小野教授の研究室に訪問して(図1)、研究インタビューをさせていただきました。
助成研究の概要
ニオブ(Nb)層、バナジウム(V)層、タンタル(Ta)層から構成される非対称構造を有した人工格子において(図2)、測定電流と垂直に外部磁場を印加すると超伝導の臨界電流の大きさが電流方向に依存することを見出しました。順方向の臨界電流と逆方向の臨界電流の間の電流値では、順方向では超伝導状態でゼロ抵抗ですが、逆方向では常伝導状態で抵抗が有限となることを示し、超伝導ダイオード効果と呼ぶべき現象が観測されました(図3)。また、この超伝導ダイオード効果は、極性が外部磁場で切り替え可能であるという、従来のダイオードにはない特徴を持ちます。さらに、強磁性Co 層を挿入した超伝導ダイオード素子によって無磁場での超伝導ダイオード効果を得ることに成功しています。超伝導ダイオード効果の周波数依存性等を研究することで、超伝導ダイオード効果のメカニズムを解明するとともに、この特性限界を評価し、整流素子や論理回路への応用など、量子コンピュータをはじめとする将来の超伝導回路一般への大きなインパクトが期待される研究です。
やってなかった超伝導
もともと超伝導はあまりやってなくて、磁性の研究をしていました。スピントロニクスの分野で、20年位前はハードディスクに使われている磁気記録で磁壁を動的に動かすことをやっていました。10年位前からは、磁性体と非磁性体の界面に注目した研究が多く行われてきましたので、3つの違う元素をabc・abc・・と繋げて多層膜として界面が多数ある人工格子をつくると、界面だけでなく材料全体に特性が内在するというアイディアを提案しました。実際にコバルト(Co)、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)やプラチナ(Pt)、コバルト(Co)、タングステン(W)の人工格子で磁化のねじれ構造を生む力や磁化を電流で動かす力が向上することを確認しました。
一方で、反転対象性が無いバルクの超伝導材料の研究が20年ほど前から行われていました。このような材料は自然界にあまりないため、実験よりも理論的な研究が主でした。そこで、人工格子でこのような材料を作製することを提案し、周期表から超伝導になる元素で、超伝導転移温度(Tc)が液体ヘリウム温度より高く、格子定数がほぼ合っているニオブ(Nb)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)を選び、エピタキシャル成長により人工格子を作製しました。この材料は反転対象性の破れた超伝導体で、臨界電流が印加電流の方向によって異なり、右向きと左向きの臨界電流の間に電流をセットすると、左向きでは超伝導であり、右向きでは常電導という奇妙なことが起こります。ここでは、時間の反転対象性を破る磁場をかけていますが、この磁場を逆向きにすると、超伝導と常電導が入れ替わることを発見しました。これらを磁場の向きで非対称性がある超伝導ダイオードとして発表し大きな反響が得られました。
磁場から磁石
時間の反転対象性を破るのに磁場をかけていますが、工業上磁場をかけるのは大変だということで、磁場ではなく、磁石で出来ないかと考えました。そこで、磁性体である鉄(Fe)とスピン軌道相互作用が大きいプラチナ(Pt)を選定しニオブ(Nb)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)の超伝導人工格子に導入しました。この材料は、一度磁場をかけると鉄の磁化の向きが決まり、逆方向の磁場をかけると鉄の磁化もその方向で固定されます。つまり、メモリ効果を持った超伝導ダイオードを作ることができました。これは、超伝導量子コンピュータで使用可能な超伝導回路に応用ができる研究として期待されます。
無限の可能性
人工格子は、無限の元素の組合せが可能で、これまで垂直磁気異方性や巨大磁気抵抗効果などの非平衡合金層の研究があります。今回は、超伝導ダイオード効果の研究ですが、今後他の物性での研究も出てくると期待しています。
人間力を身に着ける
京都大学で20年前に研究室を立ち上げる際に、研究スタッフで相談して、どういう教育をするかということを検討した際に、人間力を身に着けてもらおうという話をしました。研究室の方針は「学生の20年後を想定して向きあう」ということで、将来リーダーとして活躍できる人材の育成を目指しています。
人はいろいろな問題を抱えています。周りの人が調子悪い時にどうしてあげたらいいのか、自分がそうなりそうな時にどういうやり方があるのかを知ってもらうのが一番だと思っています。とにかく「話すこと」が大事で、学生が最初に研究室に来た時に、人が調子悪そうだなと思ったときには話しかけてくださいとお願いをしています。自分がうまくいっていない時に話しかけられるのは誰もが嫌なんですけど、誰も話さなかったら、その人が来なくなったりとかすると後々後悔するからと。若い時にこのようなことを経験することが重要で、研究室での共同生活、日々の研究、勉強を通して将来社会に貢献できるように自分を鍛えることを考えて欲しいと思っています。このような環境で過ごす経験が、人としての成長を促してくれると信じています。
研究室の最初の目標は、修士は2年、博士はプラス3年で全員卒業してもらうということでしたが、20年間これを守っています。これまで一人も卒業できなかった人はいないんです。
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