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2022/06/30

Topics研究室訪問記が追記されました。

2015/08/21

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
守友 浩
モリトモユタカ
熱エネルギー・ハーベスト、自立独立電源、三次電池、エネルギー変換・貯蔵、プルシャンブルー類似体、熱サイクル、熱充電
ホームページ http://www.u.tsukuba.ac.jp/~moritomo.yutaka.gf/index

年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2021年度 一般研究助成 エネルギー 筑波大学 大学院理工情報生命学術院 数理物質科学研究群 PDF
研究題名 温度変化で充電される「三次電池」の開発
2014年度 一般研究助成 エネルギー 筑波大学 数理物質系 PDF PDF
研究題名 配位高分子を用いたナトリウムイオン電池材料の開発
2002年度 一般研究助成 新材料 名古屋大学大学院 工学研究科応用物理専攻
研究題名 ペロブスカイト型マンガン酸化物の光加工

訪問記

最終更新日 : 2022/06/30

訪問日:2022/06/22
訪問時の所属機関 筑波大学 大学院理工情報生命学術院 数理物質科学研究群 訪問時の役職 教授

オンラインインタビュー(図1)で、助成対象テーマの内容や研究に対する考え方などをお伺いしました。

先生の研究を簡単に説明してください。
私は、熱エネルギーハーベストの研究を行っています。特に身近にある非常に質の悪い室温付近の熱エネルギー、または人体熱、昼間と夜の温度差などの小さい熱エネルギー変化を電力にかえることを、ここ数年、集中的に研究を行っています。
IoT社会ではセンサが必要となります。現在のスマートフォンなどは人が充電を行っていますが、センサの数が膨大となるトリリオンセンサの時代になると、人による充電作業が難しくなることが予想されます。このときにエネルギーハーベスト電源を用いることで、充電作業が不要になると考えています。また、昨今の半導体技術の進歩で制御電圧の低電圧化も進み、周辺技術の面からも、今までの電池からエネルギーハーベスト電源に切り替わる時期に来ていると感じています。

三次電池とは何ですか?
三次電池は、外部電力で充電するのではなく、温度によって充電する電池です。この名前は我々がつけたもので、電池業界の人に三次電池と言うと否定されますが、業界外の人はわかりやすい名前だと言われるので、この名称を皆さんにも使っていただきたいと考えてます。
充電メカニズムは、電池の(+)、(-)極の電位の温度によるわずかな変化を利用します。例えば、室温で電極間の電位差がゼロであったとしても、30℃程度の温度上昇で、数十mV程度の熱起電力が発生することになります。これに外部回路につなげれば、電流が流れるということになります。
熱で発電するデバイスとして、よく知られてるのは熱電変換素子があります。熱電変変換素子は、素子内部の高温部と低温部の温度差により発電しますが、三次電池は素子全体を温める/冷やすことで、発電します。更に、発電した電力を貯蔵して、熱変化のないときに利用できるという全く新しいタイプの電池ということになります。

助成研究の内容を教えてください
三次電池の性能を向上させるためには、熱起電力と放電容量(取り出せる電荷の量)を大きくすることが必要です。熱起電力は、(1)式に示す通り電極電位の温度係数α(mV/K)に依存し、正極の係数と負極の係数の差で決まります。従って、大きな温度係数αを持つ電極材料(αはエントロピーに依存)が必要となります。我々は、プルシャンブル―類似体に着目し、材料と温度係数αの関係を調べてきました。その結果、図2に示す通り、構成する遷移金属を変えることで、温度係数が同じ物質系とは思えないぐらい変わることがわかりました。
放電容量は、熱起電力が大きければ容量は増えますが、(2)式に示す放電曲線の電位の容量微分で割るモデルを導出しています。そして、実験で、そのβ値を変えてサンプルを作成し、容量を測定すると、確かにその通りなることがわかってきました。
熱起電力: Vcell=±(α-α)ΔT   (1)
放電容量: Qcell=∓(α-α)ΔT/(β/r+β/(1-r))  (2)
α:電位の温度微分、β:電位の容量微分、r:正極活物質の重量比
助成研究では、電極のパラメータα、βと熱起電力と放電容量の関係を明らかにすることを目標としています。この式を利用すると、任意の電極材料に対して、三次電池の熱起電力と放電容量を最大化することができます。

