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2023/01/13

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
加藤 俊顕
カトウトシアキ
原子層材料、グラフェン、TMD、太陽電池、透明、軽量、フレキシブル、環境調和型素子
ホームページ http://www.plasma.ecei.tohoku.ac.jp/Kaneko_lab/Toshiaki_Kato/index.html
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2021年度 一般研究助成 新材料 東北大学 大学院工学研究科電子工学専攻 PDF
研究題名 グラフェンと遷移金属ダイカルコゲナイドの接合界面制御によるオール原子層太陽電池の開発
2010年度 奨励研究助成 新材料 東北大学大学院 工学研究科 PDF
研究題名 精密パラメータ制御拡散プラズマCVDによるグラフェンナノリボンの直接合成

訪問記

最終更新日 : 2023/01/13

訪問日:2023/09/15
訪問時の所属機関 東北大学 大学院工学研究科電子工学専攻 訪問時の役職 准教授

2022年9月15日、加藤先生にオンラインインタビューでお話しを伺いました(図1)。

まず、先生の研究分野について教えて下さい
 私の研究を一言で言うと「ナノ材料」の研究になります。「ナノ材料」の中でも特に、原子一個の厚さでできた「原子層材料」の構造を高精度に制御しつつ合成して様々な機能を発現させ、さらにそれを利用した次世代デバイスを開発するところまでを研究の対象としています。合成においてはプラズマを利用した膜の合成法や高精度なリソグラフィー技術を駆使したデバイス作製技術などが、私たちの研究のキー技術になっています。
 主な研究としては、「カーボンナノチューブ」の炭素原子ひとつひとつを制御して構造を構築するするカイラリティ制御や、一次元のリボン状グラフェン「グラフェンナノリボン」を基板上に並べ量子デバイスに展開する世界初の技術などを進めてきました。また、今回の助成研究につながるものとして、「遷移金属ダイカルコゲナイド(以下、TMD)※」の二次元シートの大規模集積化合成やその光学特性の研究があります。 (※遷移金属ダイカルコゲナイド:遷移金属と酸素以外の第16族元素の化合物)

その「TMD」による今回の助成研究の背景や目的は何でしょうか
 研究の最終目的は、環境調和型の太陽電池を作るということです。環境調和というのは、どこに設置しても環境を乱さないことで、林や田んぼなどの自然環境に置いても周辺の生態系を乱さず、都市においては道路や建物に設置しても生活環境を保てるということです。そのためにデバイスに要求されるのは、「透明」で「柔らかい」こと、さらに「軽い」ことが重要だと考えています。
 これまでにも「透明太陽電池」と呼んでいるものが売られていますが、「透明」という明確な定義がないためそれらの透明性の程度は様々で、ほとんどのものは可視光透過率が60%以下になっています。60%というのは人の目にはっきり見えてしまい、「透明」とは感じられないレベルです。そこで私たちが目指しているのは、光がほとんど遮られていない窓ガラスのレベルである可視光透過率80%ですが、このレベルに到達している太陽電池はまだ世の中にありません。この「完全透明太陽電池」を作ってやろう、というのが私たちの研究のねらいです。

窓ガラスの様な「透明」というのはとても難しそうですが
 これを達成するカギがこれまで研究してきた「原子層材料」になります。原子1個分の厚さしかないとその膜は光を90%以上透過することができます。「原子層材料」の中でも、光を吸収して電気を作り出す半導体の性質を持っているのが先ほど説明した「TMD」です。
 研究開始当時にもTMDを使った太陽電池の研究があったのですが、それらは透明性に関して注目していなかったため、発電層と電極の接合にPN接合とかヘテロ接合という構造が複雑で大面積化が難しい技術を使っていました。一方、私たちは窓ガラス全面に適用できるような大面積化をねらっているので、構造がシンプルになる「ショットキー型発電」に注目しました。ただ、この方式は誰もやったことがないものだったので、デバイス構造の最適化からいろいろと研究すべき要素がありました。その中でも特に大事な点は、光エネルギーを吸収することによって発生した励起子(電子とホール)を分離して、電子がポテンシャルの坂道を転がって右の電極に流れてもらうような両電極の構造にすることです(図2)。研究の結果、両金属電極の種類を最適化することによって、2017年にTMD原子層太陽電池として世界最高の発電効率を達成することができました。

