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2023/11/10

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
田中 正樹
タナカマサキ
有機半導体、ラジカル、有機薄膜
ホームページ http://web.tuat.ac.jp/~nakamura/index.html
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2022年度 奨励研究助成 材料・デバイス 東京農工大学 大学院工学研究院 PDF
研究題名 高安定有機ラジカルの固体機能開拓

訪問記

最終更新日 : 2023/11/10

訪問日:2023/10/24
訪問時の所属機関 東京農工大学 大学院工学研究院生命工学専攻 訪問時の役職 助教

田中助教の研究室に訪問して(図1)、研究インタビューをさせていただきました。

助成研究の概要
 本研究では、有機ラジカル分子を利用して機能性薄膜を形成する手法を開発します。一般にラジカル種は不安定で反応活性が高いことが知られていますが、比較的安定で優れた発光特性を示すようなラジカル骨格も見出されています。これまでの私の研究で、従来のラジカルとは異なる安定ラジカル骨格に関する諸端を見出しており、また、このラジカル種の生成には分子の固体状態における紫外線(UV)照射が関係していることがわかってきました。UV照射により制御可能な高安定ラジカル種を用いて、薄膜の発光特性や帯電状態を制御することにより、次世代のエネルギーハーベスティングや有機電子デバイスへの応用を目指します(図2)。

安定なラジカルを設計
 有機半導体の光・電気物性の観点から有機固体の機能・物性を制御する研究を行っています。まず私自身の研究のバックグラウンドですが、有機半導体デバイス、特に有機ELデバイスの研究を行ってきました。有機ELは、最近ではスマートフォンなどのディスプレイなどによく使われています。有機ELの課題の一つとして、発光効率と耐久性の両立が挙げられます。有機ELデバイスの高効率発光により駆動時の消費電力を低減できるので、高い駆動耐久性を実現することで優れたディスプレイ用発光デバイスとなります。特に熱活性化遅延蛍光(TADF)分子は高い発光効率を示しますが、耐久性に課題がありました。このような背景から私は、TADF分子を用いた有機ELデバイスの劣化解析により劣化メカニズムを解明したうえで、劣化抑制のために材料面での対策を検討し、実際にデバイス耐久性を改善する研究を行ってきました。有機ELデバイスは、ITO透明アノード電極の上に、電荷輸送や発光機能を担う有機薄膜を多層に積層し、最後にAlなどのカソード電極を形成するサンドイッチ型の構造です。有機薄膜の厚さは100ナノメートル程度で非常に薄い構造となっているのが特徴です。発光メカニズムとしては、Alカソードから電子が、ITOアノードのから正孔が注入されて、発光層内で電荷再結合して発光します。
 研究を進める中で、デバイス劣化に伴って発光層内での電荷再結合が変化するのと同時に、本来発光しないはずの電子輸送層が発光していることに気が付きました。この時はなぜ発光するのかはよくわかりませんでしたが、最近の研究で実はラジカルが関係していることがわかってきました。ラジカルは不対電子を持つ状態のことで、通常は対になって存在する電子が一つ抜けた状態を意味します。ラジカル分子は基本的に不安定なので、発光材料などへの応用はこれまで検討されてきませんでしたが、2015年以降くらいから、トリス(2,4,6-トリクロロフェニル)メチルラジカル骨格が比較的安定かつ高効率な発光分子として応用できることが報告されてきました。私が見出したラジカル性の分子はこれとは全く異なる分子構造を有しているので、基礎学理の観点で新たな知見を得られるのではないかと期待しています。本研究ではラジカルの発生メカニズムを明らかにしていくと同時に、デバイス応用に向けた新たな分子設計の確立を目指します。

気になること
 修士課程修了後は一度民間企業に就職しました。アカデミックな研究寄りの業務を行っていて、研究所で実験をしていると日々気になることがたくさん出てきまして、これが研究者になりたいと思ったきっかけの一つでした。性格的に、気になったことはその都度明らかにしていきたいと思っていますが、企業での研究ではどうしても結果やスピードを求められるところがあり、すべてを解明していくには時間的な余裕がありませんでした。もちろんスピードも大事だと理解してはいますが、自身が気になっているこの日々の謎に向き合いながら研究したいという想いが強くなり、研究機関の研究者になりたいと思いました。

指導の難しさ
 学生の研究指導の際には、できるだけ自発的に研究を進めてもらえるよう促すことが大事だと思っているので、研究内容に興味を持ってもらえるような説明を心がけています。研究室に学生が入ってきた段階では何も知らない状態なので、学問としてわかっている範囲と未知の部分の線引きを明確にして、まだ誰もやっていないことに挑戦できる環境を提供していきたいと考えています。

著作文献紹介
  • Masaki Tanaka, Morgan Auffray, Hajime Nakanotani, Chihaya Adachi, Spontaneous formation of metastable orientation with well-organized permanent dipole moment in organic glassy films, Nature Materials, 21, 819-825 (2022).
  • Masaki Tanaka, Hiroki Noda, Hajime Nakanotani, Chihaya Adachi, Effect of Carrier Balance on Device Degradation of Organic Light-Emitting Diodes Based on Thermally Activated Delayed Fluorescence Emitters, Advanced Electronic Materials, 5, 1800708 (2019).