広島大学・富永先生を訪ねて
富永先生の所属する先端物質科学研究科は、東広島キャンパスの北東端にあり、理工融合の先端的分野を開拓することを掲げています。先生の話でも他分野の研究者と融合することを求められているとのことです。当日は予め資料を用意の上でプロジェクタで、研究の意義など専門外の私共の為に懇切丁寧にご説明いただきました。
半導体の重要な技術にエピタキシャル結晶成長があり、先生のご専門はその1つである分子線エピタキシー(MBE)による製造とのことです。研究のスタートは、先生が学生時代に所属していた研究室でGaAsBiを扱っており、そのバンドギャップが温度の影響を受けにくいことが実験的に分かっていたようです。このことは発光波長が温度に依存しない半導体レーザの実現が示唆されることを意味します。このGaAsBiを現在の光通信の光源に利用されているInGaAsPで代替できれば、冷却素子なしで波長分割多重(WDM)通信の大容量化、低消費電力化、低コスト化につながります。
ただ、GaAsBiは結晶成長が難しい材料として知られており、一方レーザ発振には良い結晶を作る必要があります。Biは基板温度が350℃以下でないと結晶の中に入らず、半導体は高温ほど不純物の少ない良質の結晶になる傾向があるため、 350℃以下で結晶成長させた半導体を用いたデバイスはほとんどないとのことです。この品質の良いGaAsBi結晶を作るのに挑戦したのが先生の学位研究だそうです。そして、結晶成長の条件を緻密に最適化することで、GaAsBiの光励起によるレーザ発振に世界で初めて成功し、同時に発振波長が温度変化の影響を受けにくいことを確認したとのことです。この研究はトライ&エラーの連続で、先の見えない研究に4年かかったとのことです。成果が見えない厳しい研究であったことと推察します。現在までにGaAsBiのMBE成長条件を最適化することで、レーザ動作を確認、GaAsBi/GaAsなどBiを含む半導体で構成された量子井戸を実現、通信用波長帯での発光を実現したとのことです。
今回の財団のテーマは、このGaAsBiの発振波長、バンドギャップが温度変化の影響を受けにくいことが何に起因するかの研究です。Asの代わりにより原子半径の大きなBiを導入することが、バンド構造にどう影響するか、それが温度依存性にどう繋がるのか明らかにしたいとのことです。GaAsBiのバンド構造の理論的計算と、同時に先生が所属する研究室が得意とするテラヘルツ時間領域分光法を用いて、理論・実験の両方からGaAsBiのバンド構造を明らかにするとのことです。バンドギャップの温度依存性低減の理由が理論的、実験的に明らかになれば、その考え方は他の半導体にも適用可能と考えられ、電子・光学両デバイスの新たな革新が生まれます。先生の新たな挑戦に大いに期待したいところです。
実験室では、テラヘルツ電磁波の発生・検出を行う測定系を見学、また、少し離れた工学部の建物にあるMBE結晶成長装置を見学させてもらいました。 (2014年6月5日訪問、技術参与・飯塚)
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