» 助成金受領者 研究のご紹介 » 研究者の詳細

2022/11/01

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
多々良 涼一
タタラリョウイチ
バイオ燃料電池、バイオセンサー、酵素、バイオマス
ホームページ https://www.rs.kagu.tus.ac.jp/komaba/index.html
https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?735A
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2021年度 奨励研究助成 エネルギー 東京理科大学 理学部第一部応用化学科 PDF PDF
研究題名 デンプンの全酸化を目指した多酵素型バイオ電極の設計

訪問記

最終更新日 : 2022/11/01

訪問日:2022/11/14
訪問時の所属機関 東京理科大学 理学部第一部応用化学科 訪問時の役職 助教

オンラインインタビュー(図1)で、助成対象テーマの内容や研究に対する考え方などをお伺いしました。

先生の研究を簡単に説明してください。
 私はバイオ燃料電池、特にその電極の開発を行っています。電極には酵素が担持されており、一般的な化学反応における触媒と同じ働きをしますが、その違いは、金属触媒では分解ができない複雑な物質を酵素により分解できる点にあります。また、一般的な燃料電池は動作温度が80℃以上で、+極と-極を分離するためにセパレータという部品が必要となりますが、バイオ燃料電池は常温、常圧で動作し、セパレータも酵素が特定の基質だけに反応することから不要であるなどのメリットがあます。したがって、将来性のある次世代の燃料電池だと言えます。私は多酵素電極を開発することで、バイオ燃料電池の高性能化を目指しています。

先生の研究の独自性は何ですか。
 私たちの研究室では、グルコースのような単糖類を使った燃料電池の研究を主に行ってきました。更に高電流化(高性能化)のため、単糖類ではなく多糖類を分解して発電する必要があると考えますが、それには系が複雑になるという技術的な課題があります。
 そこで、多糖類であるでんぷんを分解してグルコースにすることで、更なる大電流化を目指した研究を行ってきました。今までに4種類の酵素を用いることで可能であることがわかり、燃料電池電極として、これらを一つの電極に担持させる多酵素型電極の作成や、機能を維持しながら酵素を固定化する方法など、検討を行ってきました。

助成研究の内容を教えてください
 助成研究では、グルコースを酸化してCO2まで分解することで、更なる大電流化を目指します。そこで、先ずはでんぷんからグルコースに分解する酵素量の最適化を図ると同時に、グルコースを分解する酵素電極の研究を行います。グルコースを分解してCO2にする過程では、多くの酵素を電極に担持させる必要があります。その時に、酵素を電極に化学的に固定しますが、化学反応による酵素機能の失活と、固定が不十分の場合、酵素が電極から流出し、電気的コンタクトが失われて出力が得られなくなることを注意する必要があります。
 そこで、化学的な固定を用いない方法として、MgO-C(MgOの鋳型を用いてカーボン内部に細孔を形成したもの、図2参照)を用いて、酵素の物理的な吸着による固定をめざします。化学的な固定では、酵素の数だけ化学的固定方法を検討する必要がありますが、MgO-Cを用いた場合、物理吸着なので、化学的な反応がなく酵素機能の失活が防げると考えています。また、細孔の中に酵素を閉じ込めることで、酵素も固定され、流出を防ぐことも期待できます。

助成研究の社会的な意義を教えてください。
 バイオ燃料電池の応用には大きく二つあります。一つは生体内で動作するデバイスへの電力供給、もう一つは、農作物の糖類などを分解して電力を供給するというものです。生体内での電力供給では、リチウムイオン電池を電源とした場合、医療用機器を数年レベルで使うと電池切れが起きますが、バイオ燃料電池では、人間の血中にある糖から発電できれば、電池切れが起きないことになります。
 また、でんぷんなどの糖類ではなく、CO2を還元して作ったギ酸を原料にすることで燃料電池の起電力をより大きくすることが可能となります。同時に、ギ酸燃料電池は数百度の加熱を必要としていますが、バイオ燃料電池の場合、常温常圧で発電することができることになり、カーボンニュートラルにも貢献できると考えています。



研究者を目指したきっかけと研究者としてのこだわりを教えてください。
 ドクターコースの間にアメリカに半年留学する機会があり、帰国のときに留学先の教授に、博士号を取得したらもう一度ポスドクとして戻ってくることを誘われました。研究が面白く感じていたこともあり、研究者になることを決めた大きなきっかけだと思います。
 研究者としてこだわっていることは、「まじめに分析すること」です。私の論文の8割ぐらいは二次電池の論文ですが、電池の研究分野では、しっかりと分析をした結果を報告した論文は、有名なジャーナルに載らなくても多く引用してもらえます。引用されることは人の役に立つということなので、変にトリッキーなことをやらずに、何が起きているかをいろんな角度から分析することで、地味ですが人の役に立てると考えています。

後記
 先生のこだわりである、「まじめに分析にして、現象を解明する」、先生の人となりを感じる言葉だと思います。バイオ燃料電池は将来の技術ですが、生体内電源、バイオ燃料など現在の技術を大きく変える可能性があると思います。その時に先生の研究成果が大いに役に立つと感じました。これからも先生の論文が社会に大いに役立つこと、そしてバイオ燃料電池の実現に貢献できることを祈念しております。
(矢崎財団常務理事 砂山竜男)

著作文献紹介