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2023/10/04

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
高橋 英史
タカハシヒデフミ
圧電効果、フレキソエレクトリック効果、トポロジカル半金属、超伝導、極性金属、振動発電
ホームページ https://qm.mp.es.osaka-u.ac.jp/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2022年度 奨励研究助成 材料・デバイス 大阪大学 大学院基礎工学研究科 PDF PDF
研究題名 新しい電気ー振動変換材料の創成の機能検証

訪問記

最終更新日 : 2023/10/04

訪問日:2023/06/13
訪問時の所属機関 大阪大学 大学院基礎工学研究科 訪問時の役職 助教

高橋先生の研究室に訪問して(図1)、研究インタビューをさせていただきました。

今回の助成研究の背景から教えてください
 研究室では固体無機材料を対象として、超高圧や真空下などさまざまな環境での合成手法を駆使して材料を作製し、電子デバイスに利用できる新しい機能を持った物質を創出することを目的として研究しています。私自身はこれまでに、熱電材料や超電導材料の研究に携わってきました。
 そのような中で最近、金属材料に交流を流すと結晶が振動する現象(圧電効果)が理論的に提案されました。絶縁体が電界によって振動する現象は広く知られていますが、これまで金属ではこの様な現象は起こらないとされてきましたので、この理論は驚きでした。私は一昨年からこの理論での現象が本当に起こるのかを確かめるために、これが起こりそうな物質を選定・合成し、計測できるシステムを組み上げてきました。そして、昨年にこの理論を実証できそうなデータが出始めたので、更に研究を進めるために助成申請したわけです。

どの様な物質でこの現象が起こりそうなのですか
 研究紹介文の図には、これまでに私が合成した物質の中で今回の現象が出る可能性のあるものを挙げています。その中で「トポロジカル半金属」と呼ばれるMoTe2やそれに組成が類似のダイカルコゲナイドについて検討しています。トポロジカル半金属とは、物質の電子の状態を表すバンド構造の価電子バンド(下側)と伝導バンド(上側)が点や線でつながった構造を持った物質のことを言います。ここ10年くらいで物性物理に関するデータベースが充実してきたので、これらの中から理論的にこの現象が起こりそうなものを選定して検討しています。現在は圧電効果をより大きくすることをねらって、別の物質を合成しているところです。

この圧電現象はピエゾ効果とは違う現象ですか
 圧電効果には結晶の空間反転対称性の破れに伴う「(逆)ピエゾ効果」と外場の非対称性により生じる「(逆)フレキソエレクトリック効果」の二つの種類があります。例えば「逆ピエゾ効果」は空間反転対称性が無い結晶の両端に対称的に電極をつけて対称な交流で結晶が振動する現象です。「逆フレキソエレクトリック効果」の場合には結晶の一端に点状の電極、他端に平面電極をつけ「非対称」な電場を与えることで結晶が振動します。絶縁材ではこの両方の圧電効果が認められていますが、トポロジカル半金属で起こるのは主に「フレキソエレクトリック効果」だと考えられます。

特異な量子現象が発現する物質構造として「反転対称性の破れ」が研究されていますが、この研究での物質はこれとは違いますか
 これは非常に重要な観点です。これまで一般的には反転対称性が破れていないと量子的な効果が発現しないと思われていましたが、私たちのこの研究は反転対称性が破れていなくても与えるエネルギーを非対称にすることによって同じような現象が起こる、という提案になります。つまり、結晶は対称性があろうがなかろうが関係ないので、物質選択の幅がとても広がるということです。

従来の圧電材料に対して、トポロジカル半金属での効果の優位性は何ですか
 圧電効果を利用すると環境振動を電気に変換することができます(振動発電)。このとき絶縁体は電気抵抗が高いため大きな電力を取り出せませんが、より電気抵抗の低い半金属なら電力が取り出しやすくなります。それによって、従来に比べると同じ振動からより大きな電力を取り出せますし、逆に同じ電力を取り出すのに発電デバイスの大きさを小型にできるということにもなります。また、電流密度が高いほど発電効率が高くなるので、小型化により適していると言えます。

大学の研究者を志したきっかけは何かありますか
 子供のころから理科は好きでした。中高生頃だと宇宙とか素粒子とかに興味があって、大学は物理学科に入りましたが、学年が進んでいくと物理学科って将来何をするのがいいか良くわからなくなっていました。そんな時に3年の学生実験でNMR測定があって、単純にコイル巻いてそこに塩みたいなものを詰めて測るだけなんですけど、物質に対応した信号が明確に出てくるのがとても面白かったんです。そこから「物性物理」ということを知って勉強していくと、「超電導」とか「対称性の破れ」と興味深くてやってみたいと思って大学院に進んで今につながっている、という感じです。

研究での楽しさや喜びを感じるのはどんなときですか
 何か達成したときや発見できたときが当然うれしいんですが、それまでの苦労が多いときは喜びが大きくなりますね。目的の物質がなかなかできない、装置のセッティングがうまくいかない、測定結果がきれいに出てこない、とかいろいろ苦労した末に「できた」ときは喜びが大きいです。
 作るのも測るのも何でも自分でやってみたい性分なので、学生のときに指導教官に「器用貧乏だね」なんて言われたこともありましたが、全部自分でやって苦労して達成したときは感動が大きいです。研究初期のころですが超電導の実験でゼロ抵抗が見えたときは、本当に感動しましたね。

著作文献紹介
  • H. Takahashi, T. Akiba, A. H. Mayo, K. Akiba, A. Miyake, M. Tokunaga, H. Mori, R. Arita, and S. Ishiwata
    "Spin-orbit-derived giant magnetoresistance in a layered magnetic semiconductor AgCrSe2"
    Phys. Rev. Mater. 6, 054602 (2022).
  • H. Takahashi, K. Hasegawa, T. Akiba, H. Sakai, M. S. Bahramy, and S. Ishiwata
    "Giant enhancement of cryogenic thermopower by polar structural instability in a pressurized semimetal MoTe2"
    Phys. Rev. B 100, 195130 (2019).
  • Y. Shiomi, T. Akiba, H. Takahashi, S. Ishiwata
    "Giant Piezoelectric Response in Superionic Polar Semiconductor"
    Adv. Electron. Mater. 201800174 (2018).
  • H. Takahashi, T. Akiba, K. Imura, T. Shiino, K. Deguchi, N. K. Sato, H. Sakai, M. S. Bahramy, and S. Ishiwata
    “Anticorrelation between polar lattice instability and superconductivity in Weyl semimetal candidate MoTe2”
    Phys. Rev. B 95, 100501(R) (2017).