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2023/11/08

Topics研究室訪問記が追記されました。

2016/08/02

Topics研究室訪問記が追記されました

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
小原 伸哉
オバラシンヤ
CO2ハイドレート、ガスハイドレート熱サイクル、電力システム、熱工学
ホームページ http://www.kit-power-engineering-lab.jp/index.html
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2022年度 一般研究助成 エネルギー・情報通信 北見工業大学 工学部地球環境工学科 PDF PDF
研究題名 CO2冷凍サイクル-ハイドレートサイクルのハイブリッド化による電力用バッテリの開発
2010年度 一般研究助成 エネルギー 北見工業大学 工学部電気電子工学科 PDF
研究題名 ガスハイドレートの解離・再生特性に着目した小温度差発電システ厶を用いたマイクログリッド用ベース電源の開発

訪問記

最終更新日 : 2023/11/08

訪問日:2023/10/12
訪問時の所属機関 北見工業大学 工学部地球環境工学科 訪問時の役職 教授

北見工大小原教授の研究室に訪問して(図1)、助成研究などについてお伺いしました。

まず、研究の背景とねらいについて教えてください
 研究紹介文の載せた図は、ベンチャー企業が出しているCO2冷凍サイクルを利用した再生可能エネルギーの蓄電システム(白いドーム)のイメージです。CO2冷凍サイクルはヨーロッパの方ではすでに研究が進んでいる技術ですが、このシステムの欠点をカバーするためにこれまで私が研究を進めてきたCO2ハイドレートサイクルとハイブリッド化することによって、より効率的な蓄電システムを構築することが今回の助成研究で提案した内容です。
 リチウムイオン電池などの多くの二次電池は電気化学反応を利用していて、自己放電や充放電による劣化などがあること、希少金属を使っているなどの課題があります。また、ここ北海道などの様に寒冷地の低温環境では性能が落ちてしまう問題もあります。一方、CO2冷凍サイクルやCO2ハイドレートサイクルを使う二次電池システムは化学反応を伴わない物理電池です。そのため電気化学反応に基づく問題がなく、安価にシステムを構成できる特長があります。
 また、この蓄電システムでは発電(放電)時に低温廃熱を利用することができます。日本の一次エネルギーの7割が200℃以下の低温廃熱で捨てられていると言われていますが、このエネルギーを回収して電力に変えることのできるシステムを構築することがこの研究のねらいです。

CO2ヒートポンプサイクルの欠点とCO2ハイドレートサイクルの特長とは?
 ヒートポンプサイクルは熱源と変換温度の差が大きいと性能が落ちてしまいます。例えば外気が0℃で室温を20℃にする場合に比べ、北海道の冬の様に外気が-20℃で室温を20℃にする場合は大きく効率が低下します。逆にCO2ハイドレートは低い温度の方が生成しやすいので、低温であるほど多くのエネルギーが貯められることになります。この二つを組み合わせることによって1年間通して高い効率で電力を充放電するシステムが形成できると考えています。
 図2はCO2ガスからCO2ハイドレートを生成する充電運転の模式図です。アキュムレータには3~5MPaのCO2ガスを充填しておき、それが反応器に流れ込むと15℃以下の冷気でCO2ハイドレートが生成します。ハイドレートの生成に伴って圧力が下がり平衡に達するとガスが生成しなくなるので、効率良く生成するためには電力を補助的に使って加圧してやります。ここに再生可能エネルギーの余剰分を使うことで電力の蓄電になります。図3は放電(発電)運転の模式図です。反応器を低温廃熱などで温めるとCO2がハイドレートから解離してガス化します。最高圧力は初期圧力と同じになりますので、この圧力差で発電機を回すと電力を供給することができます。
 当初、ハイドレートの生成温度は0℃くらいだったのですが、促進剤などを工夫することによって今は15℃まで上げることができています。放電時は25℃くらいで解離するので、約10℃の温度差で3MPa程度の圧力差を発生させることができ、これは車のエンジンの圧力に匹敵するくらいのかなり大きな圧力が得られることになります。

研究の課題は何ですか
 ガスハイドレートの生成と解離の反応は、成り行きでは速度が遅いということが問題です。反応速度が遅いということはエネルギー密度が上がらないということなので、工業的に利用するバッテリーとしては利用範囲が限られます。生成については温度の掛け方の工夫によって170%程度の生成量の増加を確認できたところで、解離の促進についても現在取り組んでいます。
 今のところ充放電効率は54.2%が得られていますが、競合と想定しているNAS(ナトリウム-硫黄)電池や揚水発電に対抗できる効率として85%を目標にしています。