2017年には透明太陽電池が完成していたということですか
 この太陽電池では発電層の部分は透明なのですが、金属電極部分は半透明で素子全体として十分な透過率を得ることはできませんでした。そのため次のステップとして、透明電極としてよく使われているITO(酸化インジウムズズ)を採用しました。しかし、両電極がITOのままだと左右にポテンシャル差がないので発電はできません。検討の結果、数nmの金属をITOに塗ることによってポテンシャル差はかなり大きくなるものの透過率はほとんど低下しないことが分かり、さらにいくつかの工夫を加えることによって可視光透過率がほぼ80%で、1cm2あたり400pWの電力を発電するデバイスが完成しました(図3)。

助成研究での次のステップはどんなねらいなのでしょうか
 透明でフレキシブルな太陽電池にはなりましたが、ITOは原子の厚さではないので「軽い」という点ではまだ十分ではありません。発電層だけでなく電極も「原子層物質」にして究極の原子層太陽電池にするのが今回提案した研究のねらいです。そこで電極として考えたのが、私たちが得意とする物質の一つである「グラフェン」です。ただ、やはりグラフェンを左右に置いただけではポテンシャル差ができませんから、TMDとグラフェンの接合界面を制御してショットキー発電を起こそうというのが、今回の研究の目的です。

シリコンの太陽電池などと比較すると発電効率はあまり大きくない様な気がしますが
 発電効率については良くご質問を受けますが、「透明太陽電池」というのは発電効率向上を追求しているシリコン太陽電池の様な不透明な太陽電池と同じ競技で競争をしているとは考えていません。「透明」であるということは、そもそも可視光を利用しないということですから理論効率でも1%程度です。しかし、発電効率は低い代わりに「透明」「フレキシブル」「軽量」であることで、シリコン太陽電池では設置できないところで太陽光をエネルギーに変えることができるのです。
 今、私が居る部屋の窓では太陽光を電力に変換することは全くできていません。発電量は0Wです。しかし、単位面積当たりの発電効率は小さくとも全ての窓ガラスが太陽電池になればかなりの電力が得られ、多数のセンサを動かしたり、空調のファンを回すことなどができるようになります。この様な形でエネルギー問題に対して大きな寄与ができる様になるのではないかと考えています。

研究の中で感じられるやりがいとはどんなことでしょうか
 もともと人と同じことをやるのが好きじゃないので、誰もやっていないことを考えてそれを試したら予想通りになった、というときがとても楽しい瞬間ですね。自分の考えが証明できるというのは大きな達成感が得られるものです。
 もう一つは、社会的なレスポンスのうれしさです。論文を出すと地球の裏側の人からメールが来て、「すごいね。どうやったの?」みたいな問い合わせが飛び込んでくるのは、それまでにはなかった経験なので感激します。最近はSNSなどメディアが進んできたので、より強くそれを感じる様になってきました。

今後どんな研究を目指していきたいとお考えですか
 過去に1年ほどの期間、スタンフォード大学に研究員でお邪魔していたことがあるんですが、そこのラボの人たちや環境には強い憧れを持ちました。ラボには世界中から野心を持った学生たちが集まってきて、優れた成果を出し自分の国に帰って教授になっていく、というルートができていました。その様な環境で歴史的な発見が次々と生まれているんです。こんな風に世界中から研究者が自分のラボを目指して来てくれて、世界的な成果をどんどん出せるようなグループを作っていきたい、と思っています。
(矢崎財団 池田)

著作文献紹介
  • [1] Schottky solar cell using few-layered transition metal dichalcogenides toward large-scale fabrication of semitransparent and flexible power generator, T. Akama, W. Okita, R. Nagai, C. Li, T.
    Kaneko, T. Kato, Scientific Reports 7, 11967-1-10, 2017.
  • [2] Nucleation dynamics of single crystal WS2 from droplet precursors uncovered by in-situ monitoring, C. Li, T. Kameyama, T. Takahashi, T.
    Kaneko, T. Kato, Scientific Reports 9, 12958-1-7, 2019.
  • [3] Non-classical nucleation in vapor–liquid–solid growth of monolayer
    WS2 revealed by in-situ monitoring chemical vapor deposition, X. Qiang, Y. Iwamoto, A. Watanabe, T. Kameyama, X. He, T. Kaneko, Y. Shibuta, T.
    Kato, Scientific Reports 11, 22285-1-9, 2021.