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2022/09/15

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
大竹 研一
オオタケケンイチ
多孔性配位高分子、フレキシブル多孔性配位高分子、ゲートオープン挙動、選択的吸着機能、構造応答性
ホームページ http://www.kitagawa.icems.kyoto-u.ac.jp/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2021年度 奨励研究助成 新材料 京都大学 高等研究院 PDF PDF
研究題名 構造応答性を利用した超高選択的二酸化炭素吸着材料の開発及び実証

訪問記

最終更新日 : 2022/09/15

訪問日:2022/08/24
訪問時の所属機関 京都大学 高等研究院 訪問時の役職 特定助教

オンラインインタビュー(図1)で、助成対象テーマの内容や研究に対する考え方などをお伺いしました。

先生の研究を簡単に説明してください。
 私は、多孔性配位高分子(PCP/MOF)の研究を行っています。多孔性材料とは細孔というナノレベルの大きさの穴を持つ材料で、消臭剤や乾燥剤、ガス分離材料に使用されます。活性炭やゼオライトに代表されるこのような材料は、細孔の大きさがばらばらで、分子レベルでの構造制御が非常に難しいというものでした。
 私が研究するPCP/MOFは、金属イオンと有機配位子(有機分子)で構成されており、細孔の大きさが均一、単結晶を得ることが可能であること、その構造が柔軟性を有するという特徴をもっています(図2)。そして、金属イオンと有機配位子の種類や合成条件を変えることで構造設計が可能という特徴を利用して、新規物質の合成と物性の探索を行っています。

助成研究の社会的な意義を教えてください。
 化学プラントにおける化学物質の分離プロセスは大量のエネルギーを浪費する蒸留塔と呼ばれる設備で行われており、その分離に係るエネルギーは世界の消費エネルギーの10%程度と言われています。
 CO2に言及すると、混合ガスからCO2を分離する材料には、二酸化炭素と化学反応をするアミンやアルカリ性の水溶液といった材料がよく知られていますが、その分離プロセスには高温・高熱が必要で、低エネルギーで分離することは不可能です。
 低エネルギーでガスを分離する手法に、吸着分離法というものがあります。これは、物理吸着という弱い相互作用を利用したもので、材料の細孔内で選択的にガスを吸着し、その後脱離するものとなります。PCP/MOFにより、このような特性を持つ新規材料を創出することで、ガスの分離プロセスの省エネルギー化に貢献できることが期待できます。

助成研究の内容を教えてください
 PCP/MOFの一部の材料は柔軟な構造をもち、ガスの吸着により格子が開いたり、閉じたりして、細孔のサイズが変化します。図3にその構造の一例を示します。ガスが吸着する前は、格子が閉じてガス吸着が行えませんが、ガスの分圧がある閾値を超えると、吸着に伴って、格子が開いて細孔が大きくなり、多くのガスが吸着できるようになります。この特性を利用すると、大気中で選択的に狙ったガスを吸着させ、次に低圧にすることで、多くの吸着したガスを取り出して分離することが可能となります。
 そして、昨今、様々なガスの混合物からCO2のみを選択的に吸着する新しいPCP/MOFを見つけました。しかし、選択的に吸着する条件が、実用を考慮すると、多くの改善項目があること同時にわかりました。したがって、CO2吸着のメカニズム解明と材料特性の改善を行うため、大型放射光施設Spring-8を利用しながら研究を行っています。

研究の面白さを教えてください。
 新しい物質を創生するには、全く新しいアイデアで材料を作ることもありますし、既知の材料の一部を改良して作成することもあります。世の中で誰も作ったことがない材料を自分で作り出して、それが新規物質であることを確かめるとき、また、材料特性を解析したときにがっかりすることもよくありますが、何か予想と違う性質を示すとき、逆に予想通りにすごい吸着特性や選択性を確認してそのメカニズムを考えるとき、本当に研究の面白さを感じます。

将来やりたい研究はありますか?
 博士後期課程で中空錯体のプロトンダイナミクスの研究をしたとき、誰もが知っている水から新しい知見が生まれることを実感しました。また、ナノ細孔中の水の挙動というのが実は未解明な部分が多いということもわかりました。この経験から、ありふれた材料からでも見方を変えることで、面白い性質を発見出来たらいいなと思っています。
 そして、現在のPCP/MOFも、今は難しい構造体を作っていますが、もっと簡便な構造でできるようになったらとよいと思いながら、研究に取り組んでいます。

後記
 インタビューで、先生が理学部・理学研究科のご出身で、純粋サイエンス、純粋化学を視点とした研究を行いたいと伺いました。また、先生の新規物性の探索に対する熱い想いを感じることができました。
 将来の技術を支えるのは、先生のような研究が土台となっていると思います。今後も面白い研究を通して、未知な物性の解明してほしいと思いました。今後の先生の研究が将来大きく開花することをお祈りしています。

(矢崎財団常務理事 砂山竜男)

著作文献紹介
  • 関連論文:
    (1) Crystal Flexibility Design through Local and Global Motility Cooperation, Angew. Chem. Int. Ed., 60, 7030-7035 (2021)
  • (2) Guest-selective gate-opening by pore engineering of two-dimensional Kagomè lattice porous coordination polymers, Natural Sciences, 1, e10020 (2021)
  • (3) Transport properties in porous coordination polymers, 421, 213447 (2020)
  • 関連書籍:
    CO2の分離・回収・貯留の最新技術(仮) 第一遍第一章執筆
    2022年3月発刊予定 (株)エヌ・ティー・エス