小原先生は数年企業に勤められていますが、大学での研究を志された理由は?
 アメリカに出張して、製品開発のための実験を進める仕事をした時期がありました。当時はマイクロソフトが興隆してきた頃でその他にもベンチャーが多く起業して、アメリカの技術革新のすごさを感じていました。この様な状況を本社に報告したのですがほとんど反応がなくて、これからの日本企業は駄目になっていくのではないかと感じ始めていました。更に、日本企業の私たちは、何か新たに実施する前にいちいち上司に確認取ったりお伺い立てたりしていたわけですが、現地にのエンジニアから「お前自身はどう思うんだよ?」と問われてハッとしました。自分の考えで自分のやりたいことができていないってことを。
 それで、会社を辞めて大学に戻ってドクターを取るところから研究者としての道をスタートしたわけです。今では社会人やめてドクターコースに行く人が増えましたが、当時はほとんどいなかったので周りの人から結構怒られました。「我慢が足りない」って(笑)。ただ、今になって思うのは、企業での考え方や経験が大学に来ても非常に役に立っているということです。

多くの学生さんがいますが、指導する上で大切にしていることは何ですか?
 特に大学院生に関しては、将来会社の中核になっていく学生として送り出さなければいけないということです。大事なのは自分で課題を発見して課題解決できること、そしてそのオリジナリティですね。
 そのためには、始めからこうしたらできるってことを教えずにまずは自分で考えてやってもらうことです。問題に直面したとき必要な場合であれば教えてはいますが、基本的には彼らが自分で考えて課題を見つけて、それを解決して発表する、というサイクルを回しています。これをやっていると4年生のときは全然ダメなんですけど、大学院になってくるとどんどん能力が上がってきて、ときにはこちらが問題を指摘されたりしてしまいますね。

