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2023/08/24

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
藤田 貴啓
フジタタカヒロ
パイロクロア型酸化物、ヘテロ界面、フラストレート量子磁性体、創発磁気輸送特性
ホームページ http://kwsk.t.u-tokyo.ac.jp/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2022年度 奨励研究助成 材料・デバイス 東京大学 大学院工学系研究科 PDF
研究題名 量子磁性体酸化物ヘテロ界面における創発磁気輸送現象の検出

訪問記

最終更新日 : 2023/08/23

訪問日:2023/08/01
訪問時の所属機関 東京大学 大学院工学系研究科 訪問時の役職 助教

藤田助教の研究室に訪問して(図1)、研究インタビューをさせていただきました。

助成研究の概要
 「量子磁性体」と呼ばれる物質群における特異なスピン構造や磁気転移を、ヘテロ界面構造において電気伝導測定によって検出することを研究の目的としています。三角形や四面体を基調とした結晶構造を有する磁性体においては、磁気的相互作用の結果、結晶格子上に配置された磁気的スピンが局所的なエネルギーを同時に最小化できない場合が往々にして生じます。このような系は「幾何学的フラストレーション系」として知られ、興味深い「量子磁性」という性質を示します(図2、図3)。量子磁性体では、膨大な数のスピン配置が同一または類似のエネルギーで縮退したエキゾチックな基底状態を持つとともに、磁場を印加した際に生じる磁気転移がもつれ揺らぎや集団励起といった創発的な量子現象を引き起こします。それらの量子現象は、量子技術への応用可能性が指摘されていますが、一方で、量子磁性体の多くは絶縁体であり、移動する電荷キャリアを情報担体とする現状のエレクトロニクス技術に組み込むことが困難です。そのため、量子磁性体中に局在するスピンの状態を破壊することなく、創発的な揺らぎや励起を電気的に検出する方法の創出が大きな課題となっています。そこで本研究では、私たちが培ってきた高品質酸化物薄膜作製技術を活かし、典型的な量子磁性体として知られるパイロクロア型酸化物のヘテロ界面構造を作製することで、量子磁性体特有のスピン構造や磁気転移を界面創発磁気輸送現象として電気的に検出することを目指しています。

研究の着想
 量子磁性体中のスピンは、トポロジカル(幾何学的)に非自明と言われる特殊な構造を持っています。そのような特殊な磁気構造に対応する、仮想磁場もしくは創発磁場と呼ばれる磁場によって誘起されるホール効果をトポロジカルホール効果と呼んでおり、外部磁場に比例する古典的なホール効果と比べて巨大な効果が得られるということが最近の研究でわかってきました。これまでトポロジカルホール効果の研究は、金属の磁性体を中心に進展してきましたが、この研究には二つの問題点があると考えています。一つは、金属はキャリア密度が大きいことです。デバイスへの応用を考える際、半導体はキャリア密度の制御ができますが、金属ではそれが非常に困難です。もう一つは、金属磁性体として磁性と伝導性を単一の物質中に実現させるために、例えばキャリア密度を変化させようと化学置換を行うと、キャリア密度だけでなく磁気構造まで変わってしまうということです。そこで、電気伝導性と磁性を薄膜のヘテロ界面で機能分離させるということを着想しました。これまで培ってきた薄膜作製技術により、非磁性金属と磁性絶縁体のヘテロ界面を作製し、非磁性金属中の伝導電子が磁性絶縁体による創発磁場に感応して、界面でトポロジカルホール効果を生じるという研究を行っています。

薄膜化技術による世界初
 パイロクロア型酸化物が非常に面白い磁気的性質を示すということは、古くから知られていました。従来の研究はバルク試料を用いたものに集中しており、薄膜試料を用いた研究は未だに開拓途上ですが、我々は高品質なパイロクロア型酸化物ヘテロ接合試料を作ることに成功しました。この試料を用いて、量子磁性体の創発磁場の磁気転移をトポロジカルホール効果として世界で初めて検出しました。この結果は、創発磁場がヘテロ界面を伝播すること、そして磁場によってその向きを制御できることを強く示唆しています。今後は、ヘテロ接合構造の設計や対象とする材料系を変えながら、トポロジカルホール効果の大きさを決定づけるパラメータを抽出することで、今回観測に成功した界面創発磁気輸送現象の普遍性や発現機構を明らかにしていく予定です。そうした基礎研究を通して得られた知見を活かすことで、新たな量子磁性体の探索や、量子ビット等の量子技術応用に向けた研究を行いたいと思っています。また現状では、磁場をかけて創発磁場の向きを変えていますが、将来的には電場をかけて創発磁場の向きを変えることにより、新機能性素子への応用ができるのではないかと考えています。

研究を楽しむ
 自身もそうでしたが、研究が上手くいっている時は学生の皆さんは自発的に頑張ってくれますので、行き詰まっている時にアドバイスができるように心がけています。これまでの経験や先行研究などから、この方向に条件を振ってみてはと提案するわけですが、前例のない研究を行う以上、それだけでゴールにたどり着ける保証はありません。特に試料作製に関しては、実際に物質や装置と向き合っている当事者にしか分からないこともありますので、学生が自分で手を動かして、考えて工夫した方法でやれるようにサポートをしています。そうした試行錯誤を経て、世界で自分しか作れない物質や、自分しか知らない現象を発見することに研究の醍醐味があります。その過程を楽しみながら研究をして欲しいと思っています。