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2015/10/14

Topics研究室訪問記が追記されました。

2015/05/14

Topics2015年4月13日付で、東京工業大学のホームページの、東工大ニューに、当財団2014年度矢崎学術賞表彰(奨励賞)を受賞した情報が掲載されたとのご連絡をいただきました。
関連サイト

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
小寺 哲夫
コデラテツオ
量子ドット、量子情報、スピン、量子輸送、ナノ構造、センサー、微細トランジスタ
ホームページ http://diana.pe.titech.ac.jp/NQD/index.html
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2014年度 学術賞表彰 奨励賞 東京工業大学 大学院理工学研究科
研究題名 量子ドット構造を用いたスピン情報素子の開発と高感度センサーへの応用
2011年度 奨励研究助成 情報 東京工業大学 量子ナノエレクトロニクス研究センタ- PDF PDF
研究題名 量子ドット構造を用いたスピン情報素子の開発と高感度センサーへの応用

訪問記

最終更新日 : 2015/10/13

訪問日:2015/10/05
訪問時の所属機関 東京工業大学 大学院理工学研究科 電子物理工学専攻 訪問時の役職 准教授

東京工業大学・小寺哲夫先生を訪ねて
  今回は学術賞を受賞された小寺先生をお訪ねし、受賞研究の内容を中心に、将来の情報化社会の到来に備え、高速情報処理を目的とした新しい原理で動くシリコン(Si)電子スピン量子ビット(QUBIT:量子コンピュータの最小単位)基盤技術を聞くことができました。話は多岐に渡り、ここでは消化不足もあり全部を紹介できないことをお詫びします。Siデバイスは既存のSiテクノロジーとの相性が良く、資源量が豊富です。先生は昨年、波多野睦子教授と新しい研究室を立ち上げ、QUBITの基礎研究と、波多野先生とより実用に近いダイヤモンドNVセンターによる室温磁気センサにも取り組み始めたとのことです。
  スピントロニクス分野では、情報伝送に電荷ではなく、スピンを利用する技術が10~15年後に実現されるとも言われ、あるいは更にその先の量子コンピュータも注目されています。シリコンはドットサイズを小さくすればするほど、温度に対する安定性が増し、動作温度も上がります。今は絶対温度4Kで動いていますが、数nmのドットが実現すれば室温動作も期待されそうです。ただ、量子コンピュータ実現には億単位のドットを並べ独立にアクセスし、そのコヒーレンスを維持する必要があります。現在は、Si電子スピンを用いたQUBITができたところです。電子スピンQUBITは15年程前からGaAs系で研究されてきており、その過程で量子ドットを作っている原子核もスピンを持っており、この核スピンが電子スピンの情報を乱してしまうことが分かりました。この核スピンの影響がない系に着目し、GaAsからSiに代えてやってみたとのことです。量子効果を発現するサイズ(有効質量に反比例)が、GaAsの方がSiより約10倍大きく、15年前には小さなドットを作る技術がなくGaAsが先行したようです。その為か、最近はSi量子ドットの研究者が増えているようです。通常スピントロニクス材料には強磁性半導体を使いますが、非磁性のSiを使って磁性を発現させる為に、量子ドット構造を2つ並べて(二重量子ドット)、そこに電子1個ずつ入れると、トリプレット( 三重項)の状態で電気の流れが止まり、シングレット(一重項)の状態で流れ、スピンの向きに依存するような現象(スピンブロッケード)を発現できました。磁性体を使わなくても磁性の効果がでるという大きな特徴があり、不純物がないことから、よりスピンの安定性も増します。コヒーレンス時間は天然のSiで1μ秒程度、GaAs系では10n秒程度です。 95%のSi(28Si)は核スピンを持たず、核スピンを持つ同位体Si(29Si)を完全に排除すると、コヒーレンス時間はm秒オーダーのようです。コヒーレンス時間が重要なのは、その間に1万回程度のゲート操作をすることが必要だからです。
  基盤技術として、量子ドットの高度作製技術が必要とされ、電子の存在する領域の径が20nm程度の量子ドット構造を作製できました。スピンの向きに依存するトンネル現象、たった一個の電子の変化を読み出す電荷センサを作製、一個の量子ドットに一個だけ電子を入れること、二個の量子ドットに一個ずつ電子を入れるなどの項目を実現し、更にスピン操作を実現、電子スピンQUBITができました。Si量子ドットは、電子線リソグラフィーによるMOS構造で実現しました。トップゲートに正電圧を印加することで、Siの量子ドット部分に電子を誘起し、2つのサイドゲートの負電圧を変えて量子ドットのポテンシャル、トンネル障壁を制御します。狭窄領域を3ヶ所作ることでトンネル障壁が形成され、その間に電子が貯まる直列二重量子ドット構造を作製、特有の蜂の巣型電荷安定状態図、及び三角形状の電荷三重点が観測されました。この電荷三重点の2つのサイドゲートの電圧でのみ、量子ドット内の電子のエネルギー準位が揃い電子が流れます。また、印加するソースドレイン電圧を逆にすると、電流が抑制される領域が現れることを観測し、パウリスピンブロッケードと呼ばれるスピン依存トンネル現象が示されました。
  量子ビットを作るひとつのステップとして量子ドット中に電子が1個だけ存在する状態を作る必要があります。ゲート電圧に負の電圧を印加していくとクーロンピークが見られない状態が出現し、クーロン振動は電子の一個の増減を示しますので、量子ドット内の電子がゼロになったと間違った判断をしてしまいます。負電圧を印加していくと、ドットとドレイン間や、ドットとソース間のトンネル障壁が厚くなり、わずかな電流のため電流値として観測できなくなるだけです。それを観測する為に、単電子量子ドット電荷センサを加え(下図)、量子ドットを2つ並べた構造にし、電荷センサを流れる電流と量子ドットを流れる電流を同時に測ります。量子ドットの電子数が変わることにより、電荷センサとの間に働く電界、クーロン相互作用が変化するのを電荷センサが検知し、急峻な電流値の変化としてみることができます。電荷センサに急峻な電流値の変化がないときが量子ドット内に電子がないことになります。同じことを二重量子ドットにも適用し、二重量子ドット中の電子数の変化を電荷センサで検出することにも成功しました。
   電子スピンQUBITは磁界がちょっと変わるとその回転速度が変わり、位相も含めた超高感度なセンサになるようで、先生はこの技術をダイヤモンドNVセンターにも適用し、室温でスピン操作可能な生体磁気センサ、温度センサなどへ応用、着実に成果を上げていきたいとのことです。
  1個2個の電子のスピン操作がデバイスとして実現される世界を垣間見た訪問でした。(2015年10月5日訪問、技術参与・飯塚)