過去の訪問記

訪問日:2016/07/06
訪問時の所属機関 北見工業大学 工学部地球環境工学科 訪問時の役職 教授

北見工業大学・小原伸哉先生を訪ねて
 当日は助成研究であるガスハイドレートを利用した発電のその後の状況、更に研究室で取り組んでいるその他6つの研究内容を頂戴した資料に従って説明いただきました。また、実験室の見学では担当している学生に実験内容を紹介してもらいました。先生は、北見工業大学で推進している6つの研究ユニットの内の1つを担当され、そのテーマは『地域分散エネルギー研究』で、まさに今回その内容を説明いただきました。
 最初は助成テーマであるガスハイドレートの解離膨張特性を利用した発電技術です。ハイドレート生成には時間が掛かり、脱ハイドレートは速いです。ハイドレート生成を促進するのは難しく、できれば大きな技術革新になるようで、天然ガスを貯蔵・輸送するのに、現在大電力で液化をしていますが、その解決になります。固体に吸収できれば液化するよりも7~8倍位高密度になり、しかも、容易に輸送でき簡単に取り出すことができます。ハイドレートにするガスは、大学なので防爆性、安全性を考慮してCO2を使っていますが、水素、メタンなど様々なガスを使えます。CO2の場合、15K(−5~10℃)の温度差があると3MPaの圧力が得られます。水素を使えば圧力がもっと上がります。冷熱源は北海道の冬で、温熱源は地中熱、太陽熱を使え、大きな圧力差が得られます。熱だけで膨張でき、そのエネルギーを利用してアクチュエータ、エンジンを回し、発電機が回るという原理です。発電効率はアクチュエータ次第で、この種の仕様、特に背圧が掛かる(高い出口圧)アクチュエータはなかなかないようです。当初はベーン型でしたが、今はピストン型にして少し効率を上げていますが、自分達で開発する必要があるとのことです。小さなアクチュエーターを使って100W程度の出力が得られるようになり、熱だけで可逆的に安定して運転でき、発電が可能であることを実証しました。ただ現状、発電効率は3%程度で、海水の濃度差発電の効率と同程度のようです。発電効率を下げているもう一つの原因は、冷却してガスを水和するハイドレート化の速度の小さいことです。効率を上げるためにハイドレート生成速度に合わせて、ゆっくり冷やすと効率は3%から10%近くに上がります。ハイドレート関係の物性とか、ハイドレート生成速度を革新的に上げるための触媒などは、専門の先生方と共同研究を実施しています。メタンのハイドレート化には触媒は有効で、2~3倍の促進効果が知られているようです。触媒を有効に活用するため、現在燃料電池のガス拡散層に使われているカーボンクロスに、触媒である酸化鉄・グラファイトを塗布しています。触媒を固定でき表面積も増えますので、発電量の増加、エネルギー密度の向上が期待できると考えたそうです。触媒で3倍、ガス拡散層で更なる向上を目指しています。また、ハイドレートの利用は畜エネルギーにもなり、ハイドレート化する時間を変えたときの貯蔵量の変化を測定しています。最終的には、この技術を南極の昭和基地のエネルギーの地産地消に使えないかと考えています。
 二つ目は植物シュートコンパクト受光装置の開発です。植物は受光量を競争して獲得しており、実際に植物の葉がどの位の受光量があるのか、植物の葉がどういった配置をとると、受光密度が大きくなるかを研究しています。季節によって違いますが、イチョウの葉が最もよいことが分かりました。進化(遺伝)アルゴリズムを使うと、太陽の位置に対してベストな配置に次第に変化し最後に収束するようです。三つ目は国のプロジェクトですが、既に開発したスマートグリッドシミュレータを用いて、再生可能エネルギー、原発などの電力の供給側と、需要側の様々なパターンを組み合わせて、電力の品質(周波数・電圧・高調波)をきちんと把握するためのエネルギーネットワークの模擬試験です。前述の南極の昭和基地の送電網の開発にも利用しています。また、北海道の焼尻島では現在ディーゼル発電機の発電電力を海底ケーブルで、隣の天売島に送り電力を補っていますが、そこに豊富な再生可能エネルギーを導入したとき、電力の品質を保証できるかを確認しています。模擬実験で分かったことは、交流電源では需要と供給を必ず合わせるために制御可能な電源を必ず入れる必要があり、需給を補うような運転をするには、0.01m秒とかの相当速いスピードで制御しないと周波数が合わせられません。従来の研究にはこの制御が全て抜けていました。電力の世界ではこういう需給システムはうまく行く前提でやっていましたが、実際は不可能です。再生可能エネルギーがどんどん入り、需給が切迫してくると、どうしても制御が必要になります。商用電力網は電源が火力など元々大きく、回転機が入っていますので慣性力を持っており、それにより短時間での多少の変動が入っても瞬時に安定してしまいます。そのため、商用電力網と連携したマイクログリッドは問題ではありませんが、自立した電源にすると大きな問題になります。住宅の電源を太陽電池と燃料電池だけでやろうとすると、両方共直流電源で回転機を持っていませんので、大きな変動があると変動がなかなか収束しません。この離島でも同じで、慣性力を入れないとなかなか上手くいかないようです。四つ目は道庁の依頼でもある水素キャリアによるエネルギー輸送です。北海道は再生可能エネルギーの宝庫であり、そこで余った電力により水を分解して水素にし、その水素をタンクローリー、フェリーで需要地に輸送するための最適な水素の供給ネットワークの研究です。北海道の場合、春から夏に日射量が大きく太陽光発電量が大きいですが、夏は風が弱く風力発電量が小さくなります。通年で最適化するには、風力発電と太陽光発電の割合をどの地域にどれだけ分散配置すれば、一番安定するかを検討しています。需要地/量を考慮して、どの地域に何をどの位導入するかを計画した後、本来送電網を計画しなければなりませんし、水素キャリアも考える必要があります。ただ、電力網の代替としての水素キャリアは経済的に難しく、今できそうなのはFCVと燃料電池に使うことのようです。まず、車の利用が多い函館から札幌までの水素の供給網に水素スタンドを多く作ることから始めるようです。燃料電池については、去年位から-20℃でも安定して出力できるようになり普及はこれからです。五つ目は、苫小牧高専の未来型エネルギーハウスに設置された、エネファーム、蓄電池、太陽光発電などを、いつ、何を、どういう風に制御すれば経済性、環境性でベストになるかを研究しています。例えば、太陽光発電パネルの表面温度分布を計測、熱流体解析を使って詳細な年間発電量を予測しています。また、直流系の電源だけですので負荷が変動しても、どの位の慣性系を入れれば、電力品質が安定できるかを研究しています。フライホイールのその手段の一つです。六つ目は要望があるメガソーラを設置する際の正確な発電量予測です。従来の気象庁の日射量データからだけで予測するものでなく、3D地形図を作って地形による風の影響などを考慮したものです。六つ目はヒートポンプを用いた次世代電力システムの計画です。北海道では、主に石油ストーブを使った暖房のエネルギーが電気の20倍位にもなり、熱を考えない電力網は意味がないことになります。電力網に蓄熱式ヒートポンプを沢山ぶら下げて、これを電力会社が積極的に制御することで、再生可能エネルギーによる電力の変動部分を熱に変えて、時間シフトして使うことで、原油の使用量を減らします。最後は日本が余り関心がない石炭ガス化火力発電です。今ある火力発電と同等かそれ以下にCO2排出量が抑えられて、石炭から燃料ガスが得られます。石炭資源は広く世界的に分布し、エネルギーの安全保障上優位で、世界的に需要は増加しています。水素も得られますので、ガスタービンと蒸気タービンを使うシステムもあるし、その前に燃料電池と組み合わせ、燃料電池と蒸気タービンのコンバインドサイクルもあります。それを実現するために、詳細な物理特性などを利用してシステムをモデリングしています。変動する再生可能エネルギーと連携させるとき、そのシステムにはどの程度電力の変動に対応、追従できる動特性があるかを研究しています。
 再生可能エネルギーの導入するための課題の詳細を知ることができ、制御・システムの重要性を認識した訪問でした。(2016年7月6日訪問、技術参与・飯塚)

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