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2019/11/18

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
大石 昌嗣
オオイシマサツグ
蓄電池,リチウムイオン二次電池,放射光測定,非晶質構造解析,無機材料,セラミックス材料,固体イオニクス
ホームページ https://www-me.ait231.tokushima-u.ac.jp/labs/moishi/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2018年度 一般研究助成 エネルギー 徳島大学 大学院社会産業理工学研究部 機械科学系 PDF PDF
研究題名 リチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化に向けた非晶質相電極の開発

訪問記

最終更新日 : 2019/11/18

訪問日:2019/11/01
訪問時の所属機関 徳島大学 大学院社会産業理工学研究部 機械科学系 訪問時の役職 准教授

 研究紹介文にもとづき、助成対象となったご研究の詳細を伺いました(図1)。以下は主な質疑応答です。

ご研究を始めた契機はなんですか?
 2019年度のノーベル化学賞はリチウムイオン電池を発明した3名の先生方が選ばれました。軽量でエネルギーをたくさん貯められるため(高エネルギー密度)、スマートフォンのような小型の電子機器から、最近では電気自動車用の蓄電池としても広く用いられています。リチウムイオン電池の優れた特性は正極・負極の電極構造が長期間にわたりほとんど変化せず、非常に可逆性が高いことがその要因です。これを身近な例としてコンクリートのような堅牢な材料でできたビルと人に例えます。電極は正極ビルと負極ビルの組み合わせからなります。電流はそれぞれのビルを行き来する人(リチウムイオン)の流れとして例えることができます。良い電池は、同じ大きさでもより多くの人が入れるビルがあり、より多くの人が移動できると言えます(図2)。この考え方は非常に大切ですが、同じ大きさのビルに入れる人の数は材料で決まる電極構造に依存します。また実際の正極材料では、理論容量の2/3程度しかリチウムイオンが出入りできず、材料の特性が活かしきれていません。私は燃料電池の研究で培った材料技術で電極構造を最適化できれば、正極材料の容量をより理論値に近づけられると考え、この研究を始めました。

ご研究の独創性を改めてお伺いします
 我々の研究により、正極材料の一部を非晶質にすると、電池容量が増えることが分かってきました(図3)。私は非晶質材料であるガラスの評価手法を用いた電池材料の構造評価を行っています。既存の材料は初期充電時の構造変化により非晶質相を形成しますが、充電を行わなくとも最初から同じ電極構造を作れないかというチャレンジを行っています。そのような研究例はほとんどなく、私の研究のユニークな点であると言えます。

実用化されると暮らしはどう変わりますか?
 理想的には、年に1度充電すれば使えるスマートフォンや電気自動車です。現実的には重さが現在の半分程度のスマートフォンや、航続距離が700 km程度の電気自動車の実用化が期待されます。重さがフィーチャーフォンと同じなのに大きな画面のスマートフォンや満充電するとガソリン車と同じくらい走れる電気自動車が実現できると、日々の暮らしに大変役立つと考えています。

研究者を志したきっかけを教えてください
 環境問題に興味を持っており、関連する大学に進んだのがきっかけです。当初はごみで発電することや、水素で走る自動車に興味を持っていました。しかし、大学に入ってからは何をやってよいかわからないという状況で、エネルギーに関することをやりたいと考え機械系に進みました。そこで恩師の先生に出会い、燃料電池の研究に携わり、水素が魅力的な燃料であるという考えにたどり着きました。その中でも特にセラミックスを用いた固体酸化物燃料電池の研究に携わりました。リチウムイオン電池の電極材料でもセラミック材料が用いられており、今に至ります。

研究活動の面白さは何ですか?
 大きく2つあると思います。一つは論理構築ができたとき。いくつかの仮説からその通りの結果が得られた時は、やはりうれしいです。成果は学会で発表します。もう一つは、想像できない結果が得られた時。これまで得たことのない結果が得られた時のわくわく感は格別です。いずれにとっても大切なことは、実際に試してみないと現象は確認できないということです。研究は仮説を実際に試すことができます。また、仮説通りの結果が得られる事が成功であるとは限らないことが研究の面白さです。失敗しても成功してもそこから得られることがあるのは研究の良さであり大切なことだと思います。

