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2023/07/05

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
小野瀬 佳文
オノセヨシノリ
ヘリカル磁性、キラリティ、スピントロニクス
ホームページ http://onoselab.imr.tohoku.ac.jp/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2022年度 一般研究助成 材料・デバイス 東北大学 金属材料研究所 PDF
研究題名 ヘリカルスピントロニクスの開拓

訪問記

最終更新日 : 2023/07/05

訪問日:2023/06/28
訪問時の所属機関 東北大学 金属材料研究所 訪問時の役職 教授

小野瀬先生の研究室に訪問して(図1)、助成研究などについてお伺いしました。

助成研究の背景とねらいについて教えてください
 私は東大の十倉先生の元で物性物理を学び、その後もスキルミオン格子やマグノンホールなど元々は基礎的な領域での研究を進めてきました。ただ、今回の助成研究は隣の研究室で磁性薄膜の研究されている関先生との共同研究で、研究題目に「スピントロニクス」とあります様に、応用方面に一歩踏み出した研究として提案させていただきました。
 研究対象としているのは「らせん磁性体」といって、原子の磁気モーメントがらせんを描いている物質です(研究紹介文の図)。らせんの回転方向には右回りと左回りの2通りがありますが、結晶構造の対称性が高ければどちらの方向を取ることもできます。このらせん磁気構造は従来から知られてはいましたが、これまでの私たちの研究で金属磁性体において初めてらせん回転方向を制御することができるようになりました。また、関先生との研究では室温で動作するらせん磁性体薄膜「MnAu2」の作製に成功しています。
 このらせん磁気のふたつの回転方向をコンピュータのメモリビットの0と1に対応させてやれば、現在作られているMRAM(磁気抵抗メモリ)より高性能なメモリデバイスができる可能性があると考えています。今回の助成研究では、メモリデバイスとしてのらせん方向の書き込み法、読み出し法をこれまでより効率的なものにしていくことが目的です。

現在のMRAMに対する優位性はどの様な点ですか
 通常のMRAMでは強磁性体内に微細な磁石を作り、その磁化方向の上向きと下向きを0と1に読み替えてメモリとしています。しかし、磁石の回りには磁場が出ていますから、メモリの高密度化のために磁石のサイズを小さくしていくと隣の磁石にこの磁場が影響してきてしまいます。一方でらせん磁性体では磁性モーメントが回転していますので、らせん1周で磁場はゼロになり隣のビットには全く影響しないメモリビットになるわけです(図2)。
 また、磁性体の共鳴周波数によって読み書きの制御速度は律速されてしまいますが、強磁性体では共鳴周波数が数GHzであるのに対しらせん磁性体の場合は1~2桁大きいので(図2)、メモリの読み書きがより高速になる可能性があると考えられます。

制御方法の課題と新たな方法とはどの様なものですか
 現在の読み出し法は、らせん磁性体に交流電流を流してその周波数に対して2倍の周波数(2次高調波)の電圧を測定する方法で、技術的にはかなり難しいためデバイスの実用化には適していません。新たに考えている方法は、らせん磁性体上にスピンの蓄積情報を電圧に変換する機能がある白金を積層することによって、その抵抗を測定するだけでらせん方向の違いを判別できるかなり簡単な方法です(図3)。既に、らせん方向の違いで抵抗値が異なることを確認できていますが、本研究の中ではより大きな抵抗値変化が発現する方法を開発していきます。
 書き込みについては、今は磁場と電流の両方が必要ですが、強磁性体との組み合わせによって電流だけで制御できる方法を考えています。

研究者を志されたきっかけは何だったのですか
 やはり指導教官の十倉先生の研究室に入ったことが非常に大きかったと思います。その頃には、十倉先生は既に多くの優れた業績を残されていた高名な研究者でしたし、さらに研究室には同じ学生として大変優秀な人達が揃っていました。このような優れた研究者達の中で研究を行い、いろいろな刺激を受けたことが今につながっていると思います。

研究の楽しさ/面白さを感じるのはどんなときですか
 簡単に言うと、世の中の人が驚くような成果を出すために、研究戦略を一生懸命考えているときです。私は研究を始めるときには、いろいろ頭の中でシミュレーションしてみます。例えば、この物質に電流を流したらどうなるかとか、電場を掛けてみたらどうなるのか、とかいろいろ想像してみるわけです。もう研究のキャリアは20数年になるので、既に何がわかっていてどの辺りがまだわかっていないのかは大体頭の中にはあるのですが、そのまだわかっていない境界のあたりをどんな風に攻めたら世の中がびっくりするようなことが飛び出してくるのかを一生懸命考えるのが、とても楽しいことです。

学生さんへの指導において、どの様なことを大切にされていますか
 研究ではうまくいかないことも多々ありますが、そのときに次のステップについてよく考えることを指導しています。まだ経験の少ない学生では、最初の計画通りに行かないと思考停止になってしまって方針を見直したりすることが難しい場合があります。そこでは、ひとつ一つの結果や作業内容を見直してもう一度やり直した方がいいのか、別の方向に進んだ方がいいのかを冷静に考えることが大切です。このような研究における考え方を鍛えることが、大学院生活において重要だと思っています。
 このような場面において、教育の観点からは放っておいて自分で考えさせるのがいいという考え方もあるかと思いますが、私はなかなかそれができないので学生と一緒になって考えています。

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