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2020/10/28

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
小野 智司
オノサトシ
機械学習、変化点検知、異常検知、学習データ合成、教師信号、気象・海洋観測
ホームページ http://www.ibe.kagoshima-u.ac.jp/~ono/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2019年度 一般研究助成 情報 鹿児島大学 学術研究院 理工学域 工学系情報生体システム工学専攻 PDF
研究題名 異常検知や変化点検知における教師信号付き学習データの合成方式の提案

訪問記

最終更新日 : 2020/10/30

訪問日:2020/10/16
訪問時の所属機関 鹿児島大学 学術研究院 理工学域 工学系 訪問時の役職 教授

 研究紹介文にもとづき、助成対象となったご研究の詳細を伺いました(図1)。以下は主な質疑応答です。

ご研究を始めた契機はなんですか?
 助成研究を対象に説明いたします。きっかけは気象分野の研究者からの相談でした。地域気象観測システム(AMeDAS)では降水量、風向、風速、気温等を計測し、気象災害の防止・軽減に利用しています。観測点は季節を問わず安定的にデータが取得できる場所が選ばれていますが、まれに周辺地域の開発や観測点の移転、また機器の更新などによって観測データがわずかに変化する場合があります(図2)。気象メカニズムの正しい理解には上記変化の正確な把握が必要ですが、長期的な自然変動と人工的な要因による変動との識別が難しいという課題があります。そこで気象データにおける微少な変化点の検知にトライしました。

ご研究の独創性を改めてお伺いします
 人工知能やAIといった言葉を耳にされたことがあると思います。その中核を担う技術の一つが、データを基に規則や知識を学習し、現象や結果を推定する機械学習です。ネットワークやコンピュータ(計算機)の発展に伴い、大量のデータが容易に活用できるようになったために深層学習と呼ばれる技術が急速に発達し、様々な領域で活用されるようになってきました。人間では到底処理しきれない大量のデータを学ぶことで、人間には判別しづらい少しの変化も判別することができます。データの学び方には種類があり、例えば「信号の色が変わった」、などの様に変化点を教えるデータ(教師信号付き学習データ)を用い学習する方法を『教師あり学習』と言います。教師信号を付加する手間が増えるため、最近では『教師なし学習』という手法が盛んに研究されています。これは正常な状態を大量に学習させ(正常な状態のモデル化)、そこから外れたものを異常だと認識させる技術です。
気象データの場合、教師なし学習では今回対象とするような微少な変化は周期的な自然変動の中に隠れてしまい、うまく検出できません。一方の教師あり学習では学習に十分な量の学習データを揃えられないという課題があります。そこで、教師付き学習データを人工的に合成し、教師あり学習をさせた人工知能(再帰型ニューラルネットワーク)で変化点検知を試みました。具体的には地理的に近く(数十km程度)にある観測点データをあるタイミングで分割しそれぞれをくっつけることで、擬似的に変化点を設け教師信号付き学習データを作成、それを学習させました。この人工知能を使い、学習に利用していない観測点の短い移転(1km程度)を検出できました(図3)。
このように類似したデータを分割・接合し、擬似的に変化点を設けることで教師データを作成し、学習させた研究例はなく、私達の研究のユニークな点であると言えます。

実用化されると暮らしはどう変わりますか?
 これまで検出の難しかったわずかな変化の検出から、機器の故障診断や病気の早期発見などに役立つと考えています。

研究者を志したきっかけを教えてください
 いわゆる勉強と研究の違いに気づくことができたからと思います。自分で言うのもなんですが、まじめな学生ではなかったと思います。子供の頃は発明家になって、自分の代わりに働いてくれるプログラムを作りたいと思っていました。転機は学部4年生の時でした。学会での発表や企業との共同研究を通じ、おぜん立てされた内容を網羅的に学ぶ勉強と、自らが道を開いて新しい発見をする研究の違いを知ることができ、その面白さを体験できたことが大きいと思います。

研究活動の面白さは何ですか?
 先ほどお話した自ら道を開くという点は面白さの一つですが、他にも創発的な発見(個々の要素の相互作用によって集団として予想以上の成果があがること)にあると思います。これは進化の過程によく似ています。よい親個体の組合せから、よりよい子個体が生まれる偶然と同じように、違う観点での様々な成果が組み合わさって、より良い成果が生まれるところが研究の楽しさだと思います。今回の助成研究も学生のアイディアがきっかけでした。お互いが触発され研究が加速するところに面白さがあると思います。

後進の方に伝えたいことは何ですか?
 特に情報系の学生に伝えたいのですが、博士前期課程修了時に企業に就職する選択に加えて、博士後期課程に進んで研究をつづける選択肢も検討してみてはと思います。情報系であれば博士を取得しても企業への就職に困ることは少なくなっており、何にも縛られず自らの興味の赴くままに研究に取り組める3年間は、今後の人生ではまたとない最高の時間になると思います。

後記
 コロナ禍でのオンラインインタビューとなり、画面を通じたコミュニケーションの便利さと、直接お会いできる頃には感じなかった、空気感を理解する難しさを感じました。研究活動の面白さとして先生が挙げられていた創発性は学会などでもよく起こるそうですが、オンラインではなかなか期待できないそうです。この空気感のようなものも、将来の人工知能では検出できるようになり、オンラインコミュニケーションの形も変化するかもしれません。先生のご研究成果が人工知能の研究に新しい潮流をもたらすことを期待しております。

(技術部長 鳥越昭彦)