著作文献紹介

  • 1. T. Ferrus, A. Rossi, A. Andreev, T. Kodera, T. Kambara, W. Lin, S. Oda, and D. A. Williams, “GHz photon-activated hopping between localized states in a silicon quantum dot” New J. Phys. 16, 1, 013016 (2014) 2014-01-13

    2. M. A. Sulthoni, T. Kodera, Y. Kawano, S. Oda, “Optimization and Tunnel Junction Parameters Extraction of Electro-statically Defined Silicon Double Quantum Dots Structure” Jpn. J. Appl. Phys. 52 (2013) 081301 (5 pages), 2013-07-12 (Corresponding author)

    3. K. Takeda, T. Obata, Y. Fukuoka, W. M. Akhtar, J. Kamioka, T. Kodera, S. Oda, and S. Tarucha, ”Characterization and suppression of low-frequency noise in Si/SiGe quantum point contacts and quantum dots” Appl. Phys. Lett. 102, 123113 (2013).

    4. T. Kambara, T. Kodera, Y. Arakawa, and S. Oda, “Dual Function of Single Electron Transistor Coupled with Double Quantum Dot: Gating and Charge Sensing” Jpn. J. Appl. Phys. 52 (2013) 04CJ01 (4 pages),(Corresponding author)

    5. G. Yamahata, T. Kodera, H. O. H. Churchill, K. Uchida, C. M. Marcus, and S. Oda, “Magnetic field dependence of Pauli spin blockade: A window into the sources of spin relaxation in silicon quantum dots”, Phys. Rev. B 86, 115322-1-5 (2012) (筆頭著者と第2著者は同じ貢献度).

    6. K. Horibe, T. Kodera, T. Kambara, K. Uchida, and S. Oda, “Key capacitive parameters for designing single-electron transistor charge sensors”, J. Appl. Phys. 111, 093715-1-5 (2012) (Corresponding Author).

    7. T. Ferrus, A. Rossi, W. Lin, D. A. Williams, T. Kodera, and S. Oda, “Localization effects in the tunnel barriers of phosphorus-doped silicon quantum dots” AIP Advances 2, 022114-1-9 (2012).

    8. M. A. Sulthoni, T. Kodera, Y. Kawano, S. Oda, “A Multi-purpose Electrostatically Defined Silicon Quantum Dots” , Jpn. J. Appl. Phys. 51, 2, 02BJ10-1-4 (2012).

    9. T. Kodera, G. Yamahata, T. Kambara, K. Horibe, T. Ferrus, D. Williams, Y. Arakawa, and S Oda, “Realization of Lithographically‐Defined Silicon Quantum Dots without Unintentional Localized Potentials”, AIP Conf. Proc. 1399, 331 (2011).

    10. M. A. Sulthoni, T. Kodera, K. Uchida, and S. Oda “Numerical simulation study of electrostatically defined silicon double quantum dot device”, J. Appl. Phys., 110, 054511 -1-4 (2011).