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2021/06/11

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
根岸 雄一
ネギシユウイチ
ナノ物質、金属クラスター、自己組織化、光触媒、キラル触媒、導電性ワイヤー
ホームページ https://www.rs.kagu.tus.ac.jp/negishi/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2020年度 一般研究助成 新材料 東京理科大学 理学部第一部応用化学科 PDF PDF
研究題名 精密金属ナノクラスターを構成単位とするシステム機能材料の創製

訪問記

最終更新日 : 2021/06/11

訪問日:2021/05/24
訪問時の所属機関 東京理科大学 理学部第一部応用化学科 訪問時の役職 教授

オンラインインタビュー(図1)で、これまでの研究内容や助成テーマのねらいなどについてお伺いしました。

研究テーマにある「金属ナノクラスター」とその研究の概要について教えて下さい
 「金属ナノクラスター」は、金属原子が数個から数十個集合した1nm程度の大きさの物質です。このサイズは物質に機能を付与できる最も小さな大きさで、単に小さいというだけではなく同じ元素でできている通常のバルク金属とは全く異なる性質を示します。さらに構成原子数が1個変わっただけでも、全く違った性質になる特異な物質です。そのため金属ナノクラスターは新たな機能性材料として注目を集めています。
 私たちは、金属ナノクラスターについて3つの研究を進めています。
    ①金属クラスターを原子レベルで精密に制御する研究(図2上)
    ②目的に合わせて物質を高機能化する研究(図2下左)
    ③得られた物質を使ってエネルギー環境材料へ活用する研究(図2下右)
 よく言われる例えですが、①の原子レベルでの精密制御というのは、「地球が1mだとしたときに、人間が地球上にばら撒かれたパチンコ玉を全て数十個ずつにそろえる」ような難しさがあり、研究開始当初はこれを実現するのにかなり苦労しました。2005年頃から精密な制御ができる様になり、その結果、世界で初めてチオラートという配位子に保護された金クラスターを系統的に単離することができるようになりました。

金ナノクラスターからスタートして、②はどのように発展していったのでしょうか
 金は元々不活性の元素で安定しているため取り扱いやすいクラスターで、最初の研究には適していました。金だけでもクラスターの構成原子数を変えれば物性を変化させることはできますが、やはり一元素だけで出せる機能というのは限られています。学生時代に行っていた物理研究(真空中でレーザーを使って凝集させた金属原子の電子状態を解析)で得ていた合金クラスターでの複合効果の知見から、次に他の元素を導入することに取組みました。
 この研究では、金ナノクラスターの中心の1原子だけをパラジウムに置き換え触媒活性を向上させたり、特定の金原子を銀原子と置き換えホモ-ルモギャップ(エネルギー吸収帯)を制御できるようになりました。今では目的機能を出すためにクラスターを合金化するというのは当たり前になっています。更には3元素、4元素の合金クラスターを制御すること、同組成の構造異性体を分離すること、などさまざまな機能創成ができるようになってきました。

応用研究③の「エネルギー環境材料」について教えて下さい
 金属ナノクラスターは様々な応用が期待されるのですが、私たちが最も目指している応用は水素をエネルギーキャリアとした次世代社会の構築に貢献することです。そのために、水素を製造する「水分解光触媒」の創製や「燃料電池」の高機能化を考えています。これらのデバイスの中で反応を進めている中核は、金属ナノ粒子です。つまり、光触媒では半導体表面にある助触媒、燃料電池ではカーボンブラック上の白金ナノ粒子です。ですから、この高機能化がデバイス特性の向上に繋がります。私たちの高機能金属ナノクラスター技術を導入することで、これらの材料を更に高機能化できると考えています。既に水分解光触媒については、逆反応を阻止する膜を開発することで、水素発生を19倍にすることに成功しています。
 また、産学連携で自動車排ガス浄化装置の開発を進めています。開発した17量体の白金クラスターをそのままの大きさでアルミナ担体上に定着させて配位子を除去すると、従来使われている白金ナノ粒子よりも高い活性と高い耐久性を示すことが明らかになっています。

