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2022/11/21

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
小野寺 桃子
オノデラモモコ
二次元層状物質、グラフェン、MEMS、ファンデルワールスヘテロ接合
ホームページ http://qhe.iis.u-tokyo.ac.jp/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2023年度 国際交流援助 材料・デバイス 東京大学生産技術研究所 基礎系部門
研究題名 二次元絶縁材料としての六方晶窒化ホウ素の品質評価
2021年度 奨励研究助成 新材料 東京大学生産技術研究所 基礎系部門 PDF PDF
研究題名 原子層とMEMSの組み合わせによる動的複合原子層の実現

訪問記

最終更新日 : 2022/11/21

訪問日:2022/08/26
訪問時の所属機関 東京大学生産技術研究所 基礎系部門 訪問時の役職 特任助教

オンラインインタビュー(図1)で、助成対象テーマの内容や研究に対する考え方などをお伺いしました。

先生の研究内容を教えてください
 私は、原子1個分ほどの薄さの膜・原子層を積み重ねて新しい物質を作る研究をしています。原子層が得られる材料を二次元層状物質といって、グラフェンやh-BN(hexagonal boron nitride)など多様な物質があります。二次元層状物質同士はファンデルワールス力で結合し、二次元層状物質同士を重ねたり、層と層の間の角度を変えたり、層の数を増やしたりと自由度が高く、多様な材料を生み出せる可能性があります。
 例えば グラフェン原子層1枚ずつがディラックコーンというバンド構造を持っていて、原子層を重ねるとバンド構造も重なり合って新たなバンド構造(モアレポテンシャル)が作られます。半導体であるグラフェンの原子層を1.05°ずらして重ねると超電導性を示すという報告がきっかけになって、世界中で積層の角度と物性の関係が研究されるようになりました。私たちの研究室でも、この材料の角度依存性に関する研究を行っています。

先生の研究の独自性は何ですか。
 二次元層状物質の研究の難しいところは、質の高い試料を作ることです。原子層の質が悪かったり、作業中の振動などの影響により所望の角度に重ならなかったりします。この問題を根本的に解決するため、1個のデバイスの中で角度が変えられたら理想的だと考え、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)により、原子層の積層時の角度制御方法を提案しました。MEMSというのは、ミクロサイズの変位を制御できる素子で、既存の技術ですが、これと原子層の積層を組み合わせた技術はまだありません。

研究の進捗状況はいかがですか
 テーマの準備段階として、2つの課題に取り組んでいます。1点目は、大きな原子層を作る技術、2点目はMEMSの表面上に原子層を転写する技術です。
 現在原子層は、セロハンテープの粘着面の上に二次元層状物質の結晶を載せて、粘着面同士を貼り合わせて、「機械的劈開法」と言う方法で結晶を薄く剥がし、これをSiO2基板上に転写して原子層を作成します(図2)。これは手作業で、一辺30μm程度の原子層が得られる程度で、大きな原子層を得る方法は確立されていないのが課題となります。
 私たちは、「機械的劈開法」を制御する因子がテープと考え、様々なテープで試し、あるテープで400μm以上の原子層が取れることを見出しました(図3)。この要因を考察すると、テープは基材と糊の単純な構造で、このテープは糊が特殊であったため、糊の作用だと考えています。機械的劈開法のメカニズムを解明するため、研究室内ではテープの引き剥がしを機械化して、基材や糊の条件など、どのパラメータがへき開の出来栄えを決めているのかを探る実験をしています。
 2つ目がMEMS上に原子層を転写して積層する技術です。積層も手作業で、代表的なものがスタンプ法です。これは、ガラススライドの上に粘着性のあるポリマーを載せて、原子層を1層ずつくっつけて持ち上げるという方法です。光学顕微鏡で位置を合わせながら持ち上げ、最後に別の基板に転写して完成です。
 私たちの研究室では、ポリマーとして塩化ビニール(PVC)に注目しました。PVCの特徴は原子層に対する吸着力が非常に強い点で、原子層の一部だけ持ち上げて、それを折ったり積んだりなど、今までできなかった3次元的な操作ができる点です。当初は食品用ラップを使いましたが、最適条件をみつけるために、可塑剤の比率と厚みの異なるPVCの膜を実験室で独自に作成し、転写温度、可塑剤の比率や膜厚による違いを検討した結果、PVC膜の厚みを変化させることで原子層の持ち上げ温度を変化させることができるようになりました。これを用いると、スタンプ法で積み重ねた原子層の上下をひっくり返すことができ、様々なデバイスが作成可能となります。

