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2020/11/17

Topics研究室訪問記が追記されました。

2015/06/12

Topics研究室訪問記を追記しました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
坂本 良太
サカモトリョウタ
ナノシート、ナノマテリアル、原子層、エレクトロニクス、トポロジカル絶縁体、 スピントロニクス、フォトセンサー、太陽電池
ホームページ http://www.ehcc.kyoto-u.ac.jp/eh41/home/abe/sakamoto_profile/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2019年度 学術賞表彰 奨励賞 京都大学 大学院工学研究科 物質化学エネルギー専攻 PDF
研究題名 エレクトロニクス・スピントロニクスへ応用可能な「ボトムアップ型」金属錯体ナノシート
2014年度 奨励研究助成 新材料 東京大学 大学院理学系研究科化学専攻 PDF PDF
研究題名 エレクトロニクス・スピントロニクスへ応用可能な「ボトムアップ型」金属錯体ナノシート
2014年度 国際交流援助 新材料 東京大学 大学院理学系研究科化学専攻
研究題名 強発光性π拡張ジピリン錯体

訪問記

最終更新日 : 2020/11/17

訪問日:2020/10/26
訪問時の所属機関 京都大学 大学院工学研究科物質科学エネルギー専攻 訪問時の役職 准教授

リモートインタビュー(図1)にて、学術賞受賞テーマの特長や研究に対する考え方などをお伺いしました。

まず、「金属錯体ナノシート」について教えて下さい
 私の研究している「ナノシート」はポリマー(高分子材料)ですが、ポリエチレンやテフロンなどの一般的な高分子はとは違い、究極的には1nm以下の厚さの非常に薄いナノ素材です。その中で「金属錯体ナノシート」というのは、金属イオンと有機配位子が配位結合することを利用して六角形の骨格を紡ぎ合い「ナノシート」を形成したものになります。
 合成法として、液液界面法と気液界面法の二つを開発しました。液液界面法は、有機配位子と金属イオンをそれぞれ油と水に溶かして、溶液を二層に重ねるとその界面で両者が反応し「ナノシート」の形成が進行します。この方法ではナノシートの「積層膜」が形成されます。一方、気液界面法(研究紹介文図1参照)では金属イオンを溶かした水溶液に有機配位子を溶解したジクロロメタン溶液を微量滴下します。ジクロロメタンはすぐに蒸散して気液界面で反応が進行するので、究極的に薄い「単層膜」が得られます。厚さとしては僅か1.2nm、一方横のサイズは少なくとも10μm以上あり、厚さに対する横のサイズ、いわゆるアスペクト比が非常に大きい膜を作ることができます。
 有機モノマーと金属イオンが原料なので、これらを変更することで様々な構造の「ナノシート」を作ることが可能です。物性の一例ですが、「ジチオレンナノシート」(研究紹介文図1参照)は160S/cmという非常に高い導電性を示しました。「テルピリジンナノシート」は電圧変化によって色が変わるナノシートで、調光ガラスや電子ペーパーなどへの応用が期待されます。

助成研究以降で研究の方向性は変わっていますか
 「金属錯体ナノシート」に関しては、配位子(有機分子)をチューニングして機能を様々に変化させる研究は継続しています。大きく変わったのは「グラフィジイン」の研究をスタートしたことです。「グラフィジイン」はグラフェンの親戚の様な物質で、炭素-炭素の結合だけでできたナノシートです(図2右)。炭素-炭素結合のナノシートの形成は基礎科学的・技術的に非常に難しい一方、応用的にも様々な可能性が考えられるためチャレンジしています。
 「ヘキサエチニルベンゼン(HEB)」(図2左)を原料モノマーにして、これまで研究してきた気液界面合成法を用いることで「グラフィジインナノシート」の合成に成功しています。7~9層の積層膜で厚さとしては3nm、横のサイズとしては1.5μmで、アスペクト比が非常に大きいものができています。更に、グラフィジインの積層構造はこれまで未解明でしたが、ABCの積層構造(図3)だということを明らかにできました。このABC積層グラフィジインに関して、物理分野の先生(大阪大学越野教授)との共同研究で、トポロジカル物性の発現の可能性を見出しました。
 また、「HEB」のベンゼン環コアを拡張し窒素原子を導入した原料モノマーから生成した「グラフィジイン類縁体」が水素を発生させる反応の触媒能が高いということも見出しています。