この研究のきっかけと学生に伝えたいことを教えてください。
もともとは熱電変換素子の研究を行っており、その時に熱電変換素子と二次電池の特徴を併せ持つ新しいコンセプトの電池ができないかということを考えました。このコンセプトのもと、電池構造を考案し、学生が実験をしたところ、私の予想に反して良いデータが出たのが取り組みのきっかけでした。実験データを得るのに苦労しなかったという意味で、筋がよい技術かなと思いました。
学生には、誰もやっていない面白いこと、研究者としてその研究分野を推進できる人材になってほしい思います。別に大学で研究をしようが、企業で働いても、研究を推進できる人材は必要になってきます。そのような人材になってくれればよいと思います。

後記
何か新しいものに取り組みたいという先生の想い、そして大学だからそれに取り組めるという言葉、往々にして成果が求められる昨今において、自分だけの三次電池という研究テーマを見つけ、基礎研究の領域から具現化するということは企業にはできない、大学らしい研究であると感じました。現在は、多くの企業が先生の三次電池に興味を示しているとのことです。太陽光発電などの再生エネルギーによる発電が実現する中、熱エネルギーによる発電はいまだに発展途上だと思います。
是非、先生が考案した三次電池が実現できるよう、今後の研究の進展をお祈りしております。
(矢崎財団常務理事 砂山竜男)

過去の訪問記

訪問日:2015/08/17
訪問時の所属機関 筑波大学 大学院理工情報生命学術院 数理物質科学研究群 訪問時の役職 教授

筑波大学・守友浩先生を訪ねて
  守友先生の研究は、現行のリチウムイオン二次電池(LIB)のLiイオンの代替としてNaイオンを使う二次電池(SIB)の研究です。研究室のホームページに『強相関物性』が掲げられており、なぜ電池の研究を始められたのか、電池研究との関係をお聞きした所、以前は酸化物系強相関物質の研究を実施しておりましたが、もう少し直接社会との関わりのある研究をやりたいと思ったことと、電池材料は応用が先行し、きちんとした学問体系がなく、日本では基礎研究が殆どされていないからとのことです。そこで専門の固体物理学を生かして基礎科学の観点から新しい材料やデバイスに迫ろうと考えたそうです。
  先の研究者がSIB用の負極活物質としてハードカーボンを見出してから、今まで不可能と見られていたSIBの研究が活発になったそうです。SIBのNa化合物はLi化合物に比し、資源的な制約がなく低コストになりますし、化合物の多様性から研究の余地が大きく広がります。そこで、まだ実現していないSIBの正極活物質に、研究例が極めて少ない配位高分子であるプルシャンブルー類似体(PBA)を使うというのがこの研究です。PBAの電池特性評価などの研究を実施し、この分野の認知度を上げ、その上で電池の研究者と共同研究などを通じて役割分担し、そこから専門を生かして掘り下げていきたいとのことです。当日は電池業界の常識への先生の挑戦をお聞きしました。
  まず活物質そのものの特性をきちんと把握したいため、集電体(ITOを使用)に電解により活物質の薄膜を形成します。もっとも電池の業界では薄膜での評価は相手にされないようです。一旦膜ができると、膜内の不均一性とか膜厚方向の拡散とか、将来は放射光などを使って活物質内でイオンがどう拡散するのかが測定できます。PBAは遷移金属が2ヶ入っており、その間をシアノ基で繋がったジャングルジム構造をしております。ジャングルジムは、シアノ基の大きさで決まる一辺が5Åの立方体で構成され、その中に色々なイオンが配位しLIB、SIBの正極材として機能します。酸素分子、水素分子などの分子も入ると言われ、水素吸蔵に関する論文もいくつかあるようです。Csも吸蔵できるので除染剤として先生は研究しています。配位化合物で、価数が動き、骨格が安定しているのはPBAしかないようです。PBAは30%のFeが欠損していますが詳細は不明なようで、面心立方格子のX線回折パターンを示し、アモルファスになりそうでならず、不思議な化合物だそうです。イオンの入りやすさを薄膜のPBAで実験した所、溶媒和していない裸のイオンの大きさで入りやすさが決まり、入る時に脱溶媒和し、そこが律速のようです。電荷量を決めているのは遷移金属の価数変化で、多価イオンにしても基本的に容量は変わりません。PBAの特徴は5Åと間口が広く、拡散係数が同じLiイオンでLiCoO2に比し2桁と高いこと、また電池材料として奇異なことですが、充電と放電で色が変わることです。 1μmのPBAの粒が集電体に着いた1μm厚程度の薄膜だとレート特性は良いのですが、ペーストにすると1桁強低下します。PBAの導電率は、オリビン酸より高いがLiCoO2に比べると低く、絶縁体に近いのですが、本来のPBA活物質の性能は高いことから、ペーストだと電圧がきちんとPBAの粒に掛かっていないからと考えています。
  Co-PBAとMn-PBAの放電曲線ですが、前者は後者に比しより明確な2段のプラトーが見られ、 Mn-PBAではまずマンガンの還元、次いで鉄シアン化物の還元が起こりますが、Co-PBAの場合、不思議なことに、酸化還元電位が高いCoの還元が、電圧の低い第二プラトーで起こります。還元の順番が逆転しているのです。 Co-PBAもMn-PBAも遷移金属の組み合わせで、同じ2価ー3価の価数変化の2電子反応ですが、仮に2価ー4価の4電子反応をする化合物ができれば、容量は2倍の240mAh/gになります。現在、別のグループが3電子反応で180ー190mAh/gを実現しているそうです。ホストの遷移金属を変えたり、出し入れするカチオンの種類を変えたりして拡散係数を測定していますが、同じホストでLiイオンもNaイオンも入るものはなかなかないそうです。ホストが大きくなると拡散係数は大きくなり、活性化エネルギーは小さくなります。電池の世界にはこういう当たり前の実験データがないので、きちんと残し、数値できちんと説明できるようにしたいとのことです。PBAはマイナーな分野なので実験結果を公表し、理論計算をする人の関心を呼ぶことが重要とのことです。NaCoO2中の拡散係数はLiCoO2中より大きく、これは単純にイオン半径の大きさの差ではなく、ホストの格子定数の差によるものです。当初薄膜で実験しましたが、最近ではペースト電極でもバインダーを変えたりして再現性あるよい結果が得られるようになったようです。今後はPBAの表面修飾、負極材への応用を検討していきたいとのことです。
  基礎科学に基づく電池材料の解析が次世代の材料の開発に不可欠と感じました。                                     (2015年8月17日訪問、技術参与・飯塚)

