきれいに配向がそろう完全配向相の状態になったりすることがあります。この液晶化学とは分野が異なる電子系ですが、電荷分布の形を制御するという対象性が似ているのではないかと思い、オリジナルなX線磁気分光を用いたスペクトルの解析から定式化したいと考えています。

キーワードは軌道と垂直磁気異方性
 私は磁性に興味があって研究を始めました。特に磁気異方性という、等方的じゃなくて偏ってるものなのですが、磁性では極めて重要な性質です。スピントロニクスにおけるスピンの制御は、スマホやパソコンなどの電子機器の磁気記録素子に必要で、高い記録密度が要求されています。現状は、横向きの磁石で磁気記録を行っていますが、横に並ぶ磁石同士が影響を受けるために高密度化には限界があります。そこで、横の影響を受けにくい上向きの磁石に社会的要請があります。高性能なスピントロニクスデバイスとするには、垂直磁気異方性が必須です。垂直方向に磁気が安定な不思議な物質を作るという応用を考えた材料開発を行う上でも、なぜ垂直を向く磁気が安定になるのかという物理的なメカニズムの解明が、先に述べた未開拓領域の軌道弾性効果の研究に繋がっています。


興味を持つ
 教育者として学生を指導する際には、モチベーションを高めてあげるようにしたいと常に思っています。興味があるものを引き出すという感じです。本人がやりたいと思っていることを、どんどんエンカレッジしてあげて、これいいねってなる。楽しんでもらうし、楽しめるような研究、本人が楽しいと思い感動してもらえるように、目を配って学生を見守るように、裏役にまわるのも教育者だと思っています。

著作文献紹介