「金属錯体ナノシート」に比べ「グラフィジイン」の形成が難しいのはなぜですか
 「ナノシート」を形成するには六角形の構造が連続して広がって生成することが必要ですが、反応においては七角形や五角形の構造できてしまうことがあります。「金属錯体ナノシート」の金属と配位子の結合(配位結合)は可逆的でくっ付いたり離れたりができるので、一旦七角形や五角形ができてしまっても六角形に戻ることが可能です。一方、「グラフィジイン」の炭素-炭素の結合(共有結合)は不可逆なので一度間違って出てきてしまうとそこで構造のエラーが固定されて欠陥になってしまいます。
 これが本質的な難しさですが、困難だからこそそれを打ち破りたい、更に応用的なメリットも高い、ということがこの研究のモチベーションです。

「困難だからこそ」は研究への取組み姿勢だと思いますが、研究に対しての考え方をお聞かせ下さい
 理学部出身だからというわけではないのですが、基本的には「基礎研究をやる」いうことが研究のスタンスです。昔は企業にも基礎研究所がかなりあったのですが、最近はだいぶ少なくなってきていますので、やはり基礎研究は大学の役割だ、ということでもあります。基礎研究は簡単に言えば0から1を生み出す、ということですが、科学が発展してきた現在においては全くの0から1というのはほぼあり得ないでしょう。ですから、「できるだけ0に近い」ところから1でなくてもいいので「1に近づく」、そういった研究をやっていきたいというのが研究に対する想いです。
 また、「化学」の分野、特にその基礎研究領域はだいぶ飽和してきている、と感じるところがあります。もちろん応用としては、電池やセンサなどまだまだやることはあるのですが、基礎研究としてはだいぶ飽和してきている、ということです。ですから、これからは分野横断の研究や境界領域の研究への取り組みが重要だと言えます。先ほどの例ですと、物理分野の先生と理論計算で共同研究を行い「化学」だけでは到達できない新しい知見を生み出す、こういった取り組みを上述のグラフィジインの研究行っていますが、今後更に強化していきたいと考えています。

若い頃から考えが変わってきたのでしょうか
 昔はただ単純に実験して楽しい、などと思っていたんですが、その辺の考え方は変わってきました。30年程前であればただ純粋な興味で研究していれば基礎研究的には何とかなったのかと思いますが、今は一つのことをやり続けていれば良いというわけではなく、時代としても基礎研究のあり方が変わってきていると感じます。ただ単に論文にすればよい、と考えていた時期もありましたが、それが基礎研究としてすら、必ずしも本質的に意味があることではないと考えを改めました。

基礎研究で本質的な価値(0から1へ)を生み出すのに重要なことは何でしょうか
 研究者としてはチャレンジングであること、失敗を恐れないこと、が重要だと思います。また、アカデミアがエンカレッジするのが大事で、ことさら基礎研究においては、新規性・萌芽性・分野横断性の高い研究に資金を充てることをより明確に打ち出していかないと、これからの日本の学術研究は一層厳しくなってくるではないかと感じています。

後記
 「応用的には必ずしも強みにはならない」「昔考えていたことは今思うと間違っていた」などなど、坂本先生はとてもフランクに(ここには書けないことも含めて)何でも本音で話してくださり、とても楽しいインタビューになりました。研究内容だけでなく、これからの「基礎研究のあり方」の追及はとても興味深く聴かせていただきました。
 素人目にも幾何学的な美しさに魅かれる「ナノシート」。今後更に「基礎研究としての本質的価値」を創出していくことと期待しています。
(矢崎財団技術参与 池田実)