デバイス利用では特定の場所にクラスターを析出させたいと考えますが可能ですか
 それは今後のナノテクノロジーとしてとても重要な点です。並行して進めている研究では、外部刺激に応答して金属クラスターが合成されその場で結晶化する、という技術の開発にも取り組んでいます。基板の任意の場所に光を照射して、そこで金属クラスターを発生させ更に単結晶化させるということが可能です。

今回の助成研究のねらいについて教えて下さい
 私たちは2010年くらいから、金属ナノクラスターを連結させる技術に取り組みました。かなり苦労しましたが最近になって金属クラスターを1次元に連ねてナノワイヤーを生成することができる様になってきました。これを更に2次元、3次元で連結することによって、水素・酸素を生成する光触媒や高選択性の触媒、高効率な円偏向発光体などが実現できる可能性があると考えています(図3)。しかしながら、どうしたらねらいの結合をねらった角度で繋げられるのかを明らかにするのには、更に深い知見が必要になってきます。
 そのために今回の助成研究では、目的の構造体を形成するためにはどんな要因が必要なのか、構造が変わるとどう物性が変わるのかを明らかにすることで、目的に合った材料を作るための設計指針を得ることを目指して進めていきます。

根岸先生は、研究者を志そうと考えたのはいつ頃ですか
 実は研究室に入るまでは研究者になろうとは考えていませんでした。学生時代は物理実験で解析することが目的でしたが、オシロスコープ観測中に「この事実に気づいたのは世界中で自分が最初なんだ」と感じたことが転機だったと思います。その後、学会で著名な先生方が発表を興味深く聞いてくれて、「これが発見して報告すること」なんだと感じた時に、研究者で進んでいきたいと思いました。

自分しか知らないことを発見するために研究する、という感覚でしょうか
 そうですね。ただ、興味は研究すればするほど変わってきます。当初は物理実験で「調べる」ことをやっていたのですが、金属元素の集合体は同じ元素でできているのにバルク金属とは全然違うことが分かると、次は調べるだけじゃなくて「作りたい」と思う様になりました。助教時代は化学合成で「作る」ことに没頭しました。研究室を持つようになると、作ったもので社会に「貢献」したいという気持ちが強くなり、そこからは応用を視野に入れて社会課題を意識した高機能化技術の開発とその応用研究に取り組んでいます。

研究室ホームページの写真館から、とても楽しい雰囲気が伝わってきます
 ウチの研究室はみんな仲が良くて楽しくやっていると思います。他の研究室よりもコアタイムが1~2時間長いですが、それでも学生はコアタイムより長く活動しています。大変なことでも楽しいからこそできる、ということなんだと思います。と言っても誰しも挫折感を持つこともあるわけですが、「今はできないことがあっても、みんなこれからまだまだ伸びるんだよ」ということは良く話しています。これは私自身が研究室に入ったころから助教時代、さらに研究室を持ってからと、これまでの研究経験を通して感じていることです。

本日は貴重な研究内容を聞かせていただき、ありがとうございました。
(矢崎財団技術参与 池田実)

著作文献紹介
  • 1)"Thiolate-Protected Metal Nanoclusters: Recent Development in Synthesis, Understanding of Reaction, and Application in Energy and Environmental Field"
     T. Kawawaki, A. Ebina, Y. Hosokawa, S. Ozaki, D. Suzuki, S. Hossain, Y. Negishi
     Small, 2005328 (2021).
  • 2) "Alloy Clusters: Precise Synthesis and Mixing Effects"
     S. Hossain, Y. Niihori, L. V. Nair, B. Kumar, W. Kurashige, Y. Negishi
     Acc. Chem. Res., 51, 3114-3124 (2018).