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2024/09/13

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
大石 雄基
オオイシユウキ
蛍光色素、ロタキサン、シクロデキストリン、近赤外光、光安定性、光増感、生体イメージング、光温熱療法、分子認識、ホスト-ゲスト化学、超分子化学、光化学
ホームページ http://www.pha.u-toyama.ac.jp/yakka/index-j.html
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2023年度 奨励研究助成 材料・デバイス 富山大学 学術研究部 薬学・和漢系 PDF
研究題名 ロタキサン型近赤外吸収色素の創成と応用

訪問記

最終更新日 : 2024/09/17

訪問日:2024/09/03
訪問時の所属機関 富山大学 学術研究部 薬学・和漢系 訪問時の役職 講師

富山大学大石先生の研究室に訪問して、これまでの研究内容や助成研究のねらいなどについてお伺いしました。(図1)

【研究対象について】
 今回、「ロタキサン型近赤外吸収色素の創成と応用」という題目で研究申請させていただきましたが、専門外の方には「ロタキサン」という名前には聞きなじみがないかもしれません。「シクロデキストリン」という環状オリゴ糖の「輪」の中に「軸」になる分子が入っている構造を「ロタキサン」と呼びます。
 私たちの研究室ではこのロタキサン構造に着目した色素の開発を行っています。今回の助成研究内容の前に、この研究の背景について説明しましょう。

【有機色素の機能と課題】
 「色素」というのは光を吸収して吸収しなかった光を色として見せているわけですが、吸収した光のエネルギーがその後で何に変化するのかによって色素の機能・応用がいろいろと変わってきます。そのエネルギーの変化には、光を吸収してそれを別の光として放つ場合、吸収したエネルギーを別の分子に与えて活性種をつくる場合、エネルギーを熱として放射する場合、と主に3つのエネルギー放出のパターンがあります(図2)。それぞれ、発光材料や触媒、イメージングやがん治療などさまざまな応用が期待されています。
 色素の中でも「有機色素」は合成によっていろいろな修飾や改変をすることが可能なので、さまざまな機能を持った設計ができるのが特長ですが、一方で無機物質に比べて壊れやすいという弱点があります。光照射によって蛍光を放出する割合の多い「蛍光色素」であっても、活性酸素など一定量の活性核種が同時に発生しますので、色素に長時間光を当て続けると活性核種によって色素自体が分解してしまいます。有機色素をより効率良く機能させるためには、この安定性の課題を克服することが必要です。
 
【シクロデキストリンで色素を守る】
 この課題解決のために私たちが開発したのが、色素をシクロデキストリンで覆うことによって、光照射によって発生した活性酸素などの活性種を遮断する構造の色素です。これを「ロタキサン型蛍光色素」と呼んでいます。この合成においては、図3で「CB6」と書かれている「クルルビットウリル」という環状分子が反応に関わる全ての成分を自発的に集合する機能を担って、速やかにロタキサン化が進行するのが特徴です。この合成法は様々な色素に対して応用可能で、最初の論文では紫から赤まで7色のロタキサン型色素の合成に成功したことを報告しています1)
 さらに、がんの光治療で使われている「ポルフィリン」という活性酸素種を効率良く発生さる色素をロタキサン型にすることで、色素が活性酸素種から分解されないため非常に少ない投与量で効果を発揮できる「ロタキサン型光増感剤」を開発しました。この論文がちょうど先週アクセプトされたところで2)、既に特許出願も済ませています3)
1)Y. Ohishi, M. Inouye et al., Adv. Opt. Mater. 2024, 12, 2301457.
2)Y. Ohishi et al. ACS Appl. Bio Mater., in press, DOI: 10.1021/acsabm.
3)特願2024-096721“ロタキサン型光増感剤”

【本助成研究のコンセプト】
 ここまでの研究を踏まえて現在取り組んでいるのが、「近赤外光」を吸収する色素に関しての研究になります。近赤外光は生体分子によって吸収されにくいため可視光よりも奥深いところまで届いて光治療などに応用することができます。しかしながら、近赤外光を吸収する色素は一般的に長い共役構造を持った分子で、安定性が低く水に溶けにくいという課題があります。また、近赤外領域のエネルギーは水分子に移動しやすいため、水中での発光効率が低くなってしまうという問題点もあります。
 そこで、色素をロタキサン型にすることで、水中で凝集せず発光効率の高い近赤外発光が実現できるのではないか、と考え研究を進めています。当初計画した色素については、近赤外領域にはやや届かない波長の発光になってしまったのですが、構造を工夫することによって現在は近赤外領域の発光が達成できそうだという結果が出て来ているところです。

「CB6(クルルビットウリル)」がなかったらロタキサンはできないのですか?
 銅を触媒としてロタキサンを合成させることはできるのですが、シクロデキストリンが欠けてしまったり、シクロデキストリンの開口の向きがそろっていないロタキサンになったりして、この反応は非常に難しいのです。
 CB6には負に分極しているカルボニル基(C=O)があって、ここがカチオンである色素とストッパーを引き付けるのでCB6の空孔内で両分子の自発的な反応が進行します。また、CB6のカルボニル基とシクロデキストリン開口の狭い口側が水素結合で引き付け合うので、その結果触媒がなくても軸/ストッパー/輪の全てがうまく並んでロタキサンが合成できるわけです。

研究の醍醐味や楽しさは、どの様なところで感じられますか?
 高校生のころから何か新しいものを創る研究をしたいと思って創薬化学科に進学したんですが、やっぱり自分が想像していたものが実際に具現化できて良い機能が発現したときは、子供のころ自由研究で感じた楽しさみたいなものがありますね。逆に、狙ったものとは違うものや全く考えていなかった結果が出るというのも、思いがけない驚きがあり研究の醍醐味だと思います。また、指導している学生さんが成長していく姿を見ることができるのは、とてもやりがいを感じるところです。

これからの研究の夢は?
 世の中にはたくさんの薬がありますが、ロタキサン構造を持った薬というのはまだ一つもないんですね。ですから、世界発のロタキサン薬を出せたらいいですし、さらにそれが世界的に広がる様なことになれば大変うれしいことです。今後の研究でロタキサンだけにこだわるわけではないですが、今はこれで成果が出てきているところですので、ロタキサンを軸にして頑張っていきたいと思っています。

著作文献紹介
  • https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adom.202301457