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2023/07/20

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
金子 哲
カネコサトシ
界面構造, 単分子接合, 電子輸送特性, 電流―電圧特性, 表面増強ラマン散乱, 分子素子
ホームページ http://www.chemistry.titech.ac.jp/~nishino/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2022年度 奨励研究助成 材料・デバイス 東京工業大学 理学院化学系 PDF
研究題名 光増強場を利用した単一分子界面構造の特定と制御

訪問記

最終更新日 : 2023/07/20

訪問日:2023/07/12
訪問時の所属機関 東京工業大学 理学院化学系 訪問時の役職 助教

金子助教の研究室に訪問して(図1)、研究インタビューをさせていただきました。

助成研究の概要
 人工知能や機械学習等の情報処理技術の急速な発達により,電子素子の処理するべき課題は複雑化しています。そのため、効率よく問題解決をすることでエネルギー消費を節約する革新的な機能を持つ素子の開発は重要な課題の一つです。単一分子に素子機能を付与した分子素子は、素子サイズの減少により集積密度が飛躍的に向上することが期待できるため注目されてきました。しかしながら、スイッチとしての素子性能は現在利用されている素子に比べると劣るものでした。我々は分子素子が機能を発揮できていない重要な要因の一つとして、金属と分子の接続構造が曖昧であることに着目しています。そこで、我々は振動分光法と電子輸送計測の融合計測により物性と接続構造とを対応付ける手法を開発しました。その手法を用い、金属―分子間にどのような相互作用が働いた場合、どのように電子が輸送されるのかを研究してきました。本助成研究では、接続構造の解析手法を改良するとともに、金属と分子の接続構造を能動的に変化させることに挑戦します。ナノ空間で集約すさる局所光により、接続構造を変化させることで電気伝導度を変化させ、更にその状態を我々の手法で調べることで、動作性を評価します(図2)。今後、本助成研究を契機に接続構造の変化を動作機構に持つ光駆動の素子開発へと研究を展開します。

限界を超える
 ここ5年、10年で、IoTの活用やAIを用いた情報解析というものが急激に進んできました。手にする情報機器に注目すれば、私が高校生や大学生の時に比べても格段に進歩しています。今日のソフトウェアの発達により、半導体素子が発明された当初では想像し得ないほどの仕事を素子が担っています。対話型のAIを搭載したチャットボットは、イエスかノーではなく、気の利いた返答することが当たり前となりました。上記の変化を鑑みると、情報処理を担う回路もバイナリーな素子を基軸にした設計が適切かどうかということが問われていると感じています。また、単純に素子のサイズを小さくして、高集積化するだけでは、今後一層進歩する情報化社会を支えることは困難でないか、ということも、様々な場面で指摘されています。これらの問題を解決するためには、原理的に新しい動作機構や新しい機能を持つ素子を我々が能動的に作っていく必要があると思っています。我々は、分子素子という、分子にひとつの仕事を担わせるという考えに着目しています。分子素子のメリットは、まずサイズ的に分子一つというものが非常に小さいので、それを集積することによって高い計算効率が得られること、次に、作製プロセスが比較的低コストであること。そして、その分子に仕事をさせるために、分子にいろいろな官能基をつけることによって、それ自体に新しい役割を担わせることができるということです。官能基をつけた分子素子は、複雑で様々な電子状態を持ち、新しい人工知能的な素子としての活用が期待できます。更に、素子を分子のサイズにすると量子的な効果が生じることより、様々な興味深い現象の機能の発現が期待されます。以上の理由から、素子開発の視点のみならず、基礎科学的にも分子素子研究には重要な概念が潜んでいます。このような背景から、私は分子を小さい電極に架橋させた1分子系というものに着目しました。
 これまでの分子を素子として動作させた多くの研究は緻密な分子設計に基づき、分子の特性を反映しようとしていました。発表されている研究は単一分子に由来した機能を検出した点で素晴らしく、驚くべき成果であります。しかしながら、例えば、スイッチの例では変化量に着目すると、数十から百倍程度でまだまだ実用レベルには至っていません。これらの原因として、分子を電極金属に接続した際、相互作用により元の性質が変わってしまうことによると考えています。そのため、実際に分子を金属基板に接続した状態を想定した系として設計し、実際にその構造がどのようになっているかということをきちんと把握することが大事であると考えています。その状況を適切に評価するためには、単分子レベルで分子と金属の接続構造を評価することが重要であり、その手法を研究してきました。
 我々が開発した表面増強ラマン散乱(SERS)と電流計測を用いた手法では、実際に素子を利用しやすい、室温・大気中で、単分子レベルで金属-分子界面構造に関する情報を取得することができます(図3)。今後、基礎科学的な知見を積み重ね、大切にしながら、研究を進めることで、化学センサーや病理解明等につながる研究にも展開できるのではないかと期待しています。素子としての応用としては、ナノ空間に閉じ込められた空間分解能の高い光を用いる光駆動の記憶素子等への展開なども興味深いと感じています。