過去の訪問記

訪問日:2015/05/27
訪問時の所属機関 東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻 訪問時の役職 助教

東京大学・坂本良太先生を訪ねて
先生の研究は2次元のナノシートをエレクトロニクス、スピントロニクスに応用する研究です。代表的なナノシートとしては2010年ノーベル物理学賞の対象となったグラフェンや、昔から潤滑剤として知られているMoS2などがあり、いずれも層状結晶性化合物で、1枚1枚層を剥がすことでナノシートとしています。これらは言わばトップダウン型ナノシートでありますが、先生の目指すのは化学合成で分子から直接合成するボトムアップ型ナノシートです。トップダウン手法は既存の化合物から作製しますが、ボトムアップ法は出発する分子を選ぶことで、異なる特性を持つ多様なナノシートができるという特徴があります。先生は初めてボトムアップ型ナノシートとして3種類の機能性ナノシートを発表し、その詳細を聞くことができました。   
1つ目はジピリン金属錯体ナノシートです。原料のジピリン有機配位子は油に溶解し、酢酸亜鉛は水溶性で、水と油の界面でジピリンと亜鉛が反応し結合を作り、反応は界面に沿って二次元的に広がります(液液界面法)。これを疎水性もしくは疎水化した基板に転写します。得られるのはナノシートの積層体で、厚さは700~800nm、層数として600~700層程度です。層数はジピリンの濃度で制御でき、5層から700層まで作製できます。一方、単原子層を作るには気液界面法を用い、酢酸亜鉛水溶液にジピリン有機配位子を含む有機溶媒を注射器で極微少量滴下し、有機溶媒を蒸発させます。単原子層にするには、有機配位子が無くなった時点で反応が終了する必要があることから、滴下量・滴下濃度を調整します。AFM測定によると1層の厚さは1.2nmで、波長500nmの可視光の吸収強度が7層まで層数に比例するそうです。このナノシートの応用例として太陽電池を考え、電解質に電子を供与するトリエタノールアミンを用いた光電気化学系で光電流が観測できました。計算するとこのジピリジンナノシートは半導体のように非局在化したバンド構造を持っていなく、ユニットに局在化した分子軌道のようです。これは最近、光電変換機能を持つナノシートとしてNature Communicationsに掲載され、機能性を示すナノシートの具体的応用例としては初めてのようです。
2つ目はテルピリジン金属錯体ナノシートです。これはガラス上に転写した実際のサンプルを見せてもらいました。大きさは10㎝程度と大きく、中心金属に鉄とコバルトを用い、厚さは300nm、200層程度積層したもので、配位子・金属イオンを変えることで色が変わります。この2つのナノシートでポリマー電解質を挟み、両側を透明電極にし、電圧を反転すると繰り返し色が変わり、エレクトロクロミズムが実現します。当日は東大に因んでそれぞれのナノシートに「T」と「U」を刻んだサンプルで実演してくれました。
3つ目はベンゼンヘキサチオールと酢酸ニッケルからできるジチオレン金属ナノシートで、前の2つと異なりπ共役系が広がり非局在化したバンド構造を持ちます。160s/㎝という配位高分子としては特筆される導電性を示し、気液界面法により0.6nm厚の単原子層ナノシートも作製出来ます。金属イオンのスピン軌道相互作用を加味したバンド構造計算により、この単層ナノシートはグラフェンと同じようにディラックコーンを持ちますが、グラフェンと異なりディラックコーンにギャップを持ち、トポロジカル絶縁体になると言われています。初めての有機系トポロジカル絶縁体の提案です。今後はトポロジカル絶縁体であることの実験的実証に取り組んでいくとのことです。
最近、類似の研究が増え、注目されるのはよいのですが競争も厳しくなってきているようです。応用に向け、一層の国内外の研究者との交流を通じて、有機系ナノ材料から新分野が拓かれるのを予感できる訪問でした。 (2015年5月27日訪問、技術参与・飯塚)

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