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2019/11/08

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
田邉 一郎
タナベイチロウ
イオン液体、有機半導体、トランジスタ、紫外分光、電子励起スペクトル、減衰全反射法、電気化学
ホームページ http://www.chem.es.osaka-u.ac.jp/surf/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2018年度 奨励研究助成 新材料 大阪大学 大学院基礎工学研究科 PDF PDF
研究題名 高性能トランジスタ開発に向けた有機半導体/イオン液体界面の電子状態研究

訪問記

最終更新日 : 2019/11/08

訪問日:2019/10/22
訪問時の所属機関 大阪大学 大学院基礎工学研究科 訪問時の役職 助教

研究室を訪問し(図1)、助成対象研究の経緯や独創性、研究に対する考え方などをお伺いしました。

この研究を始めるまでの経緯を教えて下さい
 この研究でのコア技術は、物質界面の電子状態を励起に伴う吸収を測定することで明らかにすることができる分析手法「減衰全反射型紫外分光法」(以下、「ATR-UV」)です。この分析法の研究は、大学院卒業後に関西学院大学で研究をスタートして、現在までずっと継続しているものです。当初は、博士課程で研究していた光機能材料(光触媒など)を対象に分析研究を始めましたが、その後リチウムイオン電池の電解液としてのイオン液体の研究を進めてきました。
 3年前に大阪大学(福井研究室)に移って、電気化学的測定と組み合わせて電圧を印加した状態での金属電極とイオン液体の界面のATR-UVスペクトル測定「EC-ATR-UV」の研究を始めました(図2)。また、福井研究室では有機半導体とイオン液体を組み合わせたデバイスを扱っていたことから、今回の助成対象研究である高性能トランジスタ開発に向けた電極界面の電子状態研究を始めるに至りました。

この研究の独自性・優位性のポイントは何ですか
 有機半導体とイオン液体を組み合わせたトランジスタは、従来よりも2桁以上小さい電圧で動作するため低消費電力になることや、印刷で素子を作製できるので量産性が高く低コストなデバイスにできるなどの特長を持っています。この高い機能発現のメカニズムを明らかにするために、有機半導体とイオン液体の界面を原子間力顕微鏡(AFM)や赤外分光法で分析した研究報告はありますが、まだまだ未解明な点が少なくありません。
 本研究のATR-UVでは、電極界面からの分析厚さを100nm以下で制御して電気化学デバイスにおいて重要な電子状態を直接議論でき、測定結果を理論計算での電子状態と構造変化に伴う電子状態変化の推定結果と突き合わせることによってメカニズム解明につながる手法です。特に電気化学環境下で測定できるEC-ATR-UV法は私たちの研究グループ独自の手法で、他の研究には類を見ないものです。

研究成果はデバイスの実用化に向けてどの様に活かされるものですか
 この手法で、イオン液体の各種構造や有機半導体とイオン液体の組み合わせについて系統的に測定・解析を行うことで、どの様な構造や組み合わせが良いかを知るだけでなく、なぜ良いのかを理解することによって更に特性が向上できる新しい材料設計指針を構築することができると考えています。
 また、イオン液体はその難燃性・低揮発性などの特徴から、安全性と耐久性の高いリチウムイオン電池の電解液として有望で、この分析手法や解析からの知見はこの様な電解液の開発にも寄与するものです。

研究活動での面白さやうれしさを感じるのはどんなときですか
 例えば、図3の結果が出た時がその一つでした。目的に対して解析方法を構想して、自分で装置を組み上げて、電位を掛けた時に狙った変化が現れたときは、大変うれしいものです。また、必ずしも思った通りの結果でなくても、変わった現象が見られたときにそれを「面白いな!」「もっと知りたい」と思えることが研究を進める上では大事だと思います。

後記
 研究内容のお話を聴かせて頂いた後で、実験室を見せて頂きました。研究の主役である「ATR-UV」は市販機の改造に留まらず、分光器以外は一から作ったオリジナルの構成のATR-UV・EC-ATR-UVも向かい合って置かれていて、存在感がありました。その他にも電気化学測定用に改造したAFMや電極材料の蒸着機も手作りのものがあったりと、基礎研究を支える独自の機能にこだわった装置が多数並んでいました。田邉先生の曰く「自分たちの研究は、『良い分析手法の確立』」、と基礎研究に徹してはいますが、有機半導体やイオン液体の研究者との連携による実用化への道筋を描きながら、それに寄与する研究企画を立て進められていることが、お話を伺い理解出来ました。
 トランジスタの高性能化や安全・長寿命な蓄電池などのこれからの世の中に不可欠な新デバイスが、研究成果を基に発展していくことを期待しています。
(矢崎財団技術参与 池田実)