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著作文献紹介
  • 1. Y. Moritomo, Y. Yoshida, D. Inoue, H. Iwaizumi, S. Kobayashi, S. Kawaguchi, and T. Shibata, “Origin of the material dependence of the temperature coefficient of the redox potential in coordination polymers”, J. Phys. Soc. Jpn. 90, 063801 (2021).
  • 2. Y. Moritomo, Y. Yoshida, H. Iwaizumi, D. Inoue, I. Nagai, and T. Shibata, "Structural phase transition triggered by Na ordering in Na1.96Cd[Fe(CN)6]0.99", J. Phys. Soc. Jpn. 90, 013601 (2021).
  • 3. T. Shibata, H. Iwaizumi, Y. Fukuzumi, Y. Moritomo, Energy harvesting thermocell with use of phase transition, Sci. Reps. 19, 1813 (2020).
  • 4. I. Takahara, T. Shibata, Y. Fukuzumi, and Y. Moritomo, Improved thermal cyclability of tertiary battery made of Prussian blue analogues, Chem. Select 4, 8558 (2019).
  • 5. Y. Fukuzumi, Y. Hinuma, and Y. Moritomo, Configuration entropy effect on temperature coefficient of redox potential in P2-NaxCoO2, Jpn. J. Appl. Phys. 58, 065501 (2019).
  • 6. T. Shibata, Y. Fukuzumi, W. Kobayashi, and Y. Moritomo, Thermal efficiency of a thermocell made of Prussian blue analogues, Sci. Reps. 8, 14784 (2018).
  • 7. T. Shibata, Y. Fukuzumi, W. Kobayashi, and Y. Moritomo, Thermal power generation during heat cycle near room temperature, Appl. Phys. Express 11, 017101 (2018).
  • 8. 守友 浩「環境熱で充電される三次電池の開発」クリーンエネルギー2021年1月号15-20
  • 9. 守友 浩「環境熱で充電される三次電池」O plus E 2019年7/8月号535-540
  • 10. 守友 浩「二次電池を転用した未利用熱エネルギーの電力変換」OHM2018年5月号36-39
  • 配位高分子電池材料の解説記事の例
    1.守友 浩、松田智行「ネットワークポリマー化合物を用いた薄膜型電極の開発」ファインケミカル、40,5(2011)
    2.守友 浩、栗原佑太朗「ネットワークポリマー型電池材料の容量増大に向けて」機能材料、31,35 (2011)
    3.守友 浩 「リチウムイオン電池のための三次元ポリマー正極材料―カラー電池への展開ー」MATERIAL、11,16 (2011)