» 助成金受領者 研究のご紹介 » 研究者の詳細

2022/10/26

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
岸本 史直
キシモトフミナオ
固体触媒、ナノ空間材料、ゼオライト、天然鉱物、CO2資源化、オレフィン製造
ホームページ https://www.catec.t.u-tokyo.ac.jp/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2021年度 奨励研究助成 新材料 東京大学 大学院工学系研究科化学システム工学専攻 PDF PDF
研究題名 高選択的CO2転換を実現する天然由来の高機能触媒開発

訪問記

最終更新日 : 2022/10/26

訪問日:2022/08/10
訪問時の所属機関 東京大学 大学院工学系研究科化学システム工学専攻 訪問時の役職 助教

2022年8月10日、岸本先生にオンラインインタビューでお話を伺いました(図1)

岸本先生の研究の中心に位置しているものは何ですか
今回助成していただいている研究は、二酸化炭素を有用な炭化水素に転換する固体触媒を開発するものですが、私の研究の中心はこの「固体触媒」の研究開発になります。「固体触媒」というのは化学工業の心臓部だと思っていただければ良いかと思います。石油からプラスチックを作る過程では多段階の化学反応プロセスがあるのですが、それぞれのプロセスでは触媒が反応を引き起こすことで生成物ができていくわけです。
昨今、カーボンニュートラルに向けて積極的に取り組んでいかなければならない時代になっていますが、化学工業でカーボンニュートラルを達成していくためには、触媒開発は必要不可欠な技術です。今日ご説明する研究の反応は、二酸化炭素(CO)と水素(H)を反応させてメタン(CH)を生成するものですが、COとHを混ぜて放っておいてもCHにはなってくれるわけではありません。そこには反応を起こすための適切な触媒が必要です。
また、触媒には「選択性」というのが重要な性質です。COとHの反応の生成物はCHだけでなく、一酸化炭素や炭素がつながった化合物などいろいろな物質ができてしまう可能性があります。このような中でCHだけをどうやって「選択的」に生成できるか、というのがこれからの触媒開発の上で最も重要なことになります。

COを転換する反応で難しい点は何ですか
COは大気中のどこにでもあるもですが、その濃度は非常に薄くて0.04%程度しかありません。比較的濃い工場排ガスでも3~15%程度で、純ガスに比べかなり薄い濃度でしか存在していません。濃度が薄いということは、他の成分に邪魔されて反応しづらいという問題があります。COを濃縮する装置にかけて高濃度ガスを反応に使うという方法も取られていますが、濃縮するのにはエネルギーを消費しますので、希薄なCOをそのまま反応できることが望まれます。
この研究では、この希薄なCOを反応させるための材料として、天然の「粘土」を使って触媒開発をしていくのがキーポイントになります。

天然の「粘土」が触媒になるのですか
「粘土」は多層構造をしていますが、酸化物などを支柱としてその層間距離を制御すると非常に狭い空間を作り出すことができます。反応に程良い層間距離は2nm程度で、その空間に目的に合った金属粒子を挿入することによって選択性の高い反応場を形成することができます(図2左)。日本では非常に質の良い粘土が産出されるということもありますので、天然材料を使ってCOを変換するグリーンなプロセスを作っていきたいというのがこの研究のねらいです。

どの様な実験結果が出ていますか
この粘土を使った触媒は、CO濃度を0.5%まで落としても高濃度のときと同じように反応し、メタンに転換してくれることがわかりました。一方、同じ程度の空孔サイズを持ったナノポーラスシリカ(図2右)では濃度を薄くすると転換速度がどんどん落ちていってしまいます。おそらく「粘土」自体がCOを吸着しやすい性質を持っていて、薄い濃度でも次々とCOを捕まえて反応速度が落ちない触媒として優れた性能を発揮するのだと考えています。まだ、低濃度の限界は見えていないので、今後は大気の濃度での転換反応をトライしてみたいと思っています。

研究の中で、面白さを感じられる場面とはどの様なときですか
それは、予想しなかった結果が出たときですね。今回お話している「粘土」の話がまさにそれで、まさかこんなに薄い濃度のところまで活性を発揮するとは予想外の結果でした。助成申請では粘土の層間と選択性の関係を中心に考えていたのですが、今回の低濃度でも高活性となる結果の方が遥かにインパクトが大きいので、現在はこちらの方向に軌道修正して取り組んでいるところです。

今後の研究ではどの様な方向を志向されて行かれるのでしょうか
研究を社会的に考えるとやはりカーボンニュートラルに向かうことは重要だと考えていますが、大学の研究者としてより大切なのは、徹底的に基礎を積み上げていく研究を進めることだと思っています。これは学部4年の指導教官から、「華々しくなく基礎を徹底的に追及する」ということを教えていただいてから貫いていることです。

大気からのダイレクトなCO転換反応ができれば大きなインパクトですね。期待しています。
聞き手:矢崎財団 池田

著作文献紹介
  • (a) X. Qi, T. Shinagawa, F. Kishimoto, K. Takanabe, Determination and perturbation of electronic potentials of solid catalysts for innovative catalysis, Chem. Sci., 2021, 12, 540.
  • (b) F. Kishimoto*, K. Hisano, T. Wakihara, T. Okubo, Dense Integration of Stable Aromatic Radicals within the Two-Dimensional Interlayer Space of Clay Minerals via Clay-Catalyzed Deamination of Arylammoniums, Chem. Mater., 2020, 32, 9008.
  • (c) F. Kishimoto*, T. Wakihara, T. Okubo, Water-Dispersible Triplet-Triplet Annihilation Photon Upconversion Particle: Molecules Integrated in Hydrophobized Two-Dimensional Interlayer Space of Montmorillonite and Their Application for Photocatalysis in the Aqueous Phase, ACS Appl. Mater. Interfaces, 2020, 12, 7021.