» 助成金受領者 研究のご紹介 » 研究者の詳細

2020/10/08

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
大木 靖弘
オオキヤスヒロ
鉄、コバルト、ナノクラスター、金属クラスター、還元反応
ホームページ https://inorg.chem.nagoya-u.ac.jp/members/ohki/ohki-j-frame.html
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2019年度 一般研究助成 新材料 名古屋大学 大学院理学研究科 物質理学専攻(化学系) PDF
研究題名 分子性ナノ金属触媒の創製とエネルギー変換反応

訪問記

最終更新日 : 2020/10/08

訪問日:2020/10/01
訪問時の所属機関 名古屋大学 大学院理学研究科 物質理学専攻(化学系) 訪問時の役職 准教授

オンラインインタビュー(図1)で、助成対象テーマの内容や研究に対する考え方などをお伺いしました。

研究テーマの「分子性ナノ金属触媒」とはどの様なものでしょうか
 この名称は少し分かり難いかもしれませんので、「金属ナノ分子」と言い換えてみましょう。これが何なのかは研究紹介文の図に示していますのでそちらで説明しましょう。図の左側は従来からある「分子」の領域です。「分子」はその組成・構造が規定されていますが、これまでに発見された鉄のクラスターは最大でも鉄が8個(Fe8)でサイズは0.7nm程度です。右側の1.5nm以上の領域は「ナノ粒子」として知られていますが、原子数や構造に分布があり均一ではありません。この「分子」と「ナノ」の間にあたるところは、現在まだほとんど分かっていない未知の領域で、ここに対応するものを「金属ナノ分子」と呼ぶことにしました。私たちの研究はこの未知の領域を知るための第一歩となる化合物を生み出しつつある段階で(図2)、この助成研究でこの領域の開拓を更に進めていきたいと考えています。また、新たな展開となる金属元素の拡張[1]や選択的な合金化[2]に向けても、貴財団の研究助成支援により第一歩を踏み出しつつあります。

[論文1] Y. Ohki, K. Ishihara, M. Yaoi, M. Tada, W. M. C. Sameera, R. E. Cramer, “A dinuclear Mo2H8 complex supported by bulky C5H2tBu3 ligands”, Chem. Commun. 2020, 56, 8035-8038.
[論文2] K. Ishihara, Y. Araki, M. Tada, T. Takayama, Y. Sakai, W. M. C. Sameera, Y. Ohki, “Synthesis of Dinuclear Mo-Fe Hydride Complexes and Catalytic Silylation of N2”, Chem. Eur. J. 2020, 26, 9537-9546. (Hot Paper)

「金属ナノ分子」は触媒としてどの様な良さがあるのでしょうか
 バルクでは全く不活性な金でもナノサイズ以下になると反応性が発現することが分かっている様に、サイズは小さくなるほど反応性が高くなるという触媒としての利点があります。ただし、原子1つまで小さくすると分子中の金属はひとつずつでしか反応に関与できないため、吸着と反応を同時に起こしたり多数の電子の授受が必要な反応などは困難になってきます。
 逆に、大きくなると複数の金属を同時に利用できる部分が存在し、金属1つの分子ではできなかった複数の金属が連携した高度な反応を起こすことができる様になります。そのため、「金属ナノ分子」では、「ナノ粒子」より高い反応性で従来からある金属1つの「分子」より高度な反応を起こすことができるのです。

「金属ナノ分子」でどんな反応が実現可能になりますか
 将来に向けてねらっているのは「COからガソリン」の生成です(図3)。再生可能エネルギーの余剰電力などを使ってCOから液体燃料を合成できれば、極めて環境にやさしく貯蔵できるエネルギーを得ることができるわけです。実現はそう簡単ではない「夢」の技術ですが、既にその根拠となる知見があり、私たちはそれを進めるための技術のベースを持っています。
  ①バルク鉄はCO還元には向かないが、原子鉄はCOをCOに還元できる(Chen,Hu 2019発表)
  ②Fe、Coの触媒でCOと水素から液化炭化水素生成は工業化している(Fischer-Tropsch反応)
  ③鉄-硫黄クラスターでCOからメタンやブタンなどを合成(大木先生2016~18発表)
  ④複数の金属が関与する反応ができる「金属ナノ分子」を形成(本助成研究)
 ①②からはFe触媒でCOからCOを経て液体燃料ができることを示唆しています。そして、③ではCまでの炭化水素を生成できることを実証していますが、④を達成することによりC以上の液体燃料の生成が可能になると考えています。

大木先生にとって、研究の魅力とは何でしょう
 研究を通して「自分が思いついたアイデアを具現化できる」ことに生きがいを感じています。このことは大人になるまであまり自覚がなかったのですが、大学の研究者は自分の責任でアイデアを具現化できる数少ない職業の一つではないか思います。修士課程修了後は一旦企業で研究していたのですが、会社経験をしながら大学時代を振り返って、この研究への想いから大学の研究に戻ってきました。自分には合っていたと感じています。

若い方に伝えたい研究にとって大切なことは
 ものすごく一般論になりますが、「がんばること」です。仕事に限らないことですが、これまでを振り返ってみると一生懸命やってきたことは必ず身になっていますし、長い目で見ると何かの形で役に立ってきます。「一生懸命がんばる」って、今どき通用しないことばかもしれませんが、これが結構大事じゃないかと思っています。

今後、研究助成選考において重視すべき点は何だとお考えですか
 一つは、従来の学術分野を跨ぐ分野間融合の研究です。新しい科学技術を生み出すのには分野間融合は有効な手段の一つです。本研究においても、新規化合物の解析では物理化学系の研究者との連携が、反応では一見無関係そうな生化学の研究者と共に培ったノウハウが重要になっています。
 もう一つは、国籍を跨ぐ国内外の共同研究です。今後の日本の研究者が減少していくのは人口動態から明らかです。アジアの優秀な学生に日本で活躍してもらい科学技術を発展させる戦略を持たなければ、日本は今後生き残れないでしょう。同時にそれらの学生が日本に来て生活できるシステムも同時に必要だと考えます。

後記
 新型コロナウイルス対策として、昨年まで続けていた研究室訪問をリモートインタビューに変更し、今回がその初めての実施でした。リモートで研究室の雰囲気をどれ程感じ取れるか少々不安でしたが、実験室の様子を写真で載せて下さるなど大変配慮して頂いた資料と丁寧なご説明によって、非常に理解が深まったとても良いインタビューでした。また、今後の研究助成の在り方について、ご自身の立場に留まらない日本の研究界の将来を考えたご意見が大変参考になりました。ありがとうございました。
 「COからガソリン」は社会的意義のあると大きな夢のターゲットです。本助成研究3年間でそのつぼみが更に膨らんでいくことを大いに期待しています。
(矢崎財団技術参与 池田実)

著作文献紹介
  • [Fe4] and [Fe6] Hydride Clusters Supported by Phosphines: Synthesis, Characterization, and Application in N2 Reduction, Ryoichi Araake, Kazuki Sakadani, Mizuki Tada, Yoichi Sakai, Yasuhiro Ohki, J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 5596-5606.
  • Co6H8(PiPr3)6: A Cobalt Octahedron Having Face-Capping Hydrides, Yasuhiro Ohki, Yuki Shimizu, Ryoichi Araake, Mizuki Tada, W. M. C. Sameera, Jun-Ichi Ito, Hisao Nishiyama, Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 15821-15825.