研究の面白さ
 ナノテクノロジーで物を作るということに関心がありました。私が学生の頃は、グラフェンなど、ナノテクノロジーの分野で多くのイノベーションがありまして、同じ材料でも小さくしていくだけで性質が変わるということに非常に興味を持ちました。まだ研究されていない既存の分子をナノサイズにするだけでも新しい科学が開けるのではないかと、学生ながらに思っていました。ナノ空間における物理現象は科学的に明らかになっていないことも多いですが、ナノテクノロジーは様々な分野で活躍しており、研究を進むめることで今後もナノテクノロジーの活用の幅が広がっていくと感じています。

学生に期待すること
 科学を楽しみながら自分で問題解決をする力を学んで欲しいと思っております。研究研究を通して出会う試行錯誤の中で、自分にしかできない一生に一度の経験を通し、成功体験を積み重ね、“こういうプロセスでアプローチすればこのようなことが起こるという”ことを学んでもらえたらと思っています。日々、指導の難しさを感じていますが、教員として、学生自身が少しでも多くの学びを得られるようサポートするよう心がけています。そのために、コロナ感染症の行動制限があり、コミュニケーションのとり方が変わってきましたが、利便性は活用しつつも、人と人が近づいて会話するという空気感を大事にし、研究に関する解釈や方向性に関して、できるだけ直接、近くにいて問いかけて、会話を通して自分の考えをシェアするように努めています。

著作文献紹介
  • 1. K. Yasuraoka, S. Kaneko, S. Kobayashi, K. Tsukagoshi, T. Nishino “Surface-enhanced Raman scattering stimulated by strong metal–molecule interactions in a C60 single-molecule junction” ACS Applied Materials Interfaces 13, 51602–51607 (2021).
    2. S. Kobayashi, S. Kaneko, M. Kiguchi, K. Tsukagoshi, T. Nishino “Tolerance to stretching in thiol-terminated single-molecule Junctions characterized by surface-enhanced Raman scattering” The Journal of Physical Chemistry Letters 11, 6712-6717, (2020).
    3. S. Kaneko, E. Montes, S. Suzuki, S. Fujii, T. Nishino, K. Tsukagoshi, K. Ikeda, H. Kano, H. Nakamura, H. Vázquez, M. Kiguchi, “Identifying the molecular adsorption site of a single molecule junction through combined Raman and conductance studies” Chemical Science 10, 6261-6269, (2019).
    4. S. Kaneko, D. Murai, S. Marques-Gonzalez, H. Nakamura, Y. Komoto, S. Fujii, T. Nishino, K. Ikeda, K. Tsukagoshi, M. Kiguchi, “Site selection in single-molecule junction for highly reproducible molecular electronics” Journal of the American Chemical Society 138, 1294-1300, (2016).