不破助教の研究室に訪問して(図1)、研究インタビューをさせていただきました。
助成研究の概要
重力波分野で蓄積した技術を活かした磁性体の機械振動を用いた磁力計の開発です(図2)。具体的には、軟磁性体球を懸架線で吊るしたねじれ振り子により、磁気異方性によって軟磁性体が磁場の方向に回転するときの回転角度を量子レベルで計測することを目指しています。さらに、浮上型機械振動という振動子を使い、他の物質と相互作用しないエネルギーや角運動量保存則が成り立つような研究を行うことにより、将来的には剛体の重ね合わせ状態に新しい量子ビットの実現を目指しています。
研究の目指す先
私が研究してるイットリウム鉄ガーネット(YIG)と呼ばれる物質は、外部磁場をかけることによって初めて永久磁石として振る舞うという軟磁性体物質です。助成研究においては、振動子の懸架線としてシリカファイバーをYIG球に溶融接合し、マイクロ波共振器の中で剛体運動を制御し、YIGのねじり方向を作ってその回転を計測するという、マイクロ波と結合することを目指した研究を行います。このマイクロ波を使ってスピンを励起する方法ですが、スピンによって剛体の回転を見た人はまだ誰もいないんですね。このスピン機械相互作用というのはまだ十分に確認できていない現象なので、最初にYIGのねじり振り子を使って、マイクロ波共振器と結合させて回転を計測することを提案していますが、最終的には浮かした系を目指しています。YIGはその浮上方法が知られてませんでしたので、私たちは有限要素法を使ったシミュレーションで一様な磁場の中に超伝導体のリングを置いてその中でYIGが浮くことを世界で初めて確認し、実験的にも世界で初めて実際にYIGを浮かせることに成功しました。量子状態は非常に脆弱なものなので、結合部分等でエネルギーの散逸があると観測が難しくなりますが、浮上型振動子を使うと接点が無いため観測が容易になるという利点があります。このYIGは、スピンの寿命がすごく長いこととスピンの密度が高いという特徴があります。また、このように浮かした系を作ると角運動量が保存するという特徴があるので、その剛体の回転などに情報を保存できればメモリとして作用するし、その剛体の回転運動が、磁場によって変わるので磁力センサにも使える可能性があります。特にマイクロ波共振器を使うと、YIGのスピンを介して例えば超伝導量子ビットと結合したりすることもできるので、YIG球をマイクロ波共振器の中に浮かせて簡単に回転を測定したり、剛体回転の重ね合わせ状態により超伝導量子ビットの情報メモリに応用したりできるのではないかと思っています。現状の研究では、量子メモリの動作時間がマイクロセカンド程度ですが、この浮上型振動子を使うことにより、従来のメモリと同等の動作時間を確保することを目指して研究しています。
応用の広がり
軟磁性体球を懸架線で吊るしたねじれ振り子は、低温まで冷やさなくても磁場の計測ができるので、長さ8センチぐらいの振り子を小型の真空容器に入れて、磁気探知機として船舶などの乗物に搭載することで、鉄管・砲弾・凶器・沈船などの埋没磁性体の探査への利用や、μHz~mHz の長期変動をモニターすることで、地磁気観測による気象変動予測に応用できる可能性があります。また浮上型振動子は、新しい研究分野となりますが、誤り耐性のある量子コンピューターや量子通信の両方に使えるメモリへの応用を考えています。
学生の育成
現在、私は3人の4年生を指導しています。心がけているのは丁寧な指導です。4年生は始めて研究室に来て何もわからないところから始めるので、最初は一緒に実験をやりながら丁寧にやり方など教えて、卒業研究の間でなにかしら1つ、本人の新しいアイデアを組み込めるようにしまた、徐々に自立を促せるようにと考えています。大学に来ている時点で高校までの全部与えられるだけの勉強とは違って、自分で調べて物事を進めていけるようになって欲しくて、与えられた情報をうのみにせずに自分で考えて選別していく感覚を身に着けてもらえたらいいかなと思っています。
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