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2019/11/21

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
玉手 亮多
タマテリョウタ
リチウム二次電池、次世代二次電池、シリコン負極、バインダー、共有結合、シランカップリング、高分子、ブロック共重合体
ホームページ https://researchmap.jp/ryotatamate/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2018年度 奨励研究助成 新材料 横浜国立大学 大学院工学研究院機能の創製部門 PDF PDF
研究題名 活物質と高分子の共有結合を利用した高耐久電極の創製

訪問記

最終更新日 : 2019/11/21

訪問日:2019/11/01
訪問時の所属機関 物質・材料研究機構 エネルギー・環境材料研究拠点   訪問時の役職 独立研究員

研究室を訪問し(図1)、助成対象テーマの経緯や独創性、研究に対する考え方などをお伺いしました。

本研究の取り組み課題について教えて下さい
 リチウムイオン二次電池の高容量化方策の一つとして、負極の活物質(リチウムイオンを吸蔵/放出する物質)にリチウム(Li)吸蔵能力の高いシリコン(Si)を使うことが考えられています。従来の負極物質グラファイトは炭素6個に対してLi1個を層間に取り込むのに対し、Siは1個がLi4個以上と合金化して吸蔵することができるため、きわめて大きな電池容量の向上が期待できます。しかし、SiがSi-Li合金になると最大で約3倍体積が大きくなり、この大きな体積変化(図2)の際にSi粒子が割れて電極から剥がれ落ちるなどの問題があり、電池性能が低下してしまうため、活物質がSi主体の負極は実用化されるには至っていません。
 本研究ではこの問題に対して、活物質を電極につなぎとめている役割である高分子材料「バインダー」のSiをつなぎとめる力を強くすること(界面補強)によって、体積変化があってもSiが剥がれ落ちたりすることを抑制できるのではないか、との考えに基づいて研究に取り組んでいます。

「界面補強」において、この研究での独自性はどんなところですか
 「界面補強」によって劣化を抑制しようという考え方は他の研究にも見られるものですが、それらは水素結合など物理吸着によって補強しようとするものです。一方、本研究では「共有結合」を形成して界面補強するのがねらいです。Si表面と高分子バインダー末端を修飾して、共有結合を形成します。共有結合は、物理吸着より非常に強い結合であるため、活物質の体積変化で起こる電極の劣化を抑制する効果も強いと考えられます。(図3)

この「界面補強」法は、どの様に着想されましたか
 私は修士課程を卒業後、数年間企業でタイヤ材料の研究に携わっていました。実は、そこでの知識がこの研究の大きなヒントになっています。
 本研究助成申請時に所属していた横浜国大の研究室で渡邉先生とこのテーマを選定したときには、電池のことについては殆ど知りませんでしたが、深く調べていくうちにタイヤと電池電極は内部構造に共通点あることに気づいてきました。タイヤにおける「ゴム」と「フィラー」の構造は、電極における「バインダー」と「活物質・導電材」の構造に類似しています。そこで、タイヤでのゴムとフィラーの「界面補強」の技術を電極にも適用すれば電極での「界面補強」に繋がるのではないか、と考えたわけです。更に、タイヤで使っているフィラーはシリカ(SiO2)とカーボン材料、電池の電極はシリコン(表面は酸化しているので性質は似ている)とカーボン材料、と組成も類似しています。高分子はタイヤと電極では配合量は全く違いますが、電極のバインダーにもタイヤゴムで使われるものと同種の高分子が使われています。
 テーマを選定したときは企業時代の研究との関連は全く考えていなかったのですが、その経験が今回の研究に非常に役立っています。

5年間の企業活動から大学に戻られていますが、どの様な決断だったのでしょうか
 高分子理論物理の研究だった修士課程後の進路は、博士課程と就職とを迷いつつも企業に就職しました。企業では当然応用に向けた研究でしたが、3~4年やっていくうちに「やっぱり基礎研究がやりたい」という気持ちが強くなって大学での研究に戻る決心をしました。ただ、5年間の経験が活かせるよう、高分子材料の研究室を選んでいます。理論物理と応用研究を経験して今の基礎研究に至っていますが、広く高分子の世界を知れたのは大変良かったと思います。

基礎研究をやっていての面白さとはどの様なことですか
 セレンディピティと言われるような「思いもよらないこと」が見つかるのは、実験研究での面白いところかな、と感じます。といっても、「思い通りにいったこと」があまりないんですが(笑)。
 また、方向性が決まっていることを進める、というよりも自分の興味の中である程度自由に研究できる、ところが基礎研究の良さだと思います。

後記
 先月、旭化成の吉野彰さんがリチウムイオン電池の開発でノーベル賞を受賞したばかりで、今回の訪問ではホットな分野の研究についてお聞きすることができました。玉手さんも5年間の企業で研究経験がおありで、そのときの知見が大きく活かされた研究ということでも似ていると言えるかもしれません。「タイヤ」と「電池」という一見全く異なるタイプの二つのアイテムが、材料のミクロな視点で同じ構造に制御することによって、それぞれの性能向上に寄与できるという事実はとても興味深く、また基礎研究は広い領域へ効果を発揮する科学技術活動である、ということをあらためて感じました。
 既にタイヤの分野で自動車の環境性向上に実績のある玉手さん。今度は電気自動車の航続距離の向上で、将来の「モビリティ変革」に貢献してくれることを期待しています。
(矢崎財団技術参与 池田実)

著作文献紹介
  •  R. Tamate, K. Hashimoto, T. Horii, M. Hirasawa, X. Li, M. Shibayama, M. Watanabe “Self-healing micellar ion gels based on multiple hydrogen bonding” Adv. Mater. 30, 1802792 (2018).