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2023/07/28

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
髙田 昌嗣
タカダマサツグ
リグニン、リグノセルロース、木質バイオマス、熱化学処理、発光材料、フォトルミネッセンス、消光機構
ホームページ https://researchmap.jp/00872988tkd
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2022年度 奨励研究助成 環境・バイオサイエンス 東京農工大学 大学院農学研究院 PDF
研究題名 高機能発光リグニンの創製に向けた消光機構の解明

訪問記

最終更新日 : 2023/07/28

訪問日:2023/07/21
訪問時の所属機関 東京農工大学 大学院生物システム応用科学府 訪問時の役職 助教

高田先生の研究室に訪問して(図1)、助成研究などについてお伺いしました。

【助成研究の背景】
 今回の助成研究は、樹木の細胞壁構成成分の一つである「リグニン」を発光材料として利用することを目的としているものになります。私は京都大学農学部の森林科学科で学び、4回生の研究室配属から「リグニン」の研究に携わることになりました。その後の京大とブリティッシュコロンビア大学ではエネルギー材料への変換に関する研究に取り組んでいたため、それまでは機能性材料とは関わっていませんでした。2020年にカナダから京大に戻った際、職場に光化学を専門とされる先生がいたことからリグニンを発光材料にできないかと発想し、そこから始めた比較的新しい研究になります。
 樹木に代表されるリグノセルロースの細胞壁は、セルロースやヘミセルロースといった多糖類と芳香族高分子である「リグニン」から構成されています。多糖類はパルプや単糖への変換など様々な材料として利用されていますが、「リグニン」はその構造が複雑・不均一で詳細が分かっていないために、有効な活用法が見出されていないのが現状で、最も利用されている方法が「燃やす」ことなのです。せっかく植物が大気中のCO2を固定させて芳香族構造を作ってくれているのに、「燃やす」のが最適な利用法だというのはとてももったいない話です。そのため、より有効な活用法が提案できないかと研究を進めているところです。

【研究の着眼点】
 リグニンは芳香族高分子なので元々高いモル吸光係数を持っていて、紫外線を良く吸収するために紫外性吸収材としての応用は例があります。また、自家発光の性質があるので蛍光顕微鏡を用いたリグニン分布観察などの報告例はありました。発光材料としての研究はほとんどありませんでしたが、これらの性質をうまく引き出してやれば発光材料にできるのではないかと考えたわけです。発光特性をうまく制御できれば天然由来の機能性発光材料として、セキュリティプリントや微量センシング、バイオイメージング、波長変換材料など、ただの熱源として「燃やす」以上の高付加価値な材料に変換することが出きると考えています。

【これまでの研究について】
 発光特性の向上には、
   どうやったら良く光るか?     : 発光強度の制御
   発光色をコントロールできるか?  : 発光波長の制御
の二つの制御が課題です。これまでの研究で、発光波長は杉やブナ・ヤシ・イネなど「樹種」と様々な「抽出方法」を組み合わせることによって制御できることがわかってきました。また、発光強度については「溶媒」の特性(極性や粘度)とフィルム化するための「ポリマー」の性質(親水性、疎水性など)によって変わってくることがわかってきました(図2)。
 特に重要で興味深いのが「消光機構」です。リグニン溶液の濃度が高くなると蛍光強度が増加していくのは当然ですが、ある濃度以上になると逆に強度が低下してしまいます。これは発色団間距離が蛍光の強さに影響しているのだと考えています。

【本助成研究のねらい】
 これまでの研究から、リグニン構造とメディア(溶媒・ポリマー)構造とが発光特性に影響していることが分かりました。本助成研究では、これらの関係を数理モデル化することを目指します(図3)。これによって、メディア構造と発光特性が分かっていればリグニン構造を推測できたり、リグニン構造から目指す発光特性に対して適したメディアを設計することなどが可能になると考えています。現在、藻類や遺伝子組み換えで基本骨格を改変したポプラなど様々なリグニン構造を準備しているところです。

大学で森林学科に進学されたのは、やはり植物に興味があったからですか
 いえ、全くそういうわけではないんです。高校生のとき、電車の中で「木からプラスチックや液晶ができる」という中刷り広告を見て、「そんなことができるんだ」と非常に衝撃を受けました。調べてみると京大で森林科学科があることがわかって、受験しました。

カナダ留学では、研究活動で何か刺激がありましたか
 カナダでは日本と違うとても刺激的な経験ができました。日本の多くの大学では一つのラボに先生が複数人いていろいろな装置を保有していますから、所属している研究室の中で全てのことができる様になっていますが、カナダではPI(研究室主宰者)ひとりでひとつの研究室の体制なので、その研究室でできることはかなり限られています。ですから、実験や測定では回りのラボにいろんな装置を借りに行かなければなりません。そのためにはコミュニケーション能力が必要で、最初は戸惑いましたが非常に勉強になりました。また、借りるばかりではなくて「Masaは何ができるんだ?」って言われて、自分の強みについて振り返るきっかけにもなりました。

リグニンの研究で、楽しさ/面白さを感じるのはどんなときですか
 リグニンの研究には面白さしかないですね。今日は一例として階層構造で整理した説明をしましたが、リグニンは複雑で不均一な構造なので別の切り口で整理するとまた見え方が違ってくるんです。
 名古屋大学の寺島名誉教授がリグニンを「山」に例えられていました。「リグニンという山は見る角度によっていろんな形があって、登ってその構造を理解するにはいろんな登山道がある。いろんな人がいろんなアプローチをしている」と。まさにそうだと思います。おそらくその複雑さが虜になってしまう原因なのかなと思います 。

著作文献紹介
  • M. Takada*, Y. Okazaki, H. Kawamoto, T. Sagawa, Tunable light emission from lignin: various photoluminescence properties controlled by the lignocellulosic species, extraction method, solvent, and polymer, ACS Omega, 7, 5096-5103, 2022