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2020/11/09

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
堀毛 悟史
ホリケサトシ
燃料電池、プロトン伝導、無機-有機複合材料、イオン液体、配位高分子
ホームページ http://www.horike.icems.kyoto-u.ac.jp
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2019年度 一般研究助成 新材料 京都大学 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点 PDF
研究題名 金属イオン含有イオン液体ネットワークによる無加湿プロトン伝導体の合成

訪問記

最終更新日 : 2020/11/09

訪問日:2020/10/21
訪問時の所属機関 京都大学 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点 訪問時の役職 准教授

オンラインインタビュー(図1)で、助成対象テーマの内容や研究に対する考え方などをお伺いしました。

今回申請した研究に着目したきっかけはなんですか
 固体内で水を使わずにプロトン(H+)を伝導させる研究の中で、温度を上げていくとある錯体結晶中で分子回転を始めて、水を使わずにプロトンが流れる機構を発見しました。これをイオン液体に応用して、金属イオンを入れることで、水を使わずにプロトンが流れる材料を作れるのではないかと着想し、今回の研究テーマを申請しました。

この研究の独自性のポイントを教えてください。
 燃料電池の動作温度を150度付近にすることで、その性能の向上が期待できます。動作温度が高くできない要因は、燃料電池の電解質に使用している高分子膜の耐熱温度が低いことです。この電解質はプロトン(H+)を伝導する役割を持っています。したがって、この電解質に耐熱温度の高く、プロトン伝導性をもつイオン液体を使うことを考えました。
燃料電池の電解質として利用するためには、イオン液体を薄い膜に加工する必要がありますが、粘性が低く、膜に加工できないという問題がありました。そこで、錯体化学(金属と分子をつなぐ化学)を使って、高いプロトン伝導性と薄い膜が作れる新材料の実現を目指しました。
アイデアとしては、イオン液体に様々な金属を入れることでイオン液体の分子を結合させ、膜(固体)にするというものです。通常だと膜になったことで高い伝導性が失われますが、うまく設計することで、伝導性を保ちつつ、膜を作ることができると考えました。(図2)
現在いろいろな金属とイオン液体の組み合わせを試しています。多くのイオン液体において、金属を入れた後の方が、プロトン伝導性が上がることを確認できています。これにより、機械的特性(膜を作る特性)と高いプロトン伝導体を両立できそうなことが今までの助成研究で確認されました。
さらによくするためには、プロトン伝導が高くなるメカニズムを理解する必要があり、大型放射光施設SPring-8を用いて、構造解析を行っています。また、シミュレーションも活用しながら、構造を理解しています。分析結果から、確かに金属とイオン液体が結合し、錯体ネットワークが形成されることを確認しています。

対象となる研究の応用領域を教えてください。
 リチウム二次電池からなる車と同様、燃料電池からなる車が長く注目されています。燃料電池は二次電池と比べ、普及という面で遅れをとっていますが、長距離走行ができるなどでメリットがあります。車載用燃料電池の課題はその動作温度が高くなると内部材料の性能劣化が起こるため、冷却用ラジエーターが必要なこと、またそれに伴い多くのPt触媒が必要ということなどがあげられます。
今回の助成研究テーマである、金属含有イオン液体を燃料電池の電解質に使うことで、動作温度を130-200度に上げることが期待できます。これにより、上で述べた課題の解決に貢献できます。また加湿器も不要となり、燃料電池デバイスの小型化も実現できます。

研究者を志したきっかけを教えてください
 配属された研究室での研究が面白かったのが一つの理由です。配属された研究室は、今の研究と近く錯体化学の研究室でした。基礎的な研究として、銀のような観測が難しい核を固体NMR(核磁気共鳴装置)という装置で観測するという研究でした。固体NMRという大型装置を使いながら、観測のため試行錯誤する面白さも感じました。また、研究室では、先生や先輩が海外に出て活躍している人が多く、海外とやりあえる職種として考えたとき研究者もよいと思いました。

先生の研究活動に対する考えをおきかせください。
 アメリカ、中国など、海外の研究者とやりあうには基礎研究で新しい発想をもって取り組み、その新しい考え方やコンセプトを提案し続けることが、日本の研究者のプレゼンスを示す最も重要なことだと思っています。

研究にこれから携わる学生に伝えたいこと
 学生には機会があれば、何でもやってみてほしいと思います。京大では、学部生が研究室にやってきてバイトを希望することがあります。彼らは最先端の研究機器にふれることができ、研究室では海外のスタッフと英語でディスカッションができる。さらにバイト代ももらえます。
このように学生には大学の良さを使い倒してほしいと思います。積極的に大学の先生にコンタクトをとり、大学で何ができるか把握して、キャリアアップしてほしいと思います。

後記
 インタビューでは、先生に研究内容の説明をわかりやすくしていただきました。先生のお人柄に誠実な印象を受けつつ、基礎研究に対する想いなど、研究への強い意志を感じました。矢崎財団では、独創性、新規性のある研究に助成をすることを目的としています。今後、日本だけでなく、海外を相手に研究成果を発信ながら、独創性の高い研究テーマとして、大きな成果が出ることを期待しています。
先生、海外と勝負できる研究に今後も多く取り組んでください。
(矢崎財団常務理事 砂山竜男)