後進の方に伝えたいことは何ですか?
 視野を広く持つことが大切だということを伝えたいと思います。自分の周りの世界が絶対ではありません。世の中には多様な価値観があります。絶対的な価値観はありません。もしかしたら、自分では何とも思っていないことが、誰かにとっては非常に大切なことかもしれません。また、何気ない目の前の現象が実は正解を示しているかもしれません。ある側面からの見方で判断するのではなく、多様な視点で判断できることが大切だと思います。自ら枠を作るのではなく、まわりの事に広く目を向けて大切な何かを見つけられるようにしていくことが必要だと思います。

後記
 常識は常識ではない。先生のご研究にも通じるものありました。リチウムイオン電池は電極が壊れない(変形しない)から性能が良い。一方今回の助成研究は一部が変形(非晶質化)することでより理想に近い状態を作ることができる。一見矛盾しているように見える考えも、実際の現象を観察すれば間違っていないことがわかります。目の前の現象を解き明かし、新しい常識を生み出されようとしている姿に、研究の面白さを垣間見たように思います。新たな知見が次の蓄電池の研究に役立つよう、ご研究成果の一日も早い活用を期待しております。

(技術部長 鳥越昭彦)

著作文献紹介
  • Masatsugu Oishi, Takahiro Fujimoto, Yu Takanashi, Yuki Orikasa, Atsushi Kawamura, Toshiaki Ina, Hisao Yamashige, Daiko Takamatsu, Kenji Sato, Haruno Murayama, Hajime Tanida, Hajime Arai, Hideshi Ishii, Chihiro Yogi, Iwao Watanabe, Toshiaki Ohta, Atsushi Mineshige, Yoshiharu Uchimoto and Zempachi Ogumi, Charge compensation mechanisms in Li1.16Ni0.15Co0.19Mn0.50O2 positive electrode material for Li-ion batteries analyzed by a combination of hard and soft X-ray absorption near edge structure, Journal of Power Sources, 222(15), 45-51, 2013.
  • Masatsugu Oishi, Chihiro Yogi, Iwao Watanabe, Toshiaki Ohta, Yuki Orikasa, Yoshiharu Uchimoto and Zempachi Ogumi, Direct observation of reversible charge compensation by oxygen ion in Li-rich manganese layered oxide positive electrode material, Li1.16Ni0.15Co0.19Mn0.50O2, Journal of Power Sources, 276, 89-94, 2015.
  • 山中 恵介, 大石 昌嗣, 中西 康次, 渡辺 巌, 太田 俊明, 軟X 線XAFS
    によるリチウム過剰層状酸化物正極の電荷補償機構解析,
    X線分析の進歩, 47, 321-330, 2016.
  • Masatsugu Oishi, Keisuke Yamanaka, Iwao Watanabe, Keiji Shimoda, Toshiyuki Matsunaga, Hajime Arai, Yoshio Ukyo, Yoshiharu Uchimoto, Zempachi Ogumi and Toshiaki Ohta,
    Direct observation of reversible oxygen anion redox reaction in Li-rich manganese oxide, Li2MnO3, studied by soft X-ray absorption spectroscopy, Journal of Materials Chemistry. A, 4(23), 9293-9302, 2016.
  • Keiji Shimoda, Masatsugu Oishi, Toshiyuki Matsunaga, Miwa Murakami, Keisuke Yamanaka, Hajime Arai, Yoshio Ukyo, Yoshiharu Uchimoto, Toshiaki Ohta, Eiichiro Matsubara and Zempachi Ogumi,
    Direct observation of layered-to-spinel phase transformation in Li2MnO3 and the spinel structure stabilised after the activation process, Journal of Materials Chemistry. A, 5, 6695-6707, 2017.
  • Kawaguchi Tomoya, Sakaida Masashi, Masatsugu Oishi, Ichitsubo Tetsu, Fukuda Katsutoshi, Toyoda Satoshi and Matsubara Eiichiro,
    Strain-Induced Stabilization of Charged State in Li-Rich Layered Transition-Metal Oxide for Lithium-Ion Batteries, The Journal of Physical Chemistry C, 122, 19298-19308, 2018.