» 助成金受領者 研究のご紹介 » 研究者の詳細

2022/08/01

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
田尻 武義
タジリタケヨシ
窒化ガリウム、結晶性エッチング、光ナノ構造、マイクロディスク共振器
ホームページ http://www2.w3-4f5f.ee.uec.ac.jp/wp/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2021年度 奨励研究助成 新材料 電気通信大学 大学院情報理工学研究科 情報・ネットワーク工学専攻 PDF PDF
研究題名 結晶性エッチングを利用した中空状の窒化ガリウムスラブの表面改善

訪問記

最終更新日 : 2022/08/01

訪問日:2022/07/21
訪問時の所属機関 電気通信大学 大学院情報理工学研究科 情報・ネットワーク工学専攻 訪問時の役職 助教

オンラインインタビュー(図1)で、助成対象テーマの内容や研究に対する考え方などをお伺いしました。

先生の研究を簡単に説明してください。
私は、シリコンフォトニクス、特に、微細な光デバイスの加工技術にかかわる研究を行っています。シリコンフォトニクスは、シリコン基板上に微細な光デバイスを集積する技術で、IC製造技術の特徴である安価で大規模に作れるコストメリットの大きな技術となります。これにより、新たな計算機、高度な液体分析、拡張現実による新しい表示デバイスなど、幅広い分野への応用が検討されています。
光デバイスの基本構造として、スラブ構造があります(図2)。スラブ構造とは薄い板のことであり、屈折率が低い材料と組み合わせることで薄い板の中に光を閉じ込めることができます。この構造を用いて光導波路、リング共振器、光変調器などから構成される集積光回路が作製されています。そして現在は、可視光をキーワードに、透明な材料である窒化ガリウム(GaN)を使った微細なスラブ構造を実現するための研究を行っています。

助成研究の内容を教えてください
助成研究テーマとして、高品質なスラブ構造を実現することを目標としました。そのため、今までの光と溶液を用いた光電気化学エッチングという手法に、制御された波長の光を照射する新たな概念を加えて、GaN系材料を選択的にエッチングできる技術の開発に取り組んでいます。
GaN系材料のエッチングには、GaN結晶中の正孔(ホール)が寄与します。そこで、バンドギャップが狭いInGaNという材料を使うことで、正孔を局在させて選択的にInGaNをエッチングすることができます。
私は、従来のキセノン光から、InGaNの結晶中でのみ正孔が発生するような波長のレーザー光を用いた光電気化学エッチングにより、さらに選択性を向上させて、スラブ構造が作れることを確認しています。そして、作製したGaNスラブにより光共振器を作製すると、青紫波長域でQ値(単位時間あたり振動回数)が3900という長い光閉じ込め時間を達成できることがわかりました。
しかし、作製したGaNスラブ構造表面には凸凹があることがわかり、光が散乱することで、Q値が制限されている可能性がありました(図3)。助成研究では、表面の平坦化のため、結晶性エッチングという手法を用いて、そのエッチング溶液、GaNへの不純物ドーピング、光照射などの条件を調整することにより、表面の凸凹の改善を行っていきます。

研究の面白さを教えてください。
私が高校生になるまでに、情報技術の発展(例えばインターネット回線はADSLから光ネット回線になり、携帯電話、ゲーム機が自由に使えるようになったなど)を体験し、そのような技術を開発したいと思ったというのが潜在的な動機だと思います。
そして、高専生になって、初めて光に関する研究を行い、光と物質に興味をもちました。光の研究は、1800年代に電磁波の発見、1900年代にはレーザーの発明と、100年ごとに大きな学術的進展がありました。2000年代にはどんな進展があるのか、私自身が光の制御技術を研究しており、どんな寄与ができるのかと思いながら研究をやることに楽しさがあると感じています。

シリコンフォトニクスが実現した社会はどのように変わるのでしょうか?
現在、光技術では、メタマテリアル、フォトニック結晶など面白い研究が進められています。フォトニック結晶のような人工的な光構造の研究は、様々な応用分野で進展しています。例えばエネルギー分野における太陽電池では、光の変換効率は30%程度ですが、光構造を使うと大きく特性が改善するかもしれません。また、光構造と情報技術の進化が融合すると、拡張現実AR技術は人への新しいインターフェースという視点で、面白い技術の進展が期待できるかもしれません。これらの研究から、社会を変えるような技術が生まれると思っています。

学生に伝えたいことを教えてください。
今までの研究は、明確な課題目標を達成することで、成果が上げられました。これからは多様化がキーワードになると思います。目標設定から方法まで、様々な方法で研究を進めることが重要になります。このような時代では、今までにない発想が必要となります。学生には多様化の中、より良いものを見つける・考える能力を身に着けてほしいと思います。

後記
20世紀はシリコン半導体が社会を大きく変えた時代であり、21世紀は光技術が社会の進展に新たな変化を与える時代になると予感をさせてもらえる話を伺いました。その技術の一つが先生の研究しているGaNスラブであり、モノづくりの技術がキーであるということがわかりました。20年後には、新しい光デバイスが社会を大きく変革しているでしょう。今後の研究の進展をお祈りしております。
(矢崎財団常務理事 砂山竜男)

著作文献紹介
  • K. Shimoyoshi, S.Ukita, K. Uchida, and T. Tajiri, "Fabrication of deeply undercut GaN micro-disks by selective photo-electrochemical etching of thick InGaN/GaN superlattice" Ext. Abst. Int. Conf. Solid State Devices and Materials, pp. 646-647 (2021).