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2021/07/26

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
本間 格
ホンマイタル
リチウムイオン電池、レアメタルフリー電池、コバルトフリー電池、有機電極材料、有機レドックス分子、高エネルギー密度蓄電池、電気自動車、脱炭素、リサイクル電池、安価大型蓄電池
ホームページ http://www2.tagen.tohoku.ac.jp/lab/honma/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2020年度 特定研究助成 東北大学 多元物質科学研究所 PDF
研究題名 有機電極材料を利用した高エネルギー密度・レアメタルフリー型リチウムイオン電池の開発

訪問記

最終更新日 : 2021/07/26

訪問日:2021/07/14
訪問時の所属機関 東北大学 多元物質科学研究所 訪問時の役職 教授

オンラインインタビュー(図1)で、助成対象テーマの内容や研究に対する考え方などをお伺いしました。

先生の研究を簡単に説明してください。
 私は、レアメタルを使わない電池の研究を行っています。具体的には、Mg電池、Mn電池などの無機材料を用いた電池と有機材料を電極に用いた電池です。今回の矢崎財団の助成では、有機材料を用いた電池の開発で応募をしました。
 リチウムイオン電池は2019年に吉野先生がノーベル賞を受賞した電池です。これには、リチウムやコバルトといった希少金属を使っており、1980年にプロトタイプが発明されてから、これらの材料は大きく変わっていません。この理由は、コバルトという材料が非常に高いエネルギー密度と安定した充放電特性をもつ材料であるからです。
 一方、将来においては、電気自動車、携帯電話などの増加により、これらの希少金属の供給不足という危惧や昨今のSDGs(持続可能な開発目標)などに対応した電池が必要になると考えました。有機電極材料は二酸化炭素やバイオマスから合成できる可能性があり、社会的に意義のある電池と考えています。

この研究の独自性のポイントを教えてください。
 有機電極として、有機レドックス分子を使います。今までのLiイオン電池の電極材料(例えばLiCoO2)は1つの金属元素(コバルト1つ)あたり0.5個のLiイオンを貯蔵しますが、実用化できそうな新材料でも1金属元素あたり最大1個です。有機電極材料、例えば、TKCH(3,4,5,6テトラケトシクロヘキセン)という分子では1分子に4個のLiイオンを貯蔵することができるため、エネルギー密度を格段に大きくすることが期待できます。
 しかし、有機電極電池にも課題があります。TKCHのような材料は、有機電解液への溶解性が高く、また、導電性がないことです。そこで、溶解を防ぐため、多孔カーボン材料を利用して、カーボンの細孔の中に有機電極材料を担持させて、安定化することを考えました(図2参照)。今までの実験結果から有機分子含有量が30wt%までは安定に電池の充放電ができることを確認しています。
 導電性の向上についても、導電性カーボンにより達成できます。また、昨年論文発表した研究で、2種類の有機材料をナノ結晶化し、それらを混ぜ合わせることで有機材料に導電性を付与できることを見出しています。これらの研究成果を組み合わせながら、全固体電池を超える性能を持つ有機リチウムイオン電池の研究を進めていきます。

実用化にむけて、これから取り組む研究領域を教えてください。
 実用化に向けて、この有機電極と固体電解質を組み合わせた全固体電池の研究も考えています。先ほどの有機電極の課題である電解液の溶解性を防ぐために、液体の電解液を固体(準固体)にすることで、根本的に溶解を防ぐというものです。これは次のステップとなりますが、有機電極を用いた全固体電池の研究を行いたいと考えています。
 溶解性の課題以外にも、電気自動車などでは、小型で大きなエネルギーを蓄えると同時に、瞬時に大電流を流す特性も要求されます。有機材料は金属材料に比べて密度が小さいため、同じエネルギーをもつ電池でも体積が大きくなること、大電流を流すためには、電解質の抵抗や、電極でのLiイオンの出し入れする速度を早くする必要となります。これらは引き続き研究が必要な領域と考えており、今後においても実用化を目指して研究を行っていきます。

研究者になったきっかけ、今の研究に取り組み始めたきっかけは何ですか?
 私の親が研究者でしたので、子供のころから研究者になりたいと思っていました。また、大学院生の時に、指導教授が知らないうちに助手のポストを獲得してきて、気づいたら大学の研究者になっていました。
 大学の学位は太陽電池で取得して、20代は太陽電池の研究を行っていました。転機は30代で、電子技術総合研究所(現在の産業総合技術研究所)へ移り、固体電解質燃料電池の研究に着手したことです。太陽電池の研究は、市場に普及する段階になったと感じていました。一方、燃料電池やリチウム電池などはナノテク技術が使え、今後様々なイノベーションの可能性があって魅力を感じました。これが今の研究を始めるきっかけとなりました。
 また、30代(1990年代)に初めて研究室を持った時には、ナノエネルギー材料グループという名称にしました。これは、このグループでナノテクとエネルギー技術を結び付ける研究をしたいという思いからで、今の研究のスタートラインとなりました。

研究の面白いところ、想いを教えてください
 教科書にない新しい現象を発見したり革新的なデバイスを創製することに面白さを感じます。リチウムイオン電池では負極であるグラファイトにリチウムが蓄えられることを1970年代に前半に発見した研究者がいます。この研究者は将来リチウムイオン電池の負極に使えるということは全く予想しておらず、その現象を見つけたことに大きな意義があると思います。個人的にはノーベル賞に値する研究者であると思っています。
 学生たちにもこのような研究者のことを良く知ってほしいと思います。先日の講義でも、カーボン材料でノーベル化学賞を受賞した日本人について話題にしました。カーボンナノチューブを発見した飯島澄夫先生も東北大学出身でノーベル賞候補と言われています。10年前には東北大学出身の飯島先生を学生たちも知っていましたが、昨今は知らない学生が多いとのことで残念に思います。我々は様々な研究者の研究成果に基づき新しい研究をしています。これらの研究成果について知ることも重要だと思います。

後記
 リチウムイオン電池は、電気自動車、携帯電話、ドローンなど将来大幅に使用量が増え、リチウムやコバルトなど、資源の枯渇による価格高騰などは、大きな課題となると思います。その中で、先生の研究は他の研究者と全く違う手法で取組み、大きな魅力がある感じました。また、先生の研究の課題を丁寧に説明していただき、その熱意により将来実現できるのではないかと思いました。多くの研究者がこの分野の研究を行っています。先生の独創的な切り口による研究で全固体電池を超える二次電池を実現してほしいと思います。研究の進展をお祈りしております。
(矢崎財団常務理事 砂山竜男)

著作文献紹介
  • 1.小林弘明、笘居高明、本間格、有機低分子を活かした高容量高出力型の水系蓄電デバイス   ープロトンロッキングチェア型有機二次電池ー、「化学と工業」第71巻企画特集号 2018年6月号、p.471-473、2018年
  • 2.本間格、笘居高明、有機レドックス分子を用いたスーパーキャパシタ、応用物理、第85巻 第9号、p.788-792、2016年
  • 3.Yuki Hanyu, Itaru Honma、Rechargeable quasi-solid state lithium battery with organic crystalline cathode、Scientific Reports、2, 453(2012)