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2022/11/07

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
近藤 美欧
コンドウミオウ
人工光合成、小分子変換、錯体化学、触媒化学、電気化学、光化学、結晶性フレームワーク
ホームページ http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/masaoka_lab/kondo/kondo.html
http://www.cfi.eng.osaka-u.ac.jp/assets/doc/seeds/associate_professor/039_KONDO.pdf

年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2021年度 一般研究助成 新材料 大阪大学 大学院工学研究科応用化学専攻 PDF
研究題名 高効率光-化学エネルギー変換に向けたπ集積型活性化結晶性ホストの創出

訪問記

最終更新日 : 2022/11/07

訪問日:2022/06/16
訪問時の所属機関 大阪大学 大学院工学研究科応用化学専攻 訪問時の役職 准教授

2022年6月16日、近藤先生にオンラインインタビューでお話しを伺いました(図1)

私にとっては研究タイトルが難しいので、まず研究の背景から教えて下さい
 植物の光合成はご存じかと思います。太陽の光を使って二酸化炭素(CO)と水から炭水化物を作る反応です。私たちが普段口にする食べ物もエネルギーになる化石燃料も光合成による炭水化物に由来していますが、人類がこの化石燃料を大量消費して環境問題になっていることはご承知の通りです。この環境問題の解決の一つの方法として、天然の光合成を模倣して燃料になる化合物を人工的につくろうとするのが「人工光合成」です。今回の助成研究テーマはこの「人工光合成」につながる研究になります。

人工光合成でも炭水化物が作れるのですか
 植物が炭水化物を作る反応はとても複雑で難しいため、現時点の人工光合成ではより簡単な小分子の合成を対象にしています。反応でできる代表的な物質としては、
    水の分解によってできる「水素」
    COの還元で「メタノール(CHOH)」
    窒素の固定化反応で「アンモニア」
などを生成することが可能です。これらは燃やせば燃料となりますし、水素を取り出して燃料電池での発電にも利用できます。
 実際の反応は酸化反応と還元反応に分かれていて、メタノールの場合この様な反応になります。
    2CO + 4HO → 2CHOH + 3CO
    還元反応: CO + 6H + 6e-  → CHOH + H
    酸化反応:   2HO          → O + 4H + 4e-
 酸化反応で電子(e-)を取り出して、この電子を還元反応に使うことによってメタノールなどが生成します。これらの小分子変換反応には必ず触媒が必要で、人工光合成の達成において触媒が非常に重要な要素になります。

光合成の触媒を設計するには、どの様に考えるのでしょうか
 天然の光合成に倣うのが良いと考え、実際の植物が持っている触媒の機構を参考にしています。天然の光合成触媒の構造は非常に複雑ですが、「3つの機構」が重要であることが分かっています(図2)。一つは性能の良い触媒中心を持っていること、二つ目には触媒中心でできた電子を伝達する機能があること、三つ目は活性中心の周りが反応に適した構造になっていることです。
一つ目の「性能の良い」というのは、どの様な性能になるのでしょうか
 ここでの性能は反応速度が速いということです。天然の光合成では、酸化反応で1秒間に400回くらい酸素を生成しています。
二つ目の「電子伝達」は、その電子を次の反応で使うためですか
 もちろんそれもありますが、酸素発生反応だけで考えても電子が反応場から外に出ていかないと反応が平衡状態になって進まなくなってしまうため、電子を外に移動させることが必要なのです。
三つ目の「適した構造」とは、どの様な構造ですか
 この反応は、COの還元反応を水中で行うことが重要と考えています。還元反応にはプロトン(H+)が必要ですが、水は最も環境にやさしいプロトン源だからです。しかし、それには一つ問題があります。COの還元よりも水の還元の方が起こりやすいということです。そのため、COだけが入ることができて水が入ることのできない空間、つまり疎水性の反応場を持った構造が必要です。

この三つの機構を一つの触媒に持たせるのは難しそうですね
 私は従来から「集合」ということに着目して研究をしてきました。分子一つではできない様な機能を、分子を「集合」させることによって発揮するという考え方です。図3左に示す様な触媒活性中心に分子同士をつなぐコネクタの機能をする部位を付加すると、自己集合によって図3右の井桁の様なフレームワーク状の構造ができます。この様な構造の物質を、「π集積型活性化結晶性ホスト」と呼んでいます。
 今回、触媒活性中心にはCO還元触媒として機能することが知られている鉄ポリフィリン錯体を、コネクタ部位にはピレンという疎水性の化合物を使っています。このフレームワーク構造は更に重なり合ってピレンで囲まれた疎水性の穴を多数持った構造を形成します。

触媒の反応性を評価する実験も行っているのですか
 フレームワーク構造を取らない触媒に対してフレームワーク構造の触媒性能を、電気化学的反応で比較する実験を行いました。反応の収率、反応速度、反応の選択性のすべてにおいてフレームワーク構造を取る触媒が上回る非常に良い結果が得られました。今回の助成研究の目的は、光を駆動力としてCO還元反応起こすことですが、この性能評価実験を現在進めています。

「集合」触媒を考えたきっかけは何かあったのですか
 学生時代と博士研究員のときは触媒ではなく機能性分子の研究をしていましたが、その頃から分子が寄り集まって新しい機能が発現するのは、学術的に面白いと考えて取り組んでいました。その後、分子科学研究所に入ってから触媒の研究を始め、そこで「集合」の考えと触媒が組み合わさって今の研究に繋がっています。

研究をやっていて「面白い」と感じるときはどんなときですか
 いろんな場面で感じますけど、やっぱりねらった通りじゃない結果が出たときです。当初想定した通りに結果が出たときは「良かった」とは思いますが、学生さんが突然ビックリするような「こんな反応が起きましたよ」と言ってくると、その発見から新しい研究の種が見つかって次の研究に展開していくがすごく面白いと感じています。

どうもありがとうございました。COと水と太陽光からできる燃料の登場、楽しみに期待しています。
聞き手:矢崎財団 池田

著作文献紹介
  • (論文)
    "Modulation of self-assembly enhances the catalytic activity of iron porphyrin for CO2 reduction"
    M. Tasaki, Y. Okabe, H. Iwami, C. Akatsuka, K. Kosugi, K. Negita, S. Kusaka, R. Mastuda, M. Kondo, and S. Masaoka
    Small, 2021, 2006150.
    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/smll.202006150
  • (書籍)
    「人工光合成のための機能統合型金属錯体触媒の開発」
    近藤美欧, 正岡重行
  • 「CSJカレントレビュー38 光エネルギー変換における分子触媒の新展開」, 日本化学会編, 化学同人, pp. 53–60 (2020). (ISBN: 978-4-7598-1398-2)