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2021/10/01

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
有澤 光弘
アリサワミツヒロ
有機合成、マイクロ波、金属ナノ粒子、省電力、カップリング、ルテニウム、パラジウム
ホームページ http://gosei.sakura.ne.jp/gosei/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2020年度 一般研究助成 エネルギー 大阪大学 大学院薬学研究科 PDF PDF
研究題名 連続照射マイクロ波を用いた省電力合成法の開発
2005年度 奨励研究助成 新材料 千葉大学大学院 薬学研究院
研究題名 ナノテクノロジーを利用した環境調和型光学活性有機金属触媒の創製

訪問記

最終更新日 : 2021/10/01

訪問日:2021/10/01
訪問時の所属機関 大阪大学 大学院薬学研究科 訪問時の役職 教授

オンラインインタビュー(図1)で、助成研究内容や研究への想いなどについてお伺いしました。

まず、これまでのご研究成果について紹介してください
私たちの研究は、薬学の有機合成の分野になります。【反応開発】と【合成】がトラディショナルな研究領域になりますが、これに加えて新しい【触媒】開発や合成したものの【機能】をしっかり評価するところまで含めて研究を進めています。医薬品だけでなく電子材料や農薬など様々な分野の合成に、パラジウム触媒による「鈴木-宮浦カップリング」が広く利用されていますが、今回の助成研究にも関係しているのでこの反応をベースにした研究成果をご紹介します。

金属ナノ粒子触媒
金属触媒にはその機能を適切に調整し反応性を向上/維持するために、金属を取りまく「リガンド(配位子)」が一般的に使われています。しかし、リガンドにはこのメリットの半面、生成物との分離が困難なことがあり、しばしばコストが問題になります。また、医薬品の場合には、金属触媒の残留が多いと承認されない(4ppm以上)ということになってしまいます。この問題に対して私たちが開発したのが、リガンドフリーの「金属ナノ粒子触媒」です。硫黄で修飾した金を酢酸パラジウムのキシレン溶液に浸けて加熱するだけという簡単な方法で、2~3nmサイズのパラジウム粒子が整列した構造の薄膜が作製できます。「SAPd(Sulfur-modified Au supported Palladium)」と呼んでいるこの触媒を使うことで、生成物中のパラジウム残留量をppbレベルにまで下げることができました。

DNAエンコーデッドライブラリー
創薬研究において、多数の候補化合物の中からターゲット蛋白質と親和性のあるものを見つけていくときの手法に「DNAエンコーデッドライブラリー」があります。候補化合物に化合物情報をコード化したDNAタグを付加しておき(図2)、結合しなかった化合物を洗い流したのちにPCRで増幅したDNAをシーケンサで読むことによって結合した化合物を同定します。この方法は非常に効率の良いスクリーニング方法なのですが、水溶性のDNAがついていることで利用できる化合物が限定されてしまっているという問題があります。一方、私たちは効率的な加熱方法として用いられているマイクロ波照射方法を改良した「連続照射マイクロ波合成装置」を開発し、従来全く進行しなかったカップリング反応を90%以上の収率で得ることに成功しています。この技術を応用すると、これまで限定的であったDNAエンコーデッドライブラリーに搭載できる化合物群を大幅に増やすことができる可能性を見出しました。この「連続照射マイクロ波」を深く検証していくのが本助成研究の目的です。
(この他に、生物活性化合物、二光子励起色素、がん治療薬、などの研究成果について紹介して頂きました)

マイクロ波は通常、連続照射しないものなのですか
合成に使われるマイクロ波照射装置では反応系の温度を合成に適切な値に設定し、温度がそれ以上になるとマイクロ波を間欠照射にして温度を一定にするようになっています(図3上、青:マイクロ波出力、赤:反応液温度)。私たちは、温度を上がらない様にしてマイクロ波をずっと照射し続けることができたら、マイクロ波特有の効果によって間欠照射では進行しなかった反応が進むようになるのではないかと考えました。明確な根拠があったわけではないのですが、このアイデアを試してみました。
何をやったかといいますと、マイクロ波装置で反応液から発生する熱(研究紹介文の図中央)を、周囲にアルミブロックを配置し逃がすことによってマイクロ波を当て続けても温度が一定に保たれる装置を作製しました(研究紹介文の図右)。様々な改良によって、マイクロ波を連続照射しても反応液の温度を一定に保つことができるようになり(図3下)、この装置を使うことによって従来装置では全く進行しなかったカップリング反応が高効率で進行する様になったのです。