研究へのこだわりがあれば教えてください。
 私の研究の進め方は、修士から指導をうけた町田教授の影響を大きく受けているかもしれません。「研究者といいうのは、総合力だと思うから、面白いと思ったらやってみる」というスタンスで取り組んできました。これは何の役に立つんだろうな、と思って研究を進めると意外と面白い結果が得られたこともありました。また、ゴールが良く分からないことも面白いと町田教授に言われ、そんな町田先生のポジティブな考え方が、私の研究の進め方に影響を及ぼしていると思います。
 現在も、周りに優秀な研究者がたくさんいて、その中で自分が突出した何かを残せるかという自信がありませんが、何でも新しいことにチャレンジしたり、好き嫌いなく色んなところに飛び込んだりすることが私は得意なので、そういう強みを生かして研究者として、やっていければよいと思います。

研究で一番大事なことはなんだと思いますか?
 楽しいと感じることです。大学院生の頃、基礎研究をやっているとフィードバックがあまり無いので、社会に役に立つのか?と悩んだことがありましたが、“楽しい部分が何かあればいい“と指導され、「辛いけど何かの役に立つから頑張ろう」というよりは「楽しいからやる。いつか役に立てばいい。」と思うようになりました。また、「研究って楽しいね」と学生たちに伝えられたらいいなと思っています。

後記
 研究インタビューを通じて、先生が自分の研究を楽しそうに説明を頂き、前向きに楽しく研究をやれることの大切さを実感しました。層状物質という最先端な研究に対して、先生の前向きな研究への姿勢で、新しい知見により社会に役に立つ研究となることを大いに期待できるインタビューでした。今後の活躍を祈念しております。ありがとうございました。
(矢崎財団常務理事 砂山竜男)

著作文献紹介
  • 1. Momoko Onodera, Kei Kinoshita, Rai Moriya, Satoru Masubuchi, Kenji Watanabe, Takashi Taniguchi, Tomoki Machida, “Cyclotron Resonance Study of Monolayer Graphene under Double Moiré Potentials”, Nano Letters 20, 4566–4572 (2020).
  • 2. Momoko Onodera, Takashi Taniguchi, Kenji Watanabe, Miyako Isayama, Satoru Masubuchi, Rai Moriya, Tomoki Machida, “Hexagonal boron nitride synthesized at atmospheric pressure using metal alloy solvents: Evaluation as a substrate for 2D materials”, Nano Letters 20, 735-740 (2020).
  • 3. Momoko Onodera, Miyako Isayama, Takashi Taniguchi, Kenji Watanabe, Satoru Masubuchi, Rai Moriya, Taishi Haga, Yoshitaka Fujimoto, Susumu Saito, Tomoki Machida, “Carbon Annealed HPHT-Hexagonal Boron Nitride: Exploring Defect Levels using 2D Materials Combined through van der Waals Interface”, Carbon 167, 785–791 (2020).
  • 4. Momoko Onodera, Satoru Masubuchi, Rai Moriya, Tomoki Machida, “Assembly of van der Waals heterostructures: exfoliation, searching, and stacking of 2D materials”, Japanese Journal of Applied Physics 59, 010101-1-9 (2020). [Invited Review]
  • 5. Momoko Onodera, Miho Arai, Satoru Masubuchi, Kei Kinoshita, Rai Moriya, Kenji Watanabe, Takashi Taniguchi, Tomoki Machida, “Electrical Control of Cyclotron Resonance in Dual-Gated Trilayer Graphene”, Nano Letters 19, 8097–8102 (2019).
  • 6. Momoko Onodera, Kenji Watanabe, Miyako Isayama, Miho Arai, Satoru Masubuchi, Rai Moriya, Takashi Taniguchi, Tomoki Machida, “Carbon-Rich Domain in Hexagonal Boron Nitride: Carrier Mobility Degradation and Anomalous Bending of the Landau Fan Diagram in Adjacent Graphene”, Nano Letters 19, 7282–7286 (2019).
  • 7. Momoko Onodera, Fumio Kawamura, Nugen Tann Cuong, Kenji Watanabe, Rai Moriya, Satoru Masubuchi, Takashi Taniguchi, Susumu Okada, Tomoki Machida, “Rhenium Dinitride: Carrier Transport in a Novel Transition Metal Dinitride Layered Crystal”, APL Materials 7, 101103-1-5 (2019). [Chosen as an Editor’s pick]
  • 8. Momoko Onodera, Kei Kinoshita, Rai Moriya, Satoru Masubuchi, Kenji Watanabe, Takashi Taniguchi, Tomoki Machida, “Mid-infrared Photodetection Using Cyclotron Resonance in Graphene/h-BN van der Waals Heterostructures”, Sensors & Materials 31, 2281-2290 (2019). [Review Pater of Special Issue]