今回の助成研究テーマでのねらいは?
この装置によって、まず一つのカップリング反応が進むことを見出したのですが、この効果はいろんなものづくりに役立てることができると思います。そのために、連続照射マイクロ波がどの様な反応を活性化していくのかを検証することによって、適切なマイクロ波を適量化学反応場に照射して化学種を能動的に高度制御できる合成システムを構築していきたいと考えています。私たちの研究基盤である合成化学、触媒化学だけでなく、分析化学、電磁気学、計算科学、機械工学を融合して検証していく必要がありますので、各分野の先生方や装置メーカーの方と連携して研究を進めていきます。

薬学部の研究で装置開発まで手掛けられているのは珍しいのではないですか
薬学部ではやはり珍しいです。工学部っぽいってよく言われます。新しい薬の種を見つけるのが目的ですが、既存の合成法や決まりきった道具で作るのでは限界があることを感じます。また、学生さんの中にも新しい道具を作ってみたい人もいますし、私も興味があるものですから装置開発にもトライしています。新しい道具を作って、新しい薬を見つける、というのはこの研究の両輪だと考えています。

高校から薬学部に進んだ動機は何だったのですか
 実は、私は薬局の長男なんです。高校の時に親から「将来何やってもいいけど、薬剤師の免許だけは取れ」と言われまして、取った後は好きにしていいということだったので研究をさせて貰っています。もちろん大学に入ったときは、薬剤師として患者さんに良い薬を届けることも考えていましたが、大学で研究する間に研究の方がより多くの患者さんに貢献できるのかも、という想いが強くなって研究の道に進みました。

学生さんの指導ではどの様なことを大切にされていますか
 座学での教育は高校までの教育とそれ程変わりはなく、答えのある問題を解けるようにしていくということですが、研究を通した教育ではそれとは違い答えがない問題を解いていくことです。学生さんには研究に興味を持って自分の頭でしっかり考える人になってもらいたいわけですが、私も一緒になって考えていく、という感じで指導しています。学生さんにもその時々の体調や心の状態がありますので、スポーツ競技のコーチのような立場で状態が良いときは少し早めに一緒に走ったり、悪いときは休憩しながら研究を進めています。
 卒業後には企業やアカデミア、薬剤師などいろいろな道があるわけですが、研究を通して何が問題なのかを見つけ、どの様にして解決するかを考えてトライしてみる、というPDCAサイクルを自分で回せる様になっていろんな分野で活躍できる人になってもらいたいと思っています。

後記
「もっといい薬を作りたい」という想いの元に、有り合わせの道具でできなければ新しい道具を作ってやろう、という分野を超えたチャレンジに感銘を受けました。現在、医師と一緒に新型コロナウイルスの治療薬開発にも取り組んでいるそうです。この技術から多くの人を救う薬がたくさん生まれてくることを大いに期待しています。
(矢崎財団技術参与 池田)

著作文献紹介
  • 原著論文 1. Ligand-free Suzuki–Miyaura coupling reaction of aryl chloride using a continuous irradiation type microwave and palladium nanoparticle catalyst: Effect of a co-existing solid Makito Yamada, Yasunori Shio, Toshiki Akiyama, Tetsuo Honma, Yuuta Ohki, Naoyuki Takahashi, Kenichi Murai, Mitsuhiro Arisawa Green Chem. 2019, 2019,21, 4541-4549. DOI: 10.1039/C9GC01043B
  • 2. Ligand-Free Suzuki–Miyaura Coupling Using Ruthenium(0) Nanoparticles and a Continuously Irradiating Microwave System Toshiki Akiyama, Takahisa Taniguchi, Nozomi Saito, Ryohei Doi, Tetsuo Honma, Yusuke Tamenori, Yuuta Ohki, Naoyuki Takahashi, Hiromichi Fujioka, Yoshihiro Sato, Mitsuhiro Arisawa Green Chem. 2017, 19, 3357-3369. DOI: 10.1039/C7GC01166K
  • 総説
    1. Development of Metal Nanoparticle Catalysis toward Drug Discovery(Invited Riviews) Mitsuhiro Arisawa Chem. Pharm. Bull., 2019, 67, 733-771. DOI: 10.1248/cpb.c19-00157
  • 2. 連続照射マイクロ波を用いる有機合成化学
    山田真希人、秋山敏毅、村井健一、有澤光弘
    生産と技術、2019, 71, 70-73.